皇后アデリーナ
思ったよりも長くなりました。
わかりづらいところがあるかもしれません。
「まぁ。話には聞いていたけれどマリーナにそっくりね。」
ヴィルフレート帝国の皇后で、カテリーナの叔母に当たるアデリーナが訪ねて来た。
カテリーナが生まれる少し前にここ、ヴィルフレートに嫁いできた彼女をカテリーナは手紙では知っていたが初めて会うことになった。
カテリーナはアデリーナが座るまで立っていた。
「お初にお目にかかります。皇后様。」
「はじめまして。カテリーナ。お座りなさい。」
背はさほど高くはなく上品な物腰で入室した。
もちろん、取り巻きの侍女たちも一緒に。
髪色・瞳の色はフィリア王国リベラート王によく似ていた。
先に座ったアデリーナに進められるままカテリーナはアデリーナと対面するように目の前のソファーに座った。
「お噂通りお美しい限りでございます。」
「うふふ。私の守護神様は美の女神様ですから。」
『姉様か。ならわからなくもないわね。』
カテリーナにだけ聞こえる声で話しかけてきた。
「カテリーナ。貴女の守護神様は知の女神様と伺っているのだけれど。」
「はい。」
「お会いできるかしら?」
アデリーナをにらみながら姿を現した。
『初めまして。アデリーナ。』
「はい。初めまして。」
『なぜ?貴女が来たの?皇帝自らでもおかしくはないでしょう?』
単刀直入で聞く。
「この機会を逃せばカテリーナにあえないなぁと思って無理を言って私が来たの。
さすが、知の女神の申し子ね。あの人数の近衛を巻いて逃げるだなんて。
おてんばな皇女たちでもそんなことはしたことはなかったわね。
そうそう。皇子から預かってきたの。」
侍女の一人に目配せをして分厚い紙の束をカテリーナに渡した。
「これは・・・」
「こまどりのささやきの完全版だそうよ。」
「マリユス皇子にお礼をしなくては!!!」
「私が伝えておくわね。」
皇后アデリーナは柔らかな笑みをたたえている。
「逃げ出した理由ですがどうしても、フィリアに帰らなくてはいけないので。ですが、もうそれもあきらめましたわ。人様に迷惑はかけられませんし。」
そこへ、美しく着飾った女神が現れた。
『あぁら?知の女神じゃぁないの?』
『姉様。』
『貴女の申し子、捕まっちゃったのぉね?』
そう、この方こそ、美の女神様である。
神々はそれぞれの申し子たちとは別に話をするためだろうか姿を消した。
「私の守護神様はほかの神々とのつながりが薄くて。それ以前に少々高飛車なのよ・・・」
「そうなのですか?」
「貴女は人柄が良さそうね。」
「そうでしょうか?」
「私を望んだ理由と貴女を望んだ理由は同じよ。」
「え???」
「古代リア王国の王族でかつ直系の子孫となると数が限られるわ。知っているわよね。」
「はい。存じております。」
「20年ほど前の戦の戦後処理の結果、私はこの国の皇帝との結婚を余儀なくされたわ。
でもね。交渉に当たったマリーナたちのことを恨んではいないわ。
多少の不自由はあるにせよ快適に暮らしているから。」
少し寂しそうなまなざしをカテリーナに向けている。
「ヴィルフレート側としては神々との契約を取ることは長年の夢だったみたいで、どうしても男児がほしかったらしいの。
契約ができるのは古代リア王国の王家直結の末裔だけでしょ?
私が産んだ子は皇女ただ一人。男児が生まれていても私だと傍系だから意味のないことなのに・・・」
「では、マリユス皇子は・・・」
「そう、マリユス皇子は今は亡き最初の皇后レナエル様との子よ。それに、皇帝の一人息子でもあるの。
とても甘やかされて育ってね・・・」
「私は・・・このままここにとどまり続けなくてはいけないのでしょうか?」
「きっと、カテリーナ。貴女の身分だけではないと思うの。
無理矢理連れてこられたことは、是が非にでも貴女にも男児を産んでほしいから連れてこられたのよ。きっと。
古代リア王国の王家の末裔と言うだけでここ一帯の支配者として古くからここに住んでいる人たちを納得させるだけの証拠になるの。
今のヴィルフレートは一枚岩ではないの。
子孫代々彼らを納得させるには神々との契約を結んだ方が手早いと考えているようなの。
そのためには、古代リア王国の末裔との婚儀が欠かせない。
血族を増やすと言う意味でね。」
北の果ての住人は以前から古代リア王国の治めていた時代より続く風習、しきたりを重んじている人々がほどんどで、それより南にある帝都あたりの考え方暮らしぶりとは全く異なった生活を今でも営んでいる。
そのため、中央と北の土地の人々との軋轢は年々深まってきている。
そう、アデリーナは説明した。
「それに、カテリーナ。貴女の結婚はフィリアの国益にも大事なものよ。
戦後処理で、フィリアの土地の占領していた土地をすべて返還することが決められていたの。
私がここに嫁ぐことによって。でも、返還するどころかますます支配を強めていったわ。
カテリーナたちは無関係のはずよ。なぜ、貴女を・・・。今でも理解に苦しむわ。
私は、皇后としてどうにかして破断させたいと思っているの。」
最後まで話を聞いて、ふと気になることを聞いた。
「皇后様。彼女たちに知られてもよろしいのですか?」
「この子たちは私の味方よ。裏切りはさせないわ。安心しなさい。」
取り巻きたちの顔を一人、一人見ていく。
安堵の表情を浮かべたカテリーナは何か企むような顔をのぞかせている。
「カテリーナ。貴女は何を考えているのかしら?」
「少し、先のことを。」
「あと2週間ほどでマリユス皇子は新たなる皇帝に即位するわ。皇后もそのときにたてられるそうだから。
まだ、結婚もしていないからその前後で式を挙げることになるはずよ。」
「そうですか。こちらには一切そのような情報はありませんでした。」
「聞かれると逃げ出すと思っているようね。その分じゃあ。」
数拍、間をおいてカテリーナはアデリーナにこう願い出た。
「皇子、いえ皇帝陛下に伝えてほしいのです。二人ほど私の結婚式に呼びたい・・・と。」
「なんですって???貴女正気なの??」
机を強くたたくアデリーナ。ひるむことなく話を続ける。
「このまま、お父様も誰からも助けが来なければ私はマリユス皇子との結婚は避けられません。
でも、その前にあの二人には会いたいのです。」
「わかったわ。相談してみるわ。」
二人の名前を教え、結果は後日知らせをよこすからと言って取り巻きたちとともに部屋を辞した。
一呼吸置いてこの後どうなるのだろうかと不安で胸が押しつぶされそうになった。
「これで少しは時間稼ぎになったかしら?お父様。どうか早く私を・・・」
その場でただ祈るほか今のカテリーナにできることはなかった。




