秘密の場所
「さすがは行楽地。人が多いわねぇ。」
長雨がやんですぐ出立したせいだろうか道中は何度も泥濘に嵌るなどをし、7日で到着する予定が5日ほど余計にかかってしまった。
ジザーニアはウィリア有数の海浜である。
海風が髪を海へと運び、ここを訪れる人を誘う様である。
海岸を埋め尽くすほどの人だかりができている。
「こんなに人がいる中で探し出せるの?」
「秘密の場所があるのよ。そこはほとんど人が来ないの。」
うふふと自慢げに話しているシャーロット。
「・・・人探しなのになんで水着に着替えているのよ。遊びに来たんじゃないのよ。」
「せっかくの海だもの泳がないと。」
カテリーナもルーチェもエレーナもハロルドもあいた口がふさがらなかった。
観光できたわけではないのに。それはディーレ王国から来た女官や近衛たちも同意見であったようで、着替えるときに何度も止めた。
しかし、彼らの意見は聞き入れられることなく水着を着用してきたのである。
シャーロット以外の面々はと言うと夏用のドレスや服に身を包み帽子をかぶっているという夏らしい服装をしている。
「あの方と出会ったのもちょうど水着を着て泳いでいたの。今から10年近く前のことよ。」
遠くをはせるように思い出話をし始めた。
「ちらりと、ちょうど秘密の場所の浜辺のほうを見ていたら一人で蹲るように佇んでおられたわ。
私はあの方に出会ってからは毎年のようにそこを訪れるようになったわ。
お話がしたくて。最初の数年は全く見向きもされなかったのだけれど、少しずつ会話が出てくるようになって。
あぁ、最後にお会いした時も『またお会いしましょう』と言って別れたのだけれど、それから2年の歳月が流れてしまったわ。」
「それっきり見かけなくなったということね。」
「そうなの。何かあったのかしら???」
「それは、本人に直接聞ければすぐにわかることだけれど・・・」
(こんなに人が多くちゃ、誰も覚えてなくても不思議じゃないわね。)
さて、どこから探そうかと頭の中に地図を描きつつ計画を立てる。
そんなカテリーナをよそにハロルドが口を開いた。
「ところで、秘密の場所とはどちらでしょうか?」
「そうね。そこに行けばもしかしたら・・・」
シャーロットは胸を躍らせている。
それを聞いたカテリーナはまずはそこへ行きましょうと率先して進み始めた。
「殿下。もしかしなくてもあそこですよね?」
「この方向なのだから間違いないだろう。」
と一段から後ろに離れたところでフリードリヒとフランツが小声で話している。
「なにこそこそとお話なのかしら?」
「あ・・・いや。こちらの話です。」
「この方向には何かあるということなのね。」
「盗み聞きですか?」
「ちらっとしか聞こえなかったけど、察するに領主であるコルドベキア侯爵家のプライベートビーチかなにかがあるのでしょうね。
シャーロットはそうとは知らずに迷いこんでしまった。と言うところかしら?」
「さすがは、カテリーナ。鋭い読みだね。そう、この方向はコルドベキア侯爵家の屋敷とプライベートビーチがあるらしい。」
「不法侵入にならないかしら?」
「ま。それくらいでとがめられはしまい。」
数十分歩いたところに誰もいない広々とした海岸があった。
白い砂浜、ただ波の音とそよぐ風、雲ひとつない空、ぎらぎらとした太陽だけがそこにはあった。
「ここよ。」
そうシャーロットが言った。
浜辺から東側を見ると大きな岩場や高い丘や崖がありそちらのほうは危険そうである。
「ここであの方と出会ったのよ。」
「そして、恋をした。ロマンチックじゃない。」
「えぇ。」
「じゃあ、ここを起点に探しましょう。」
カテリーナは提案した。
その後カテリーナはあら?と周囲を見回して気がついた。
ついさっきまで近くにいたはずのフリードリヒとフランツがこの浜辺にいなかったからである。




