ウィリア王子の出征
「お目通り願いたい。」
表情も暗く、心なしか足取りも重い。
レオポルドたち第一陣が北へ出立しておよそ一月。
勝っているのか負けているのか、情報が一切入ってこない。
毎日ダーニャ伯爵領にある軍神アルデの祭壇に祈りに行くのがカテリーナの日課となった。
長いすに腰掛けて知の女神ユリーナにいままでためていたことを心の中で語り出した。
(また、私のせいで。)
『そう、自分を責めないの。』
(どなたも気休めばかり。)
『きっと大丈夫よ。なんてったってレオポルド守護神は・・・』
(策略の神様。でしたわね。)
『そうよ。心配いらないわ。』
(どこが心配いらないですか?いたずら好きなんですよ。あのお方は。
あー・・・自分でどうにかなることを条件にしておけばよかった。)
『何を今更。レオポルドはいつになく自信たっぷりだったみたいだし。きっとリナルドたちにも相談しているはずだから。』
(ですけれど、腕っ節が王族の中で一番ないお父様が最前線にいるなんて・・・)
『もっと信じてあげなさい。』
(ですが。)
『時期に、あの男たちも出立するでしょう。』
(・・・ですか。)
『ほかに何か言うことないの?』
(ありません。)
『昔のように素直に認めればいいのに。』
(そうなれば利用されるだけです。)
『どうしてそんな考え方になっていったのかしら?』
(それもこれも・・・)
『そういえば、ナタリアもイレーニアもじきに帰ってくるわね。』
(そんなに?)
『カテリーナ、矢面に立つ自身はある?』
(ないです。)
『言い切ったわね。』
(はい。今のままでは自分を責めるだけ。もっと責められたら身の破滅かも知れません。)
『そろそろ戻りましょう。』
(そうですね。)
軍神アルデのご神木のサントリナを捧げて、本邸に帰って行った。
「顔色が悪いですわよ?」
ほら、とほほに手を当てる。ひんやりとしている。
まもなく秋から冬に変わりゆく季節となって風も冷たくなってきた。
つい先ほどまで外にいたカテリーナの手よりもフリードリヒの顔は冷たかった。
「3日後にはたちます。」
重い口を開けて最初にいったのは
カテリーナは押し黙っている。
「その前に、お願いがありましてようやく時間がとれたのでよった次第です。」
「フランツもそうなんでしょ?」
「はい。今は、エレーナ嬢の元に行かせました。」
「さすがだわ。それで、願いとは何かしら?」
「髪の毛をいくつか分けてほしいのです。」
最近ちまたではやっている願掛けの一つで愛し合う男女がお互いの髪を切り交換しあえば無事に帰ってこれるというものだ。
もちろん、カテリーナもその噂を知っている。
「良いでしょう。髪の量は多い方なので少しくらい。」
ルーチェに小刀を持ってこさせ、その場でいくらか髪を押し切った。
「これで足りるかしら?」
「十分すぎますね。それを私にも貸してください。」
フリードリヒは受け取った髪を胸につけていたロケットにしまい込んだ。
そして、おもむろに鬘をとり数センチほど髪を切りそろえるように切った。
それをカテリーナに渡した。すぐさま紙に包み小さな袋にしまい込んだ。
フリードリヒは小刀はルーチェに渡し、鬘をかぶりなおした。
ルーチェは渡された小刀を急いでしまい込んだ。
カテリーナはフリードリヒの髪が入った袋を肩から提げているポシェットにしまい終えると、フリードリヒの一連の様子を見て一言、言った。
「まだおつけなのですね?」
「元の髪ですと、誰もわかってもらえないので。最低限除隊するまではこのままで。」
「そうでしたわ。剣術試合で一緒におられたお方は、きっとよき方なのでしょう?なぜ私とこのようなことを?」
冷たい言葉を投げかけた。
「リタです。兄上からの呼び出しにも応じず、勝手についてきたようです。」
「だけですか?」
「私が愛しているのは貴女だけだ。」
カテリーナの手を強く握った。
「それが本心ですね?」
「はい。今までぶれたことは一度もありません!」
しっかりとした口調でカテリーナを見つめている。
カテリーナは表情を変えず、涙を押し殺したように言った。
「この戦で生きてかえってこれたとき再びお会いいたしましょう。約束ですよ?そのときに、もう一度お聞きします。」
「約束します。」
「勝てばどのみち結婚でしょうけれど。それでは殿下の希望通りの恋愛結婚ではなくなってしまうでしょうね?」
「必ず、勝手、生きて帰ってきます。そのときには妻となっていただきたい。」
「答えは保留です。ですが、毎日お父様たちと一緒に軍神アルデ様の神殿に行って御武運をお祈りいたします。」
少しだけほほを赤く染めながらフリードリヒを見つめている。
そばにいたルーチェは、二人をじっと見つめている。
(二人だけの世界・・・ね。いつの間にこのような・・・???)
急な二人の展開に頭がついて行っていないようである。




