噂の流布
「ねぇ、聞いた?あの噂。」
「聞いたわよ。とうとう、お嬢様もご決心なさるわね。」
「それってもしかして?」
「きっとそうよ。」
「「「きゃー!!!」」」
とカテリーナ付きの侍女たちが姦しく騒いでいた。
最近ではフィリアでもすっかり春になりルドゥーレ家の庭の花々も一斉に咲き乱れている。
絵画の間でのフリードリヒとの会話からおよそ1週間。
どうやらその会話も密会だと噂されてしまったようで、ますます周囲が彼との結婚に邁進しそうである。
ただし、彼女たちが話しているのはさすらいのベルンハルトとの結婚である。
カテリーナの自室の中まで彼女たちの声が聞こえてきた。
部屋で、一息ついていたカテリーナはその声を聞き、少々イラついた様子でつぶやいた。
「あー、またあの話でしょ!!」
「そのようですね。」
「騒がしいわ。誰が結婚なんてするものですか。」
「まだ、意地を張られておられるのですか?」
「意地じゃないわ。意志よ!」
「まぁ。」
「身分違いの恋ですか。噂によれば。」
「噂よ噂!!」
ピンパル夫人、そしてルーチェ、ハロルドとエレーナもさすらいのベルンハルトがウィリアの王子であることを知っている。
「あら、お似合いですのに。もう、おつきあいなさっておられるとか?」
長年仕える主に向かって茶化すような口ぶりのピンパル夫人。
「だから違うって!!!」
昨日、王宮では貴族や大臣たちが噂の真偽を確かめに執務室まで詰めかける騒ぎとなっていた。
執務をこなしながら国王リベラートは淡々とこう答えている。
「まだ、結論を出すには早い。しばし待て。」
と。
それを父(養父)レオポルドから聞き、今までにない落ち込み様を見せている。
「はぁ、伯父様・・・にまで。迷惑をかけてしまうだなんて。」
「そういえば、昨年はお転婆以上に派手な行動をなさいましたよね???」
「う・・・だって・・・」
「カテリーナ様はすでに成人なのですよ?レディなのですよ?
しかも王族の令嬢とあろうお方がこのようなことをなさってはルドゥーレ家の恥になりかねないことをご存じでございますよね???
・・・今までなりを潜めておいでだったのでしょうね。これで私の教育も終わったなと思っていたら・・・」
「もうしないわよ。どれだけみんなに迷惑をかけたのか今回の件で重々わかったから。」
「この前の王宮でも、コンスタンティーノ様に牢屋に入るよう勧めましたよね???
後処理が大変だったと苦情が・・・はぁ、私の教育が間違っていたのでしょうか、カテリーナ様???」
針のむしろのようになったカテリーナはテーブルに顔を伏せた。
カテリーナにお説教をしているのは、ピンパル男爵夫人という貴族の中でも礼儀品行に特に厳しいことで知られている女性である。
カテリーナの乳母であり、教育係でもあり、侍女頭でもある彼女はカテリーナにとって大事な人物であり悩みの種でもある。
このお説教から逃れるには…話題を変えるのが一番である。
ただし効果は一時的であるが。
「ところで、お母様の体調はいいのかしら?」
「えぇ。順調だそうですわ。」
ヴェロニカの懐妊がわかってからおよそ半年。
月満ちて近々出産予定である。
「そろそろよね。」
「はい。もうまもなくかと。」
「男の子かしら女の子かしら?」
「生まれれるまでのお楽しみですよ。」
「ねぇ、夫人。私もそんな日が来るかしら?」
「間もなく来るかもしれませんね。」
「それで私幸せになれるかしら?それよりも、みんなが幸せになれるかしら?」
「そうなるでしょうね。早く見せていただきたいものです。」
「みんなが幸せになってくれるなら私は、それでいいの。それは平和であればこそだものね。」
「ですが、現実は領土問題が解決しておらず、ヴィルフレートとの戦争は避けられないとか。
まぁ、噂が国内にこれだけ流れればあちらも何か仕掛けてきましょう。」
夫人はまっすぐな視点で語る。
(どうすればこの国難に対処することができるかしら?
ウィリア国王フェリックス様も肝入りの私と殿下の結婚・・・お父様も叔父様もそれを望んでいらっしゃる・・・
でも私が”はい、嫁ぎます”と言えば、他の求婚者との摩擦は避けられない。
最悪北の帝国から再度攻められることも考慮しなくては。私はどうすれば・・・)
カテリーナはむっくりと起き上がると、バルコニーに移動し本邸の庭を眺めている。
「今は花の見ごろよねぇ…」
「別邸ではハーブの花々が咲き乱れているとか。」
季節は春。花満開の別邸の庭に心はせながらカテリーナは、今後のことについて考えをまとめ始めた。
この平和を守るためにすべきことを。
(なんで結婚したくないのかと言えば…平和を乱すことになると判断したからなのよね?
ユリーナ様は極論だとおっしゃった。まだ道はあるかも知れないわ。
あ・・・そうだわ。こうすればいいじゃない。)
そう思ったカテリーナは、あれこれ構想を練り始めた。
その顔には笑顔がのぞいていた。




