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3話

 彼は大きなため息をついて「やれやれ」といったジェスチャーをしてみせた。


 「ま、無理だな」


 そっか、と納得する。最初からダメだろうな、とは思っていたから。

 彼らが人間を信じるのも友達になるという事もかなりのリスクを負う事になるのは安易に想像はできるし。でもやっぱりとてもショックだ。


 「人間はすぐそーやって『友達になろう』とか簡単に言うんだよなあ。僕たちにとってはそう簡単な問題じゃないんだ。ま、お前が良い人間なのはわかったけど……それでも色々あるのさ」


 良い人間、と言われ嬉しくなった。顔がだらしなく緩んでしまう。


 でも。


 ……友達にはなってくれないんだなあ……。


 「なぁ……このナスさ……一本譲ってくれないか?」


 小さな人が言いにくそうにもじもじしながらも私に問いかける。


 「あ、うん。いいよ。一本でいいの?」


 「うん、必要なのは一本だけなんだ」


 「ふうん? あ、でも持てるの? 重くない?」


 小さな人はキッと私を睨みつけた後、5つのナスビの内一番大きなナスビを軽々と担ぐと「余裕!」と得意そうな顔でにんまりと笑った。


 その姿があんまりにも愛らしいので帰したくなくなってしまう。

いやいや、そんな事をすれば嫌われてしまうし、折角良い人間だと言われたのに失望させてしまうに違いない。


 「お前、なんて名前なの?」


 「ん? 叶だよ~」


 「ほー。僕はイト。本当はさあ、姿を見られたら見た人間の記憶を消さないといけないんだけど、叶の記憶は消さないでおくよ。その変わり誰にも言わないで? 約束できる?」


 「いや……友達になってもらえないなら、いっそ記憶は消しておいて欲しいんだけど……」


 「ヤダ!」


 「えぇ? 人間があなた達の記憶なんて持ってたらロクな事にならないんじゃないの? それにもう会えないなら覚えている方が辛いよ。私、イトと会えて嬉しかったんだもの」


 「え? いつでも会えるじゃん」


 「え?」と私。

 「え?」とイト。


 「だって友達にもなってもらえないのに?」


 「友達にはなれないけど、会いに来るし、話もするよ!?」


 「えぇ~? なにそれえ? それって友達っていうんじゃないの!?」


 「違うよ! 僕たちは人間と友達になっちゃダメだから友達にはならないんだよ!」


 ……小さな人は人間と友達になっちゃダメなのか。だから例え私の事を良い人間だと思っても友達になる事はできないのか……。


 「……でも遊びに来てくれたりするの?」


 「来るよー。お前面白そうだし」


 「……お話ししたりもしてくれるんだ?」


 「人間の事は色々知ってて損しないからなー。人間の文化にも興味あるし」


 「……私、ここに引っ越してきたばかりでまだ一人も友達いないんだけど……困った事があったら相談とかしてもいい?」


 「おー! 僕は頼りになるぞ、お前よりずっと歳上だしな! なんでも相談乗ってやる!」


 力強く自分の胸とドンッと叩くイト。こんなに小さいのに凄く頼りになりそうだから不思議だ。

 

 「えへへ……そっかあ……」 

 友達じゃないとイトは言うけど、これって友達じゃん。誰にも言えないけど友達だよ。


 ――って。ん? 歳上? ずっと?


 「……イトっていくつなの?」


 「んー? 忘れちゃったなー。 でもたぶん三十四……五……三十六ぐらい?」


 オッサン!? 思わず声を出しそうになり、自分の口を手でふさぐ。いやいや、こんなどうみても子供にしかみえないのにオッサンとか嘘でしょう?


 「ま、人間年齢で言うと十五、十六歳ってとこ。オッサンじゃんとか思った?」


 私の心を見透かしたようにイトが意地悪そうに微笑む。もしかして彼らには人間の心がわかる能力でもあるのかもしれない。


 「思ってたんだ……? 叶、わかりやすいな。僕オッサンじゃないよ!」


 表情に感情は出ない方。わかりやすいなんて言われた事ないけどイトに言われるのは少し嬉しく思う。


 「ご、ごめん! じゃあ、同じぐらい、って事でいいよね?」


 「んー? それはちょっと違うような……まあいいか? いや、でも一応歳上だからな! 敬え!」


 クスリと笑ってしまう。イトの言動がいちいち可愛くて。

 こんなに自然に笑えたのって久々な気がする。


 「んじゃあ、このナス貰う。んで、庭まで連れってくれよ……ん? 僕と別れるの、名残惜しいの?」


 遠慮したのか五つのナスの内、一番小さなナスを選び背中に背負ったイトがニマニマしながら話しかけてきた。


 「うん。イトといるの楽しいからもっとお話したかったなーって」


  私は正直に答える。

 真っ赤になるイト。照れてる?


 「あ、そうそう! あの猫って……叶の猫なの?」


 「茶々?」


 「……茶々っていうのかあ……」


 「茶々がどうかした? あ! そうか、茶々がこの辺うろついてたら危ないよね? どうしよう……」


 「ん。もう大丈夫。さ、んじゃあさっさと庭まで連れてってくれ」


 大丈夫……なのかなあ?

 考えてみれば茶々以外にも危険な動物とかいそうなんだけど。動物どころか虫だって彼らには脅威じゃないのだろうか?


 そんな事を考えながらイトと出会った場所、ナスを植えているあたりまでイトを連れて来てそっと地面に降ろす。


 小さなイトが小さなナスを背負っている姿は大変愛らしくとても写メりたい気分だけど、そんな事をすればきっとイトはもう私とは会ってくれないだろうし、もしかしたら記憶も消されてしまうかもしれない。


 「ん? どした?」


 じっと彼を見つめてしまっていた私に、イトが心配そうに声をかけてくれる。


 「……あ……うん。足、大丈夫かなーって。歩ける?」


 「ああ、うん。ちょっとズキズキするけどちゃんと歩けるよ。叶のおかげ!」


 ニッコリと微笑むイト。ああ、ほんと愛らしい。




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