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13話

 闇夜に漂う美しいクラゲを見てから私達はしばし無言で闇を見つめていた。


 「ねえ、叶。今日は大事な話があってきたんだよ」


 いつもと違うイトの声。静かでとても落ち着いていて。でもいつもと同じ優しい声。

 勘のいい人間はきっと幸せになれないんだろうなあ、って思う。だって、私にはイトが何を言おうとしているのかわかってしまったから。

 

 ―― ああ、聞きたくないなあ……。


 「僕、叶、好きだなあ」

 

 涙が頬を伝うのがわかる。

 「私も。イトが好き。大好き。だから。お願い。それ以上言わないで」


 「嬉しいな。好きな人に好きって言ってもらえるのは凄く嬉しいものだよね。僕は、その言葉だけでいいや。叶が幸せになってくれたらそれでいいよ」


 「私はヤダ。イトと一緒に幸せになりたいよ……」


 「うん、僕も。でも、わかるよね? 僕達、人間とこんなに似てるのに全く違うよね。ずっと一緒にはいられないよ」


 「……イトは最初っからそのつもりだったの? 友達になれないって言ったのも、最初っから一緒にいられないってわかってたから……?」

 

 「記憶を消すつもりはなかったよ。人間の知人がいると便利だからね。……利用しようとしたんだ、人間を。でも。でもさあ! 無理だよ、知っちゃったら。好きになったら利用なんてできないよ!」


 イトがじっと私を見つめる。

 そんな苦しそうに笑わないでよ。私、涙が止まらないけど、イトは笑ってるのに泣いてるみたいだよ。


 「僕は好きな人には幸せでいてほしいよ。いつも傍にいてくれる人と寄り添って生きて欲しいし、いつも笑ってて欲しいんだ。だから……」


 ご め ん ね


 遠くで声が聞こえる。

 体がふわふわと浮いていてどこから声が聞こえるのかわからない。

 パタパタと羽音のような音と話し声が聞こえる。


 「この子の事、好きなの? まだ子供じゃない」

 「ん。好きだよ。今はまだ恋とか愛とかそーいうのじゃないかもだけど……これ以上傍にいると、ね」

 「そんなに気にいってるんなら一緒に連れてっちゃえばいいのに」

 「叶はまだ子供だからさあ。人生を左右する選択させるのは早すぎるよ」

 「だーかーらー! 無理やりつれてっちゃえばいいのに。……何笑ってるのよ。あーあ。つまんないなあ。……ホラ、終わったよ。これで次起きた時にはぜぇーんぶ忘れちゃってるよ」

 「む、ありがとう。……じゃあね、叶」

 「えー!? 別れの言葉そんだけ!? もっとこう! 熱い告白とかしなくていいの!? チューは? チューとかしなくていいの!?」

 「ん。だって叶が覚えてないだけでまたいつでも会えるし」

 「やぁだ~。なにそれ、せつない~。姿を見せる事もできず、会話もできず。それ『会える』って言える?」

 「ホラ、もう叶起きちゃうから行こう」

 「私、悲恋って嫌いだなあ……」



 目が覚めて、ぼんやりとした頭と妙に頭に残る夢に思いを馳せた。


 例えば、あの羽音が妖精だったとして。


 例えば、彼女がとても気まぐれでロマンティックで。


 例えば、消すはずの記憶を消さないでいてくれたり、薄紅色のビー玉のようなもの(たぶん魔法の薬)を私の手に握らせてくれたり……なんて事はあるのだろうか?


 さて。この薬を飲んでしまったら私は一体どうなるのだろう?

 ぱくり。

 もちろん、飲むにきまってるケドネ。


 薄紅色の魔法の薬は、その可愛らしい色からは想像もできない複雑な味がした。

 甘くて、苦い……ああ、これってまるっきり『恋』の味だわね。


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