令嬢の思惑
「お嬢様、若い家庭教師の方がお見えになられました。」
「ちょっと、待ってちょうだい!今手が放せないの。
せっかくだし、約束の時間には少々早いから家庭教師様には客間でお茶とお菓子をお出しして。」
「承知いたしました。」
『外に一人いる。仲間らしい。』
『あら、まぁ。』
「私だけ行ってくるわ。」
『それが良いだろう。』
『気をつけてね。』
二柱はすっと姿を消した。
執事のハロルドにドア越しに声をかけられ、(いよいよ来たか・・・)と気の引き締まる思いがしたカテリーナ。
ちなみに今日は曇っていて少し肌寒かった。
おそらくは、偵察のためであろうと思われるこのタイミングの家庭教師。安易にOKを出したカテリーナは後悔した。どう考えても怪しいと思い始めたからだ。
ある程度のあちら側の情報を本邸から調べ上げたハロルドからの情報によるとカテリーナ現在の状況などを聞き出そうとしてるらしい。
だが、別の情報によるとゴードン博士が来るというのだ。
おかしい、とカテリーナは思った。ゴードン博士はもうじき70になるいわゆるご老人だ。
それなのに若い家庭教師とは。彼の弟子なのであろうか。
カテリーナは、刺繍をしながら考え事をしていたせいで、刺繍糸が絡まってしまいほどきながら次の一手を考えた。
妹のイレーニアなど、ごく一部の女性を除き、基本的に手紙のやりとりのみがカテリーナと外部をつなぐ手段である。
手紙を届けるに当たり執事として本邸と別邸を行き来するハロルドは双方において重要な情報源である。
つまり、手紙のやりとりをしている父レオポルドが一番よくカテリーナのことを知っていると思えるのだが。彼が何を考えているのかよく分からないでいる。
既にある程度の高等教育を受け終えたカテリーナに今更とってつけたような家庭教師は不審すぎる。
別邸は、普段何人もの警護の人間で守られているためやたら無用には入れない。
なので、別邸の使用人から彼女の最新情報は出てこないので、もし手に入れるためには何らかの形で自ら接触しなくてはならない。
今回の場合、タイミング良く求婚者の申し出を受けるようにとのレオポルドの提案の後、自らが送ってきたとなると、おそらくはあの結婚を申し込んできたという王太子の側近か信頼の置ける人物であろう。
王子自ら来るとは到底思えないが。
(お父様とテフィン公のことはテフィン公からの謝罪文で誤解が解けたとはいえ、まだそのことをお父様にも話してないのよね・・・)
等と余計なことまで思いめぐらせていた為か刺繍糸の絡まりは予想以上に手間取り、ほどくのに小一時間もかかってしまった。
ほどき終わってはたと気がついた。
今カテリーナが着ている服はおよそ貴族のお嬢様が着るような豪奢な服ではない。
どちらかと言えば下働きの少女が着るような所々ほつれが目立つ、質素な服だ。
それは、カテリーナが普段着として愛用している服である。
人に会うときにはそれなりに豪華な服を着る。
しかしそのような服は基本的に一人では着られない。
あれやこれやと着飾るのに結局、家庭教師が別邸に到着してからたっぷり3時間もかかって客間へと向かった。
ドロワーズとか着ないタイプの服装だった・・・!!
失念してました。