密書
「はぁ。」
(これで、私はおとなしくここで人生を終えるのかしら?
何で7歳の時とほぼ同じことをしているのやら。
あー。その話は考えない、考えない。もっとほかのこと、ほかのことを・・・
そうだわ。こっちの人たち、戦になっていることすら知らないみたい・・・
ということは人質じゃない??なぜ???単純に私を花嫁にするためだけにさらったと言うことなの?
あーあ。フルートを吹く以外は特にすることもないし、空想にふけってみようと思ってもなかなか乗り気にならないんだけれど。
私の気持ちを整理する時間にはうってつけなんでしょうけれど。とてもそんな気にはなれないわ。)
ソファーにどっかりと腰を据えとりあえず窓を眺めたり暖炉を眺めたりして暇な時間を埋めている。
捕まった後今までいた部屋とは別室に押し込められるような形で入室した。
観劇も許されず日長一日、暇な時間を謳歌している。
窓はすべて磨りガラスで施錠され鉄格子まではめられている始末。
外の様子は一切うかがい知ることができない。
今は冬。一面銀世界。
雪は深く積もり大太鼓の音でさえ吸収してしまいそうなくらいである。
そもそもこのように寒い日に窓をあけている方が不自然である。
部屋には暖炉が備え付けられていて暖かい。
暖炉の管理は専属の女官が執り行っているものの彼女が無愛想なのか私語が禁止なのか一言も会話をすることなく脱出失敗後7日ほどが経過している。
(これって、噂の三食昼寝付き?そうね。きっと。小説で読んだことあるわ。後宮に入って趣味を楽しんで、そして後継者争いが定番だわ。
趣味を好きなだけしてて良いと言われれば楽と言えば楽なんでしょうけれど。なんか不健康よねぇ。)
真剣に後宮で過ごすことを考え始めたカテリーナに、ドンドンと扉をたたく音が聞こえた。
そろそろフルートを演奏する時間らしい。
(扱いが荒いんだから。本当に私を皇后にたてるつもりなのかしら?)
少しいらいらしながらフルートを奏で始めた。
演奏が終わる頃には気持ちも落ち着いていた。
拍手を受けているとき、外の窓をたたく音が聞こえたような気がした。
そっとあけてみると、そこにいたのはヴィルフレートの兵士の服装をまとったフランツであった。
「美しい調べを頼りにここまでやって参りました。レオポルト様もベルンハルト殿下も貴女が連れ去られた件をご存じです。今しばらくお待ちいただきたいと。」
「こちらの情報を貴方に託しましょう。1時間後にまたここに来てほしいの。できるかしら?」
「はい。その間に仕事を済ませます。」
フランツは本宮へと向かっていった。
『あら。密書を渡すの?』
(はい。)
『なら、暗号を入れておいた方が良いわね。』
(暗号ですか。)
知の女神ユリーナの指導の元、備え付けのレターセットにさらさらと書き上げ封筒に入れた。
(お父様がの暗号にお気づきになられるでしょうか?)
『大丈夫よ。レオポルドがいつも使っている暗号だから。』
(いつも?)
『そうよ。貴女がもらった手紙にもそれが仕込まれていたはずよ。』
(そんな・・・知りませんでした。)
『だろうと思ったわ。マルティーノのこともしっかり記載されていたというのに怒り出すのだもの。』
(フィリアに帰ったら読み返します!)
『まぁ。帰れたらの話よね?』
(ですよね?)
カテリーナがすっかり書き終えた後、火の番をする女性が入ってきた。
じろりとカテリーナの方を見て仕事に取りかかった。
薪をくべ、厚手の手袋をはめ燃えやすいように金属の棒でかき混ぜる。
一通りの仕事を終えると何事もなかったかのように立ち去っていった。
『さて、これから少し隠蔽工作をするわよ。』
(はい。)
カテリーナの書いた手紙の枚数と同じだけの紙を暖炉の中へ。
ペンと残りは元の場所に返しておいた。
『これで、あの手紙はなんだったのかと聞かれても燃やしてしまってわからないといえる。
内容もたわいのないものだと言えばごまかせるわ。それに窓を開けたのは空気の入れ換えのためだとか言えば問題はないはずよ。』
(この手紙が無事にお父様の元へ届けばいいのですけれど。)
『あの伯爵を信じるしかないわ。早速来たようね。』
コンコンと窓をたたく音が聞こえてきた。
すかさず窓を開けた。
「これをお父様に。」
「わかりました。どうかご無事で。」
「えぇ。」
フランツは足早に去っていった。
窓を閉め、ふぅと一息を入れた。




