一ノ九.モヤモヤ
悶絶するファレスに冷めた目をやりながらそこに放置し、わたしたちは部屋を出た。
絵美佳は不案内なのに、ファレスへの愚痴をこぼしながら勝手に先へと歩いて行ってしまった。
わたしはわたしで、古いけれどよく手入れされてピカピカに磨き込まれた廊下を睨みながら、神官長の部屋へと歩く。
若干足音が大袈裟になるのは許して欲しい。
ファレスがあんな人だと思わなかったんだ。
立派な変態でも、ちゃんと気持ちはあるんだと思ってた―――ただのぽっちゃり好きじゃないって信じたばっかりだったのに。
だからこそ、わたしもウトゥヌ様の神子になる話を保留し、彼との結婚を悩んでいたのに、馬鹿みたいだ。
まー、別に良いんですけどね?
そーゆー移り気な人だと分かったから、これからの態度を改めるだけだし。
「里緒」
ウトゥヌ様が遠慮がちにわたしを呼ぶ。
顔を上げて返事をすると、彼は眉を寄せたまま黙っている。
「……何でしょう?」
問いかけても何も答えてくれない。
不審に思いじっと見上げると、そっとわたしの肩を抱き寄せ、軽く撫でるように背中をトントンしてくれた。
―――ああ、落ち着く。
彼に触れている部分が温かく心地良い。
心の中で何かドロドロしていた塊が、すぅっと溶けてゆく感覚。
ウトゥヌ様と接触すると、いつもふわっとした優しい気分になる気がしていたのだけど、ここまで癒しパワーを持っているとは驚き。
さすが神様!
それに、わたしのモヤモヤした気持ちがお見通しだったということだろう。
「ありがとうございます、もう大丈夫です」
「良かった。聞き分けの良い頑張り屋は好きだけれど、君にはもう少し頼ってもらいたい」
今は頼るべきだったのか。どうやったら良いんだろう?
トゲトゲした気持ちや文句を吐き出して聞いてもらうとか?
―――それはネガティブだし性格悪い女みたいでイヤだな。
じゃあ傷ついたから慰めてー!って泣きつく?
―――いや、わたしそんなキャラじゃないし。
「頼る―――って、難しいですね」
「そう? では里緒、我からの頼みだ。甘えて欲しい」
「そ、それもまた難しいですね……」
甘える方法なんてサッパリ思いつかないぞ。
「ではこういうのはどうだい?」
ウトゥヌ様はわたしの背中に回していた手を後頭部にずらし、クイと押すと自身の肩にわたしの頬を押しつけるようにして、そのまま後頭部を撫でてくれた。
確かに端から見れば彼女が彼氏に甘えているように見える図かもしれない。
けれど彼の首筋に触れてしまいそうな鼻孔から、白檀のような甘く爽やかな香りがいっぱいに広がってきて脳がクラクラしてきた。
って、男性の匂いに興奮するなんてわたしは変態かー!!
あわあわするわたしに反し、ウトゥヌ様はイイ笑顔でした。




