結婚の条件
「お嬢様。あの手紙は・・・?」
カテリーナが、父レオポルドに手渡した手紙である。
定例会議の時に読み上げてもらう手はずとなっている。
もちろん当事者であるカテリーナとフリードリヒも特別に招かれている。
「私が結婚するって言うことがどれくらいの意味なのか書いてあったのよ。」
「内容は?」
「今頃伯父様も頭を抱えておられるはずだわ。」
王宮へ上がる支度を急ピッチで調えている。
「うーむ・・・無理難題を持ち出しよったな。」
カテリーナがしたためた手紙を読む国王リベラート。
ぐうの音も出せないほど考え込んでいる。
「これでカテリーナが結婚するのならば安いものだと言えましょうが。」
国王が読み終えた手紙に目を通しつつ、早口で応答したレオポルド。
「これでは、政略結婚の意味がないでしょう。回避作戦ですよこれは。リスクも高い。」
宰相もまさかこんな難題をふっかけてくるとは思っておらずどう説明しようか提出書類を書き換えている。
彼はすでに手紙の内容を知っているようだ。
「うわぁ。とんでもないことを!!」
すべてを読み終わってレオポルドが執務室中に響き渡るような声をあげた。
大臣たちや元老院たちが一堂に介して集まる定例会議はおおよそ終了した。
「定例会は以上。続いて皆々に報告がある。さぁ入るがよい。」
宰相に促され、カテリーナ、フリードリヒの順に入室した。
「カテリーナがようやく婚儀をしても良いと返事があった。
ついては、我らには平和裏にヴィルフレートからの土地を奪還すること。
ウィリア側に援軍要請の撤廃を要求した。」
国王リベラートが発言した。
すると、周りがざわつき始めた。
無理もない。
今までの経緯を見ても到底達成できかねる難問である。
会議に出席した者の中からは無理にもほどがあるという声も聞かれた。
「それができれば結婚していただけるのですか?」
「もちろん。特に、お父様と殿下には頑張っていただかないといけませんけれど。」
自信ありげに高らか宣言した。
「それくらいのことならお安いご用です。」
その発言でさらにざわつきが大きくなっていった。
「一度兄上と交渉させていただけませんか?」
カテリーナにほほえみかけた。
それはあまりにも無謀な発言であった。
一国の国王が一人の令嬢相手に対等に話すとは思えない。
それは彼と交渉したことのある者ならば誰もが信じて疑わない事実である。
「私が・・・ですか?」
「できませんか?」
「そういうことは外務省の方々のお仕事ですわ。」
堅く固辞した。
「まてよ。先に、援軍を断れば相手も油断する。油断は大きな仇であるから・・・」
「な・・・何を言っているのだ?」
「レオポルド!!おまえは正気なのか??」
「あぁ、我が守護神と今計略を詰めている。」
リナルドはレオポルドに
レオポルドはなにやら書き、それを国王リベラートに渡す。
「よし、カテリーナ。フィリアの未来は君に託された。」
「え・・・!?お父様・・・」
「今年の夏、行ってきなさい。」
「それと、ハロルド・ダーニャ並びにエレーナ・ダーニャを見届け人として同行させていただけないでしょうか?」
「陛下、どうぞよしなにお計らいください。」
「よかろう。わしが許可する。」
すくりと立ち上がり国王リベラート王はあっさりと許可した。
国王の決定に従わざるを得ない。
さらりと完結した幕引きであった。
(これで、大義名分は問題ないはずですよ。)
フリードリヒは満場一致の拍手のさなかカテリーナに耳打ちした。
「お父様・・・」
「どうした?」
「ごめんなさい!!」
「何を言っているんだ。いい条件だ。何で今まで気がつかなかったんだ。
こんな画期的な作戦に気づかせてくれてありがとう。」
「イレーニアにも言わないと。私のせいで・・・」
「結婚の話?」
「私が断ったばっかりに意に添わないテオバルドと・・・」
「僕たちが知らない間に親密な関係になっていたらしいから心配いらないよ。
むしろいい。しきたりで未婚のカテリーナに話が上がっただけさ。」
寝耳に水な発言に驚きを隠せないカテリーナ。
「私の目を盗んで何していたのかしら?テオバルドは。」
「テオバルドの妹と仲良くなって、それから知り合いになったとか。」
「私そんな話聞いてないわよ?」
「ははは。うん。これで良い。」
それからはとても和やかな時間が過ぎていった。
「お帰りなさい。」
と、お腹の大きなヴェロニカが二人を迎えた。
「お母様。無理なさらないでください。」
「ありがとう。でも、動かないと後々大変だから。」
「お腹の子にさわるといけないからもう部屋でゆっくりしていなさい。ヴェロニカ。」
「はい。あなた。」
居間に移動したヴェロニカとカテリーナ。
そこで、今回の会議の一部始終を話して聞かせた。
「それで、まだ先のことだけれど、しばらくウィリアに行くことになったの。お母様。私がいなくても大丈夫???」
「私にはマルティーノはカーラがいるから大丈夫よ。私のことは気にしなくていいから。ちゃんと務めを果たしてね。」
「奥様、お嬢様を甘やかさないでください。」
どっしりと構えたピンパル夫人が立ち聞きしていたようでお怒りの様子。
周りには使用人たちがはらはらしている。
「でも、伯父様からの許可はすでに出ているのよ?」
「・・・そうでございますか。それならば今回は仕方ありませんね。」
「まぁ、それならウィリアに行くときの準備をしておきなさい。」
「はい。お母様。」
「それなら、国王陛下に手土産とかも用意しないとね。何がいいかしら?フィリアの特産品を持っていくとか…」
「外務大臣のお父様にご意見をうかがって決めたいと思いますわ。」
「そうね。それが確実よね。」
母と子の会話は弾んだ。
ちょうどそのころ別邸の客室にてフリードリヒとフランツが今後のことについて話し合いをしていた。
「これで、次のステップに進めそうだな。」
「恐ろしや、陛下と交渉をさせるなど・・・」
「これで、大義名分は良い。兄上の技量にかけるしかない。」
「他国のご令嬢を交渉の場に引き出すなど奇策、いえ少なくとも良策とはいえませんよ。」
「フラン、ダーニャ兄妹をウィリアにお招きすることになった。じっくり今後について話し合ってくれ。」
「は??」
たいてい、主の考える先などフランツは読めるはずなのだが今回はなにかよからぬ事を考えておられるに違いないと確信するのであった。
「フラン・・・おまえがうらやましい。」
「な、ご冗談を!!」
「カテリーナに名前で呼んでもらえるなんて…」
「殿下、やきもちですか?」
「うるさい!!!」
「ふふ。かわいいですね。」
主をからかうフランツ。
どうも思い過ごしのようだと先の考えを払拭した。
「お前から言われても嬉しくもない。」
「そうでしょうね。女性から言われたほうがいいですよね~」
と笑っている。
「フラン…!!!」
怒り爆発寸前のフリードリヒをよそにフランツはこう切り出した。
「で、いつウィリアに戻りますか?」
「ルドゥーレ公爵夫人が御出産されてからになるだろう。」
「はい。国王陛下にはそのように手紙にて伝えます。」
思い詰めたようにフリードリヒがつぶやいた。
「一緒に侍女たちは帰そう。多すぎる。」
「容疑者も移送しましたが、全員ですか?」
「あぁ。どうやら裏で何かありそうだ。こちらで新たな問題を起こされても困る。」
「では、一通書状をしたためて国王陛下に直接渡すよう言い含めてください。
陛下がご判断なさるでしょう。」
フランツが一枚の紙を差し出しペンの用意をした。




