ウィリアへの旅立ち
「私も侍女として連れて行っていただけませんか?」
カテリーナは声の主を見て何の風の吹き回しだろうと思った。
それは、カテリーナが引きこもりになったときでさえ本邸から出なかった侍女のルーチェだったからだ。
「どうして行きたいの?」
いつもの好奇心で聞いてしまったカテリーナ。ルーチェは顔色一つ変えず、
「一生に一度くらい外国へ行ってみたいと思ったからです。
この機会を逃せばもう行くことはできないと思うのです。」
と、答えた。
「それに、カテリーナ様のお連れになっている侍女はたったの2人ではありませんか?
普通の公爵令嬢ならばもっとたくさんの侍女を引き連れているものです。
ですので、数合わせ程度に考えてもらって結構です。」
「どうする?ハロルド。」
「もう、時間もないですし乗ってもらいましょう。」
「いいわ。ルーチェ。だけど、馬車は私たちと一緒に乗ることになるわよ?」
「かまいません。それよりも、あの男を見張るには絶好の場所です。」
「ルーチェ…」
カテリーナを失神させた男にかなり警戒心を持っているルーチェは目がらんらんとしていた。
(無事ウィリアに着くまで殿下は無事でいられるかしら?)
と道中何事も起こらねばよいがとカテリーナはウィリアに着くまで気が気ではなかった。
「なんで、こんなにも疲れる旅になったのかしら・・・?」
「私は幸せだが?」
「殿下には聞いてませんわ。」
「つれないなぁ…」
「つれなくて結構です。」
「まぁ。海です!!」
「エレーナは海は初めてだったかしら?」
「外国に行くのも初めてですわ!」
妙に楽しそうなエレーナとは打って変わって始終無言のフランツとハロルド。
馬車の席次はと言うと、向かい合って3人ずつ座れる構造になっていて、進行方向側に男性陣が反対方向に女性陣が座っている。
海側から男性陣はフランツ、フリードリヒ、ハロルドの順に女性陣はルーチェ、エレーナ、カテリーナの順に座っている。
「・・・やっぱりこの座りでないと何かあったとき対処できないものね。」
「何かおっしゃいましたか?」
「いいえ。何も。」
カテリーナは断崖絶壁先にある海を眺めがらぼんやりと考えていた。
(ウィリア・・・もう10年以上も前のことよねぇ。)
そんなカテリーナに女神ユリーナが声をかけてきた。
『あの二人…いい年してねぇ。』
と女神ユリーナが笑っている声が聞こえる。
『エレーナもいい迷惑でしょうね。』
(あのいがみ合い方・・・どうすればよいのでしょう?)
『大丈夫よ。時が解決してくれるから。』
(迷いの森を通り過ぎましたよね?お祖父様とお祖母様お元気かしら?)
『帰りに寄り道していく?』
(時間的に余裕があればです・・・ちゃんとアポイントは取っておかなくては。急に行っても迷惑でしょう?)
『カテリーナは、他人のことばかりしか考えていないのね?』
(今更お気づきですか?)
『薄々はわかっていたけれど?』
(何年私の守護神をなさっておられるのですか?)
『かれこれ、16年…もうすぐ17年になるわね。』
(もう私も17になるのね・・・あ・・・ウィリアで17の誕生日を迎えるってこと???)
ちょっと、狼狽しかけたカテリーナに女神ユリーナが話題を変えた。
『あら・・・。あの人暇そうね。』
(殿下ですか?)
『なんで名前で呼んであげないの?』
(お友達でもなんでもないですし。)
『でもさぁ。彼だけ敬称じゃあんまりなんじゃない?』
(考えておきます。)
そんな脳内会話をしながらカテリーナはフリードリヒを見た。
迷いの森は突っ切って行ってもウィリアとの国境に着くのだが、山をひとつ越えねばならず、その道中はあまりにも馬にとって負担を強いる道のりであるため大抵の旅行者は大きく海側に迂回をして国境まで行くのである。
迂回路はそこそこ道幅の広い草原地帯であるが、万が一踏み外せば、断崖絶壁から落っこちてしまう危険な旅路である。
新たなる道を作ればよいのだが、ウィルフロート王朝になって以来、フィリアとウィリアの国交はそれ以前よりも疎遠になっていた。
迷いの森から大きく迂回してウィリアのとフィリアの国境まで着くのにおよそ3日ほどかかった。
そしてそこからさらに3日ほど馬車に揺られて王都に到着した。




