城下町
「は・・・早すぎます!!!」
朝食後、さっそくウィリア国王フェリックスに書庫への立ち入りの許可をもらい午後からいつか、かかるであろうお呼びがかるまで本を読み漁ろうと思っていたカテリーナ。
ところがどっこい、部屋に帰る途中フリードリヒにつかまってしまう。
朝着ていたのは刺繍が綺麗に入った豪華なドレスであったので質素なドレスに着替えさせられ(ルーチェが嫌そうに着替えを手伝った。もちろんフリードリヒは部屋の前で待っていた)、少々の金貨や銀貨と護身用の探検を懐にしのばせつつ手をひかれ城の門まで連れて行かれた。
気晴らしを兼ねて城下町なら外出が許可されたらしい。
しかし、気晴らしといってもウィリアに来て早々なもので心の準備など一切ない。
ただ目をぱちくりさせるだけで精一杯であった。
後ろからは強面の護衛たちがぞろぞろと付いてきている。
引っ張られながらカテリーナは計画をぶち壊されてふてくされている。
堂々と正門から出てきた二人をすでにハロルドたち3人は城の正門前で待っていた。
ルーチェは他の侍女と混じって城に残って女官長からウィリア城内での注意事項を聞いているので必然的に城にいることとなった。
(お嬢様、無事に帰ってきてくださいましね。)
そう、城の窓から城下町をちらりと見ながら思った。
「久しぶりだなぁ。」
のんびりとフリードリヒはん~っと伸びをしている。
さすが、貿易が中心のウィリアだけあって普段のフィリア城下町に比べればにぎやかさは4割増しである。
ここか港までは近くても4日ほどかかる。
そんな城下町を見てカテリーナは早速問題発言をした。
「これだけ広ければ絶対迷子になるわね。」
「行く前から決めつけないでくださいよ…」
フランツが、あきれた様子で言った。
「私がフィリアの城下町に出たら必ず迷子になるのは御決まりなのよ!!!」
「そりゃあ、興味本位であっちへふらふら、こっちへふらふらしていれば誰でも迷子にもなりますよ。」
ふっと馬鹿にしたような口調でハロルドがした。
むっとした顔をしたカテリーナではあったがここで騒ぎを起こせば周りに迷惑がかかるのでやめておいた。
「誰かと一緒にいれば迷うことはないわよね。」
「端的に言えばそうなるでしょうね。」
ふむふむとあごに手を当てながらハロルドが答えた。
「じゃあ。私、殿下と一緒に行動するわ!殿下はこの町を知り尽くしてそうだもの。」
「いいのですか?」
「変なことをなさるようなら手打ちにいたしますからそのおつもりで。」
懐に忍ばせていた短剣を取り出すような動きをするカテリーナ。
それをいともせずずんずんと歩いていく。
カテリーナが思ったとおりなれた足取りで石畳の城下町の路地を歩くフリードリヒ。
例のごとく手をひかれて歩いているカテリーナ。
「この花とこの花を2本ずつ。それを10組ください。」
ただ予想外に花屋で花束を買った。
「ちょっと寄り道をするがかまわないか?」
「かまいませんわ。」
答えを聞き路地を進んでいく。
いつの間にか護衛を巻いていたらしく後ろからは誰も付いてきていなかった。
行きついた先は神殿。
その隣には広い場所があり柵で囲まれている。
その中にたくさんの墓石らしきものがたっている。
「ここは、お墓ですか?」
「そう、墓場だ。ここに来るときは必ず来る場所なんだ。」
「そ・・・そうなんですのね。」
神殿を通り抜け墓の入り口から歩いていく。
入り口から遠く比較的土地の高いところにある一角へと進んでいく。
ある墓石の一角で足を止めた。
買った花束をその一角の墓石に置いていく。
カテリーナは一連の動作の最中、何も言えずただ見守っていた。
「ここには母方の親族が眠っている。」
「たしか、殿下がまだ幼い頃の出来事だったとか。」
「余り覚えてはいないが、こうして墓参りをしないと皆から忘れ去られてしまいそうで不憫に思えてならなくて。」
悲しそうな顔をしている。
「大事な方々でしたのね。」
カテリーナも切ない顔をした。
『カテリーナ。どうしたの?』
(ユリーナ様。お仕事はよろしいのですか?)
『ちょっと息抜き。今年は多いみたいよ。
で、あの無茶な条件付きつけたはいいものの、もし成功したらもちろん結婚するのよね?』
(そうですねぇ。イレーニアが結婚する前にはしておかないといけませんね。
私は一言も殿下と結婚するだなんて言ってませんよ。
条件次第では私、誰の元にも嫁ぐことなくこの政変を乗り切れそうな気がしていますから。)
『あなたったら。』
(それくらいしてやらないと。お父様は、私の思いをくみ取ってくれないんですもの。)
『昔、貴女の夢をぶちこわした復讐?私はつきあいきれないわ。じゃ、私はまた仕事に戻るわね。』
カテリーナとの会話がとぎれた。
その間呆然とたっていたカテリーナを心配したフリードリヒが肩をたたきながら尋ねた。
「大丈夫か?」
「あ・・・いえ。」
反応があったのでほっとした顔をしてフリードリヒはすっと跪き祈りを捧げた。
カテリーナも同じく跪き”どうか、殿下をお守りください。”そうカテリーナは祈った。
その後、ルーチェ達に土産を買ったり帰る前にどの土産を買おうか迷っているうちに日が暮れていった。
帰る前に今日残っていた侍女たちへの土産は一応買うことができた。
しかし、カテリーナはレオポルドたちへの土産は買えなかった。
日が落ちる前には城に戻り、侍女たちに土産などを渡したりした。
「で?どうだった?」
「特に変わった様子はございませんでした。」
「ふうん。他は?」
「あの方は、母方のご実家の墓参りをなさっておいででした。」
「ブランニング家の?時間があると良く墓参りに行っているらしいね。」
「はっ。」
「かわいそうに。僕が守ってやれなかったから。」
軽くワイングラスを揺らした。
「不穏な動きが城内にありますが、いかがいたしましょうか?」
「わかっているよ。」
「それならば・・・」
「しっぽを出すまでじっくり待っていたほうがいいと思ってね。ベルンには悪いと思っているけど。」
少しワインを口に含み転がすように飲む。
「今は時期じゃないんだ。狙う理由と首謀者とかをあぶりださないと。おおよそ見当は付いているけど証拠が無くてね。」
ふふっと言ってにんまりと笑った。
「どうやら、かわいい弟が帰ってきたおかげでひと波乱ありそうだねぇ。
彼らは僕の言うことを聞かない連中だし。ここで叩いておかないと。」
「ですが、お守りしなくてはならないのでは?」
「大丈夫。あの子がいる限り彼は無事だろうよ。」
「あの子・・・???」
「そう。昔・・・ね。それで、まだ捕まらないの?あの子おいたをしたんだよね?」
「それが、何時抜けだしたのか依然不明の上、誰が逃がしたのかもわかっていません。」
「困ったねぇ。これじゃ、あのおじさんたちに示しがつかないじゃないか。」
「申し訳ございません。」
「いいよ。君のせいじゃない。逃がした奴らにはきっちりと仕置きを。逃がした奴らとグルかもしれないしね。」
「はっ。」
「ところで、王妃の容体は?」
「少し悪化したそうです。」
「なんとも悩ましいことだ。」
「我らにはどうすることもできずもどかしい限りです。」
「先月から寝たきり・・・どうしたら・・・はっ!!」
「なにか?」
「彼を呼んでくれないか?もしかすると・・・」
そう言ってワイングラスをテーブルに置いた。




