ハーブ園にて
「うふふ。これで、カテリーナ様も大人しくなさるでしょうね。」
後日、カテリーナは結婚をする意思をレオポルドに打ち明けた。
しかし、いくつかの条件をつけて。
レオポルドは急な申し出に驚いたが、その申し出を快く受け入れた。
書斎でピンパル夫人とこのことで意見交換をしている。
「噂を大々的に流したのは効果があったみたいだ。」
「えぇ。」
「ところで、当の本人の姿が見えないようだが。」
「確か、別邸のほうにルーチェたちを連れて行っているはずですわ。」
一連の報告を終え、そっと彼女の乳母は書斎を後にした。
「カテリーナ、君は何を考えているんだい?」
試すように書類に目を通す公爵は次の一手について考え始めていた。
ルドゥーレ家別邸の庭にて、カテリーナだけがハーブ園にいた。
ルーチェ達は室内でお茶の用意やら何やらをしている。
「これは、お茶にして飲むと風邪のひき始めなどに効果があるとされているわ。だけど、今のお母様には禁忌だわ。」
とタイムを摘んで籠の中へ。
「こっちは発汗抑制などね。やっぱりこれも今のお母様には禁忌だわ。妊娠中の方には禁忌なことが多いわね。」
とセージを摘んで籠の中へ。
「それは風邪の予防にいいからお茶に少しだけ混ぜておけば予防に効くわね。
シャーロットの好きなジャスミンを一緒に入れて香り付けをして、手紙と一緒に届けてもらいましょう。
ディーレは迷いの森よりも標高が高いし、冬は厳しい寒さでよく風邪をひきやすいから。
私が引きこもっているうちに見つけ出せて良かったわ。
ハロルドと伯父様の研究を見てたら私もしたくなっちゃったから。」
ぼそぼそと言いながらカテリーナは独楽鼠のようにハーブ園を動き回っている。
簡素なドレスを身にまとい、髪は結い上げておらず実に生き生きとしている。
今の時期、フィリアでは花盛りでもあるし、今までのうっ屈した思いを一度リセットするために別邸を訪れている。
そして、いくつかのハーブをお茶や料理によく使う物を特に多めに収穫している。
「それは、安眠に効果があるのよね。」
いくつかのラベンダーをはさみで収穫。
「こっちは、お茶にするとおいしいのよね。」
カモミールを摘み籠の中へ。
ほかの植物から離れたところにある木のところまでやってきた。
「これは・・・ユリーナ様を象徴するローズマリー!!!立派に成長してるわね。」
と言いつつ自分の背丈よりやや低いローズマリーの木を見つめている。
「見頃は終わっちゃったみたいだけど。料理に使うといいのよね。」
フィリアの王族は、自身の守護秦の御神木(または、御神植物)を庭に植える風習があるため、ルドゥーレ家の庭にも樹齢16年のロースマリーが植わっている。
このローズマリーは本邸とは別にカテリーナが7歳の時にジュリアーノと共に植えたものが毎年花を咲かせているのだ。
感慨深く眺めていると仕事をひと段落させたハロルドとベルンハルトの中間あたりの年齢と思しき男性が近づいてきた。
「お嬢様、おやおや。母上にしかられますよ。」
「カミッロじゃない。私がいない間、何事もなかったかしら?」
「あぁ、そういえば陛下が毒草を移し始めました。それくらいですね。」
「ねぇ、ウィリアの侍女方はこういうことをなさらないようね。何名ほどいらっしゃるのかしら?」
「数十人程度のようですよ。あまりにも静かすぎて怖いくらいです。」
ミントを摘みカテリーナに渡す。
「まぁ、世界広しといえどもここまで積極的に庭いじりをされるご令嬢はカテリーナ様くらいなものです。」
「それって誉め言葉?」
「まぁ、そんなところですね。」
「ん??あれは・・・!!!」
昼間から何もするあてのないフリードリヒは何気なしに花いっぱいのハーブ園を見ていた。
色とりどりの花を見ていると今の息の詰まる生活から少し解放されるような穏やかな気持ちにさせてくれる。
変な噂を流されうれしいような悲しいような複雑な気持ちのまま何も言えないことへのいらだち。
そして愛する彼女に会いに行けないことへの不満。
ウィリアから派遣された女官たちの態度への疑念と嘆き。
彼女たちの態度を見るにつれ嘆息が漏れる。
「やはり嫌われているのだな。”嫌われ王子”と揶揄されて・・・」
こんなつらい気持ちを忘れたい。会いたい。そう思っていた。
そんなとき目に入ったのが見知らぬ男と親密に話す彼女の姿であった。
フリードリヒが、着いた時にはすでにカテリーナは必要な分のハーブを取り終え、見かけた若い男の姿はなかった。
「あら殿下。何かありましたか?」
「話していた男は誰だ?」
荒ぶる男を冷ややかな目で見つめる。
「彼は私の乳兄妹のカミッロです。何度かお会いしてませんでしたか?」
「ここへは何用で?」
「そろそろ収穫時期かと思いまして。たくさんとれたときには領民に配ったりしています。
ハーブは料理にもお茶にも何にでも使いますから。かなり重宝するのですよ。」
「お優しい貴女らしい。」
「私らしい?そうかしら。」
「わざわざ自らが収穫する意味は?」
「気分転換ですわ。殿下にいくつかの相談と挑戦状をたたきつけに来たのです。とは言ってもそれはまた後日。おそらく王宮に呼び出しになるでしょう。」
「挑戦状?王宮?」
「事の次第は、追々伯父様からお聞きください。」
フリードリヒはめざとくカテリーナの持っていた籠に目をやった。
「そうか。リベラート様にお聞きすることとしよう。」
「私への愛を見せてください。」
「フランツが顔を見せる度に窶れていくのが見てられん。どうなっているのだ?」
「あのきらめく方でしょうか?きっと恋の病ですわね。」
「あんなにやつれた姿を見るのは初めてだ。」
「あらあら。女性がとぎれない方だと思っていましたけれど?」
「あしらいかたがうまくてね。女たらしと言われているようだ。」
「カミッロみたいね。」
「と言うと?」
「カミッロはところかまわず口説く男だから。」
「エレーナ嬢にも?」
「いいえ。彼女の過去を知っているから。手出しはしないわ。」
「そうか。それが関係あるかも知れないな。何かご存じでしょうか?」
「私からは何も。」
「他には・・・?」
「この夏ウィリアに行こうと計画しているのです。だけれど・・・大義名分が無くて。」
何かひらめいたように顔を輝かせる。
「え・・・!!!」
「計画は完璧だ!!」
「ちょっと!!」
思いあまってカテリーナを力一杯抱きしめる。
その様子を少し離れたところから侍女たちが目撃していた。
「「「きゃー!!」」」
ルーチェたちルドゥーレ家の侍女がカテリーナを救出し気を失っているカテリーナを急ぎベッドに寝かせた。
フリードリヒはこのときほど彼女に完全に嫌われたと思ったことはない。
なんてことをしでかしてしまったのだろうと謹慎が開けるまで悔やみ続けた。
数分後、目を覚まし多カテリーナはけろりとしており、摘んだハーブを持ってこさせた。
「もう帰りましょう。長居は無用よ。相談事も終わったもの。」
「はい。」
一行はゆったりと休息を取ることなく本邸へと引き上げていった。
この話を書いていて、いろいろとサイトを調べてみてわかったのですが、ハーブって奥が深いです。
そして、ローズマリーが紫蘇科の植物であることが判明・・・書き直しました。
が、常緑低木であることが判明・・・また書き直しました。植物は奥深きものですね。




