表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神官見習いの日常  作者: 伊代
一章
3/26

一ノ二.降誕祭二

「ふぁー、今日もよく働いたー」

「細かい作業って肩凝るものね。お疲れさま」

「じゃ、わたしはこの辺で。オルリア、また明日ね」


 神殿では住み込みで働いている人が多く、オルリアも例に洩れない。

 けれどわたしは終業後は自宅に戻ることにしている―――というよりも、戻らないわけにはいかない。

 異世界の事情なんか全く知らず、わたしが普通のバイトしていると思っている家族が、日本でご飯を作って待っていてくれるから。



 人目がないのを確認し、こっそりと神殿の裏口から中庭に出る。

 薄暗くなった裏庭を横切り、そそくさと離れの倉庫へ向かうわたしは、不意に背後から羽交い締めにされた。口も覆われてしまい、声も出ない。

 そのまま茂みに連れ込まれ、後ろから抱き込まれるように引き倒される。


「んむー!!!」

「―――隙だらけですよ、里緒」

 耳元で甘くぞくりとする艶のある声を出すのは、よく知る相手―――ファレスだ。


「もう、こういうことしないでってば! 心臓保たないから!」

「静かに。声を出すと誰かに気付かれてしまいますよ?」

 うぅ、それは怖い。

 すっかりアイドル状態のファレスと親密だとバレてしまうと、神殿の女性たちに何を言われるか……。

 仕方なく小声でファレスを罵る。


「ファレスが悪いんでしょ!」

「こうでもしないと、あなたとの時間が作れないですからね」

 肩に顎を乗せたファレスが、きゅっとお腹に回した腕を強める。


「里緒はいつも良い匂いがします。それに温かくて柔らかい……あぁ、食べてしまいたい」

 さっきとは違った意味で背筋がぞくりとするんですが!!!


「―――ねえ、これってセクハラだと思うんだけど」

「せくはら……? それは何です?」

「あー、sexual harassment」

「……つまり、性的な嫌がらせだと?」

 ファレスの声が低くなった。機嫌を損ねたらしい。


「里緒は私に触れられるのが嫌なんですか?」

「えっ―――あ、イヤっていうか、日本人はあんまりスキンシップが得意じゃないの。相手がファレスだろうと誰だろうと、相手が家族や恋人でない限りは戸惑うものなの!」


「私は里緒の恋人候補です。それでもダメなのですか?」

「―――候補でも普通はしない……と思う」

「では私は普通でなくて構いません」

「いやいやいや、そういう問題じゃなくて―――」

「そういう問題です―――少し、静かにしませんか。ほら、月が綺麗ですよ」

「え、あ、ホントだ」


 見上げると、正面には三つの月が並んで昇っていた。

 この世界に来た時には驚いたが、見慣れてしまえば美しさが三倍なだけ。


「月って良いよね。日によって形を変えて、静かなのに、眩しいくらいに輝いて。なんか、ちょっとファレスに似てるかも」

「え?」

「イメージ的にさ。髪が月で、瞳は夜空みたいでしょ。それに普段は冷静だし、存在感もあってどこに居ても目立ってる」


「そんな事……ないです。買いかぶり過ぎですよ。私は―――」

「?」

 言葉を濁らすファレスを不思議に思い、背後の彼を振り返ろうと首を捻る―――と、鼻先が触れ合う距離に顔があった!


「あ―――ご、ごめん!」

 何を謝ってるんだか分からないけど、とにかく慌てて顔を戻す―――と、頬に温かく柔らかな感触が落ちた。


「なっ!?」

「―――これくらいはウトゥヌ神も許してくれるでしょう?」

「そ、それは許すだろうけどっ―――!」


 って、知らないけどさ!

 この世界でもほっぺにチューは挨拶レベルなんだよね……?

 わたしには一大事件だけどね!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ