10話
「ほんっと、馬鹿だよねえ。テスもそう思うでしょう?」大きくため息をついたのはリィナ。この可愛いイトコは人間の男なんかに恋をしている。決して報われる事のない恋なのに。
僕らは人間から『小人』と呼ばれる種族だ。
馬鹿なのは君もだ、言葉にこそ出さないが僕はそう思う。
村一番の美人、村一番頭が良くて度胸もある。更には村長の孫娘であるリィナは人間なんかを好きにならずとも村の男どもを選び放題だというのに。
「人間なんかに関わるとロクな事がないって言ったのはイトなのにさ……ズルイわよ……」
寂し気なリィナの横顔。うん、寂しいのだろう。
大好きな祖母が死に、仲の良い兄が家を出てしまったのだから。兄の名はイトという。
お盆にイトがナスを持ち帰ってきた。
なんでも人間の行事にはお盆の日にナスやキュウリで動物を模した物を作るのだとか?
それに乗って死者があの世から戻り、又、あの世に帰っていくとか……確かそんな感じの。
イトとリィナにとって祖母は特別だったから、帰ってきてほしかったし無事にまたあの世に送り出してあげたかったのだろう。
ナスをどうやって手に入れたかなんて僕は考えもしなかったけどリィナには何か感じる事があったらしい。
翌日からイトをこっそりとつけ回し、人間と仲良くしているのを目撃したそうな。
――五回目。大きなため息をつくリィナ。あ、また。六回目。
「なぁ……リィナ。君、どうしたいのさ? イトが人間と付き合うなら自分も人間と付き合いたいとでも言うつもりなの?」
僕は付き合いきれなくなって、半ば呆れ気味に言い捨てた。リィナはチラリと僕を一瞥しただけでまたため息をつく。七回目。
「……どうなのか、な……。最初から無理だって事は分かってたし。……分からないわけ、ないよね。私達と人間って同じようでいて全然違うもの。でもさあ」
八回目のため息。
彼女はまっすぐ前を見つめていた。
「どうにもならないのに好きになってしまうのよ。不毛だわ」
全く、恋というのはままならないものだ。
人間に恋する小人。人間に恋する小人に想いを寄せる僕。不毛だ。
「どうにもならないのが恋なんだろうさ……」
そしてお互い無言で前をぼんやりと見つめる。
風が頬をかすめ、草花の森を軽く揺らす。
そんな心地よい時間が過ぎた時、リィナがボソリと呟いた。
「イトはどうするつもりなのかな……」