侍女の家族
思った以上に長くなってしまいました。
「もう・・・こうなったら自力でどうにかしなくっちゃ!!」
あれから3日ほど後、朝からオペラ鑑賞をしに行くと言うことで身綺麗にされ服もヴェザート風のドレスに着替えさせられ馬車に乗せられ帝国劇場へと連れて行かれた。
カテリーナはフルートは大事な預かり物でショールはお気に入りの物だからといって持ってきていた。
ヴェラザート帝国は芸術に力を入れている国でフィリアなどに比べても劇場が多い。
そのため、頻繁に音楽やら演劇やらを鑑賞する。
このときがチャンスとばかりに公演をきっちり見終わった後、隙を見て逃げ出した。
もちろん多くの人たちが追いかけてきた。
逃げているさなか、とある邸宅で一人の女性が庭でぼんやりとたたずんでいた。
その女性と目があった。
すると、カテリーナの方へ駆け寄ってきた。
垣根越しによく見るとそれは・・・
「お嬢様!!」
「ル・・・ルーチェ??」
いつもの使用人の服とは一転、貴族か裕福な商家の娘の着るような服装をしていた。
カテリーナのあわてた様子を見て事情を知ったようだ。
「追われているのですか?」
「そりゃ・・・見てわかるでしょう?」
カテリーナが走ってきた方向から待てーという複数の声が聞こえてきた。
「そうですね。」
「ルーチェ。私をかくまってちょうだい。」
「わかりました。こちらへ。」
カテリーナの手を引いて足早に建物の中へと消えた。
ルーチェの案内で彼女の部屋にかくまわれることになったカテリーナ。
室内はフィリアのカテリーナの部屋よりも少し広めの部屋であった。
いす、机、ドレッサー、書棚、ベッドなど一通りの家具がそろっていた。
まるでずっとここに住んでいたかのような錯覚を覚えた。
「ルーチェ、何があったの?ユリーナ様が様子を見てくるとおっしゃっておられたけれどなしの礫だったと。」
「それがですね。変な話なのですよ。孤児の私に父と母がいるというのです。」
「よかったじゃない。」
「よくありません。私には弟と妹がいるとも言われて腰を抜かしましたわ。」
「誰・・・なの?弟と妹って。」
「驚かないでくださいませ。なんとセザールとナタリアだというのです。」
「ちょ!!!世間は狭いと言うけれど狭すぎるでしょ?」
「私もそう思います。きっと私を騙そうと・・・」
「してないよ。姉さん。」
「わっ!!ってセザールじゃない。」
部屋に無言で入ってきたセザールはにこやかに一礼した。
「やっぱり逃げていらしたんだね。」
「そうよ。黙って皇后になんてなるものですか。」
むすっとした態度でセザールに突っかかる。
「「皇后??」」
「後宮に入れられておそらくこの1月後皇后になっているだろうって言われて。
誰がなるものですか。ほかの候補者にお譲りするわ!!」
「はぁ。なるほどねぇ。」
「何納得しているのよ。」
「あぁ。マリユス皇子の好みがあまり身分の高くない女性ばかりでこのままだと皇后をたてるときに支障が出るって言う噂があったから。」
「どこかに養女に出して身分を高くすれば問題は・・・」
「どれも好みらしくて毎日けんかしてるって話だぜ。」
「私危険じゃない。そんな女の戦いに巻き込まれたらたまったものじゃないわ。」
「だからむやみやたらに出歩いてほしくなかったんだろ。」
「なるほど。」
側室の誰かと出会えば何かと面倒なことになる。
けがでもされたら恥と言うこともあるのだろう。
「お嬢様。感心している場合ではありません。」
「あ。そうだったわ。どうやったらフィリアに戻れるのか考えなくっちゃね。」
「良い案がすぐには思いつきませんわ。」
「ルーチェ、貴女のお母様はどちら?ご厄介になるのだからご挨拶くらい・・・」
「残念ですがこちらにはいらっしゃらないそうです。」
「え??」
セザールが話に割り込んできた。
室内にはセザール、ルーチェ、カテリーナの3人しかいない。
ナタリアは別室にいるようで姿が見えない。
「話せば長くなる。だけど聞いてほしい。姉さんが生まれる前、母さんはここの今の皇帝の花嫁としてディーレからやってきたジリアン王女だ。」
話を要約すると次のようである。
事もあろうに皇弟と相思相愛となり程なく駆け落ち。
行き着いた先がフィリアだった。
そこで質素な結婚式を挙げ翌年には娘が生まれた。
普通の家族としての生活は長くは続かず生き延びるために娘を神殿に預けた。
しかし、行き違いもあり生き別れとなってしまった。
「本当にルーチェがそのときの娘なの?」
「証拠ならほら、姉さんの首に掛かっているネックレスが証拠さ。
あれは母さんが自分の子供のために錬金術をして作ったんだ。
裏には母さんたちの名前と子供の名前が刻まれている。予め予測していたんだろう。」
セザールが自身のものを見せた。
「ルーチェ。あるの?」
「はい。ございます。普段は服の下に隠していましたから。」
おもむろに不思議に光る宝石のような物を裏返す。
「ルーペが必要ね。」
「ほら。見てみなよ。」
セザールがポケットから小さなルーペを取り出し投げてよこした。
そこには”ディーレ王女ジリアンとヴィルフレート皇子アドリアンの娘ルシール”と刻まれていた。
「ルシールが本当の名前なのね。じゃあ、なんでルーチェなの?このペンダントの存在に気がつかなかったわけはないでしょう?」
「さあなそこまではしらねぇよ。たぶん、巫女さんが父さんたちから姉さんの名前を聞き出すときにルとしか言わなかった可能性があるな。追われていたらしいから。詳しいことは知らないが。」
さらりと持論を呈したセザールに二人は驚いた。
「ちょっと、良いか?」
一気に話して口が渇いたらしくカテリーナとルーチェのために入れられたお茶の入ったカップを一つとるとお茶をすすった。
「もうそばに追っ手が迫ってる。おそらくここにいるんじゃないかと思って。庭師たちがあんたを見かけたって言うもんだからさ。」
カテリーナはルーチェの顔を見て肩を落とした。今までにないような不安そうな顔をしていた。
「そう。なら仕方ないわね。あなたたちに迷惑をかけられないから近くの森で迷い込んで保護されたってことで私を引き渡してちょうだい。」
「おい。良いのか?」
「あら。私の身を案じてくれているの?ありがとう。でもね、大事なルーチェたちを巻き込みたくないのよ。わかって。」
「さして気にもとめないが。あの皇子はもうあんたを外には連れ出さないだろう。それでも良いのか?」
「ルーチェに似てるわね。何となくだけど。」
「ともかく、行くぞ。」
照れ隠しをしながらカテリーナを誘導する。
何か思いついたようにセザールに提案した。
「そうだわ、ねぇ。行く前に私の靴やドレスに土か泥をつけてほしいの。森にいたんだから土がついてないとおかしいでしょ?」
「まぁ、そうだな。ドレスはやめておくが靴には少し土をつけよう。」
「私をかくまったと言うことは3人の秘密よ。使用人たちにも口止めをしてね。」
「あぁ。我が家にとってもそれは危ういことだからな。」
「そう。じゃ、ルーチェ。元気でね。お父様たちにはちゃんとご家族が見つかったって伝えてあげるから。そこで暮らしていくって。」
カテリーナとセザールがルーチェの部屋から出て行こうとした。
とっさにルーチェが引き留めた。
「お嬢様。またフィリアでお会いしましょう。」
「何言っているの?」
カテリーナは後ろを振り向いた。
ルーチェはしっかとカテリーナを抱きしめた。
「私は、マリーナ様とお約束をいたしました。お嬢様の行く末を見守ってほしいと。
ですから、私は今まで通り侍女としてお仕えしたいのです。
事が済み次第私とナタリアは戻ります。
元々ナタリアはフィリアの王立学校にまた通わなくてはいけませんし。
お嬢様それまでお元気で。」
「えぇ。私たちがフィリアであえればいいのだけれど。こればっかりはわからないわね。もしかしたら私、この国で皇后になっちゃってるかも知れないから。」
カテリーナは内庭で少し泥汚れを作って自分を探している物たちの前に進み出た。




