本当の気持ち
「ティツィアーナ。ご機嫌いかがかしら?」
きゃっきゃと笑う幼児が姉に抱かれている。
あれから本邸に戻り、再び穏やかな日々を過ごしている。
机に向かって何かを書いている。
周りの声や音も聞こえないらしく一心不乱に書き続けている。
「お嬢様。」
「今良いところだから後にして。」
顔も上げず、最後の一文を書き上げた。
「やっと書き終わったわ!」
ぱっと顔を上げた。
「インクが乾いたら、挿絵担当のコンスタンティーノに渡して。」
近くにいると思っていたルーチェからの返事がない。
ルーチェを捜そうとドアを開けると不穏な話を聞いてドアを閉めた。
「お父様。何をお考えなの?」
恐怖で身震いしたものの、意を決して再びドアを開ける。
そこにはルーチェがいた。
「ルーチェ、頼み事があるの。後で部屋に来て。」
「お嬢様。」
背後から声をかけられ、驚きの顔を隠せないルーチェ。
顔は血の気が引いたように真っ青だった。
「話は聞いたわ。いよいよ、軍隊を動かすんでしょ。」
前方にいるレオポルドに歩み寄る。
「お父様。約束して。一人たりとも死者を出さないと。」
真剣なまなざしでレオポルドを見つめるカテリーナ。
「元々そのつもりの作戦だから安心してくれ。」
「その言葉が一番不安だわ。」
「ははは。僕も行くんだ。総司令官として。」
「剣の腕もおぼつかないお父様が?」
「まぁ。そうだけど。この作戦が成功してあの一体を再びフィリアの領地にした暁には、ウィリアの王子と結婚するんだよ。いいね。」
軽くしかし、しっかりとカテリーナの両肩に手を置いた。
「約束だもの。」
少しだけほほえんで見せた。
レオポルドの出立は1週間後だと知らされた。
部屋に戻り、ルーチェに本のことを頼むと一人物思いにふけっている。
『何を企んでいるのかしらね。』
「ユリーナ様。」
『ん?どうかしたかしら?』
「帰国後、殿下は一度もこちらにはお見えではないですよね?」
『みたいね。』
「きっとあのときの女性、恋人なんでしょうね。」
『どうかしら?』
「なんだか変な気持ちなんです。」
『あら、恋の再燃ってやつ?』
「でしょうかね?」
『私としては願ったりかなったりなんだけど。』
「どのみち私、殿下と政略結婚ですし。変なんですよ、剣術試合の後から胸の中でもやもやが消えなくて。つらいんです。」
『ばっちり恋の再燃ね。』
「再燃だか何だかは別にして、どっちにしたって、結婚する前に恋人との関係を切っていただきたいものですね。」
『そこはあっちが考えるべきことよ。出征する皆が無事に帰れるよう、祈りましょう。』
「そうですね。」
『父様にお願いに行きましょう。』
「ご神木のサントリナを持って。」
そのことを夕食前にルーチェ、イルダに話しておいた。




