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神官見習いの日常  作者: 伊代
一章
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一ノ七.絵美佳

 絵美佳ちゃんとは、幼い頃にとても仲が良くしていた。

 家の近所に年の近い女の子は彼女しかいなかったから、必然的ではあるけれど。

 うちの弟と同い年のせいか、一緒になってわたしを「おねえちゃん」と呼んで懐いてくれていて、三人で毎日のように遊んでいた記憶がある。



 わたしが引きこもりになってからしばらくの間も、彼女だけは家に遊びに来てくれていた。

 けれど、ちょうど彼女が小学校に上がる頃にはそれもなくなった。

 明るく活発な女の子だったから、学校で新しい友達が出来たんだろうなと、当時は思ったものだ。


 だからこうして顔を合わせるのは一〇年ぶりだけど、面影はちゃんと残っている。

 彼女の左目の下には少し大きめの印象的なホクロがあるから、余計にあまり変わっていないように見えるのかも。


 ただ、だいぶイメージは変わった。

 以前は長い髪をポニーテールにして、いつもワンピースのイメージで、女の子らしい感じだった。

 今はというと、ベリーショートの髪にダボダボのパーカー、それにマイクロミニのショートパンツという格好でかなりボーイッシュ。

 その外見通りの言葉遣いにもなっている。



「な、なんで絵美佳ちゃんがここに?」

「それはアタシの台詞だって。てかアンタそんなデブだった?」

「ひ、ひどっ! いや太ったよ。太りましたよ……」

「まー割と似合ってるけどな。ブサじゃないし」

「―――そ、そう?」

 これはもしかして慰められてる……?

 良く分からないけど、けなされてはいないよね……?


「あ、で。なんでココにいるのかって、そんなのアタシが知りたいよ。昨日の夜さー、バイト帰りに―――ほら、家の近くの公園あるじゃん? あそこでアイス食ってたら、なんかモヤーってしたのが見えてさ。もしかして幽霊でも居るのかと思って覗いてみたら、こんな変なところに来ちゃってさー。それから飯も食ってないんだわ。もうフラフラ。勘弁しろって」


 ―――ごめん、ごめんね絵美佳ちゃん。

 それ、どう考えてもわたしのせいだ……。




「里緒、彼女はあちらの世界の知り合いかい?」

 持ち場を離れたわたしを心配したらしいウトゥヌ様が顔を出した。


「うっわー! 何この人超絶イケメン! 成瀬の知り合い? ちょっと紹介しなよ」

「う、うん、この方はウトゥヌ様っていって―――って―――あ、あれ? 絵美佳ちゃん、ウトゥヌ様が見えるの……?」


「は? 何言ってんの。見えるに決まってんじゃん。―――あ。もしかして、この人幽霊!? やっぱアタシ霊感あったんだー!」


 いやいやいや。なにかカオスってる。

 頭を抱えてわたしに、ウトゥヌ様がクスリと笑う。


「里緒、彼女の目の下にあるホクロをごらん。何か違和感がないかい?」

「? 目立つホクロですよね。チャームポイントだと思いますけど。絵美佳ちゃんが小さい頃からありましたよ」

「そうだろうね。それは、生まれつきのもの―――彼女のイサだよ。この形は、確か海の女神ヴィエナのものだったかな」

「ええええっ!?」




「リオ、どうかしましたか?」

 穏やかな声に振り返ると、騒ぎを聞きつけたらしい神官長がいた。

 今日は祭りに合わせ、その地位に相応しい特別な長いローブをまとった姿はとても神聖なものに見える。

「神官長―――すみません、少し問題が……」

「そうですか。そちらの方を客室にお連れして、ゆっくりお話しなさい」

 そうだ、立ち話して良いような内容じゃなかった。反省……。




 それからお腹が減っているという絵美佳ちゃんにお客様向けのお菓子の中からボリュームのあるものを選び、飲み物と一緒に出してから手順を追ってゆっくり事情を説明した。


 この世界にやってきてしまったのは、ゲートの影響だということ。

 ウトゥヌ様が神であり、その姿が見える絵美佳ちゃんにはイサがあってヴィエナ神の神子候補であること。


 加えて、不足部分とわたしも知らない事実をウトゥヌ様が説明する。

 ゲートを通れたのは絵美佳ちゃんの素質のせいで、普通の人には見ることも通ることも出来ないこと。

 あちらとこちらの往来は問題なく可能なこと。

 そして最後に、神の伴侶の意味。



 わたしにとって伴侶という言葉は、結婚式での「生涯の伴侶とすることを誓いますか?」のフレーズしか印象になかった。

 だから当然「夫婦」という意味だと思っていたのだけれど「一緒にいる人」とか「仲間」という意味もあるらしい。

 ヴィエナ神は女神なのに、女の子の絵美佳ちゃんが神子候補なのはおかしいと思ったんだ。


 以前、わたしはヴィエナ神の神官長をしているミアーノという少女に出会った。

 彼女は「神子は伴侶というよりも対という言葉の方がしっくり来る」というような説明をしてくれていたのだが、その意味が今ようやく分かった。

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