新たなる来訪者
「ごきげんよう。カテリーナ。」
軽やかに挨拶をした少女。
「お久しぶりね。シャーロット。」
と二人は抱き合い再開を喜んだ。
カテリーナは質素な深い緑のドレスを、シャーロットと呼ばれた少女は緋色の少々豪奢なドレスを着ていた。
ここは、カテリーナが引きこもっているルドゥーレ公爵家の別邸の玄関ホール。
およそ5年ぶりとなる友との再会に思わず抱き合った。
カテリーナの祖国、フィリア王国にシャーロット王女のディーレ王国とエワーズ王国の同盟軍が攻め込もうとしている。
それ以前は3国とも仲の良い王国であった。
「だいぶこちらも暖かくなってきたわね。カテリーナ。」
「そんなことよりもよくも、フィリア王国に攻めてきてくれたわね。シャーロット!」
「ま、まだ攻めてないわよ。人聞きの悪い。私にも言い分があるのよ。それは私のお婿さん問題が絡んでいますのよ。」
「確かシャーロットはたった一人の跡継ぎだったわね?」
「えぇ。そうですわ。」
「残念ながら、うちにはあなたのお婿さんになってくれるような次男、三男は王族にはいなくてよ?」
「そうね。でも私が狙っているのは別の国の王子様なの。
いろいろと事情があって。今回のことは交渉が済んだらお父様にやめるよう取りはからうから。ね?許して。」
「シャーロットが進言してくれるなら安心だわ。陛下はシャーロットには甘いもの。」
「だけれど、カテリーナ・・・」
「私は結婚しないで巫女になりたいの!!」
そう、宣言した。
『まだそんなことを言っているのか?』
『あの子はまだ言ってないんですよ。そっとしておきましょうよ。』
そんな二人を遠くで見守る二柱が居た。
(それはそうと、昼からの会議に殿下、フランツも出席となると彼らの服を今回の会議にふさわしいような服をお父様に依頼しないと・・・)
そう、あの日から換えの服を持っていなかったのでハロルドの服を貸していたである。
だいぶ小さかったようだが・・・
今から王宮へ行けば間に合うわねとカテリーナは思った。
シャーロットとカテリーナが再開を喜んでいるとき、玄関ホールの側を通ったランバートル卿が主にディーレ王国の王女が到着したと告げに客室にやってきて、何やら小声で話をしている。
「殿下・・・。作戦ってこれですか?」
「あぁ、この手はあまり使いたくなかったが。
ちょうどフィリア王国と同盟軍の交渉がフィリアの王宮にてあると言うことだったので、少々無理を言ってフィリア王国の王太子に手紙を送って当事者が全員そろってこちらを会場にして頂いたのだ。」
「良いんですかそんなこと勝手にして。」
「レオポルド殿、そして国王陛下からの許可を頂いた。問題あるまい?」
「少々無理矢理かと思いますが。まぁ、カテリーナ様が納得されれば問題ないと思いますがね。
・・・シャーロット王女。ディーレ王国の王女ですね。確か彼女は殿下との縁談があったと聞き覚えておりますが。」
「私は嫌だと申し上げた。私は愛しの気味であるの女性とは結婚するつもりは毛頭ないからな。なので兄上から断りを入れてもらった。これで何度目か。」
「ですが、あちらの国王陛下夫妻はまだお望みを捨てておられないとか。」
「あのご夫妻には参ったな。何度断っても一人娘のシャーロットとの縁談を持ってくる。」
「情報によると、エワーズ側はカテリーナ様を望まれておられるとか。」
「そんなことはさせない。俺の妻となっていただく!!」
「殿下、声が大きいです。聞かれたらまずいですよ。結局、この戦って縁談を断ったお二人にこの戦争の原因があったと言うことですね。それで余計にこじれた関係になって・・・」
「まぁ、そうなるな。」
「責任感じてますか?」
「それを聞くな・・・」
「この状況、殿下はどうなさるおつもりですか?」
「この作戦でカテリーナ嬢がこの別邸から逃げ出さないようにしつつ、出来ればこちらの思惑通りになってくれれば上出来だ。」
「勝算はお有りですか?殿下。」
「わからぬ。愛しの君の出方次第と言うところか・・・」
「・・・玉砕しそうで怖いです。正直。」
すると、ドアをノックし、二人は驚きの顔で彼を見つめた。
「失礼いたします、お召し替えの服をとって参りますので少々お待ちいただけませんか?」
とハロルドはドア越しに彼らに申し出た。
この婚姻問題が起こったのは今からおよそ、2年前。
同盟国がフィリア王国に攻めてこようとしたのは今からおよそ、半年前の出来事である。