事情聴取
「日を改めまして、明日にでも何故このようなことになったのかお教えいただけませんか?」
と、就寝前にカテリーナから一切のほほえみ無く真顔で尋ねられ無言の怒りを読み取った。
一方、倒れた主はカテリーナとの対面がうれしかったらしく、昨日は眠れなかったようで客室のベッドの中で、ぐっすりと眠り込んでいた。
(殺されなければよいが・・・)
と主とは違い眠れそうにないのであった。
昨日よりも少し暖かな朝を迎えた。
朝、目が覚めると何故彼らがこれほどまで無計画で無謀な侵入騒動を起こしたのか彼らの立場に立ってよく考えてみたカテリーナ。
そこから、この黒幕をおおよそ推測しようとしていた。
しかしいくら考えても一抹以上の不安を胸に抱え頭を悩ませているカテリーナであった。
朝食の用意が出来たとのことで、食堂へと向かうが2人の姿はない。
(さっさと食べてしまって次の作戦を立てなくては。)
と、いつも以上に早々と食事を終え、カテリーナは自室へと戻っていくのであった。
その頃、フリードリヒの寝ている客室に一人の侵入者が現れた。
従者で側近のフランツである。
「殿下、殿下~~~。もう朝になってしまいました。起きてください!!」
「ん・・・・すぅ~~~~」
と一度目が覚めたようだがまた眠りに入ってしまったようだ。
「この後どうするおつもりなのですか???殿下が決めなくては私は動けないではないですか~~~」
と思いっきりほほをつねってみる。
するとようやく目を開け、起き上がった。
ん~~~~とのびをして辺りを見回すといきなり、
「ぎゃぁ~~~~~~~、ここはどこなのだぁ~~~」
と叫びうろたえるのであった。
「しっかりしてくださいよ。殿下。
本来ならゴードン博士に家庭教師役を頼んでおいでではありませんか?
何故に急遽計画とは違い、自ら家庭教師として潜入してしまわれたのですか?
はぁ・・・殿下、どうなさるおつもりですか!!!???良くて、面会謝絶がいいところです。」
目覚めから小言を言われ不機嫌そうな男。
「どうするんですか?殿下???」
ぐいっと顔を近づけるフランツ。
「分かった、分かった。分かったからそんなに顔を近づけるな。
フラン、俺に一つ良い作戦がある。」
同じ頃、カテリーナの部屋にて。
「こうなったら、隙を見てここを出て別なところへ逃げるわよ!
ここにいればきっとまたやってきて・・・考えたくもないわ!
噂によるとあの殿下、すさまじく粘着質で、ねらった獲物(女性)は逃がしたことがないというハンターなのだそうよ。
私はこのままあっさり捕まるものですか。
殿下が地の果てまで追いかけるというなら私は地の果てまで逃げ延びるほか無いわ!」
と執事のハロルドに力説しているカテリーナ。
まだ部屋には二人しかいない。
「・・・どこにお逃げになられるかはおおよそ察しは付いております。
レオポルド様並びにフリードリヒ殿下側にはカテリーナ様の居場所は伏せます。
ご心配なく。私どもも追ってそちらに参ります。」
「ありがとう。さすがはハロルドね。そんなハロルドにちょっと頼みがあるのだけれど、あの方に手紙を届けて欲しいの。
『私一人でもうすぐそちらに伺うから』と。」
「承知いたしました。」
「それで、あのお茶会のと垣間見ですか・・・古い手ですわね。私のお父様の提案ですか?」
朝食後3時間ほど経った頃、昨日フリードリヒが気絶して倒れた客間にていろいろと質疑応答をしている。
事前にフリードリヒと相談していたとおりにフランツは、聞かれたことに対してきっちりと答えたようだ。
(さすがに洗いざらいは話さなかったものの、思った以上にずいぶんと詰め寄られたな。)
始めてから2時間ほど様々な質問を投げかけられ、一段落すると、
(これで解放される・・・)と思ったランバートル卿は、次の一言でがっくりと肩を落とした。
「また明日聞きますから、確信がつかめるまで、これからしばらくはこちらに滞在していただくことになりますが。それでよろしいでしょうか?
そうそう。あなた、身分をやつして軍隊に入っておられるのでしょう?
人前で殿下なんて呼んだら・・・まずいわよね?
普段どんな呼ばれ方をされているのかしら?」
と瞳を輝かせている。フリードリヒの代わりに答えておいた。
「さ・・・さすらいのベルンハルトという二つ名で。ウィリアの平民を装っていますので。」
「側近の私も同じく。身分は偽っておりますが。」
「そう。」
じゃあ、今日はこの辺でおしまいにしましょう。
(全て話すまで帰してもらえそうにないな。)とその直後思ったのであった。
ちなみにフランツの隣に座っているフリードリヒは終始カテリーナを見て、恍惚としていて、ろくに質問は答えていなかった。
(大丈夫なのだろうか。あの作戦。)
隣で顔色一つ替えずフランツは一抹の不安を感じた。
その頃、長年カテリーナに仕えている執事のハロルドはカテリーナに付き添って会話の一部始終を見聞きして、
(そんな態度をするから余計に嫌われるんだろ・・・!!下心見え見えなんだよ!!)
思わず心の中でつっこんでしまった。
しかしハロルドはポーカーフェイスなので、幸いにも誰にも気づかれることはなかった。
ポーカーフェイスでなければ今頃断罪されるかもしれなかったが。
昼も夜も3人は一緒に食事をとったがその日は食事中、一切の会話がないまま皆就寝した。
一週間ほどかけてじっくり聞き出そうとしたが、口を割らなかった。
そのうち、侵入者達と世間話をするうち少しだけ信頼関係が出来てきたように感じた。
まだ、カテリーナには男性恐怖症は残っているものの人としては大丈夫そうだと感じたらしい。
そう感じた翌日にも、さらに軽い尋問をする予定だったが、意外な人物達の来訪によりさらにカテリーナの平穏な日常が遠のくのであった。