フィリア王子の乱入
「大した距離もないのになぜ手を引いて行かれるのですか?」
引っ張られるままに引きずられるように歩いて区カテリーナはフリードリヒに質問した。
「誰も見ていませんから。」
フリードリヒがにこやかに答えた。
確かにカテリーナとフリードリヒの周りにはピンパル夫人以下侍女たちと警護の者が数人両脇を固めていた。
だが、隙間からはカテリーナとフリードリヒの手をつないだ姿が、ばっちり見えていたりする。
「待て!!!」
後ろからダダダッという音と共に何者かが近づいてきた。
二人の周りの人たちが一斉に振り向くとそこには剣を抜いたコンスタンティーノが走ってきて、立ちふさがるように二人の目の前で止まりフリードリヒに向けて切っ先を突きつけていた。
「姉貴は渡さねぇ!!」
「コンスタンティーノ!!」
「な・・・!!」
「「「「王子様!!」」」」
遅れてコンスタンティーノ付きの侍女や近衛たちが走ってきた。
「止めなさい!!」
「なんだよ!姉貴!!」
「もう。どこからそんな情報を仕入れてきたのかしら?私とセザール様ならいいというわけかしら?」
「そういうわけじゃない。あの時はちょっとからかってみただけだ。なのに、本気にするから…」
「子供じみたことを…」
『カテリーナもどっこいどっこいだけどね。』
(ユリーナ様。今は黙っていてください。)
『はいはい。』
いたずらっ子のようにカテリーナのだけに聞こえる声で話しかけた女神ユリーナは早々に話しかけるのをやめた。
「コンスタンティーノ。止めなさい。」
「なんだよ!」
「王宮でむやみやたらに剣を振り回すのは、フィリアの王族のしきたりに反することよ。
貴方はそれをわかってやっているのね?」
「それが・・・」
なんだというんだと言い終わる前にカテリーナが諭すように言った。
「じゃあ、それに反した者は牢屋に入れられることは知っているわね?」
「くっ・・・」
「わかったわね。ジョヴァンニ、コンスタンティーノを牢屋に入れてくれないかしら?」
「え・・・!!」
「だってそれがしきたりですもの。ねぇ。そうでしょう?」
とその場にいた侍女や近衛たちに同意を求めた。
誰も何も言えなかった。それは確かにしきたり通りであったからだ。
「・・・俺は王子なのだぞ!!」
「王子だからこそです。下の者に示しがつかないではありませんか?
上に立つものが特例で許されるとでも思っているのかしら?」
とカテリーナはポシェットに入れていた扇子で口元を覆いながらびしっと言った。
「早く連れて行ってちょうだい。」
「いつか決着をつけてやる!!」
暴れるコンスタンティーノをジョヴァンニたちはとりあえず5人がかりで押さえつけ部屋に連れて行った。
フリードリヒが興味深げに聞いた。
「そのしきたりは本当にあるのですか?」
「えぇ、あります。ですがあれくらいのことではそう咎められないと思います。
今回はコンスタンティーノに頭を冷やさせようと思いまして。」
「は・・・はぁ。」
「万が一のことがあった場合は・・・命をもって償わなくてはならないこともございますし。」
ははは・・・と顔が引きつったままのフリードリヒにカテリーナはこう聞いた。
「王立軍隊の軍事訓練などは王宮の外でするのでしょう?」
「はい。王宮には広い場所がないだけだと思っていましたが。」
「うふふ。実はこういう意味があったのです。不測の事態があれば剣を抜くこともあるでしょうけれど。
そうそう、言い忘れていましたわ。王族に対して『けだもの』というだけで反逆罪に問われますからフィリアではつつしんでくださいね?
今回は知らなかったとはいえ、次はありませんから。」
と真顔で言われた。
カテリーナが真顔で言うときはかなり怒っている証拠である。
「・・・以後気をつけます。」
と弱弱しく言った。
「あの時、私は殿下を傷つけないようにと思ったのと人目に着かないように夜の間に移動したのですよ。」
「それは、何故ですか?」
「殿下を物理的に傷つけたらウィリアと戦争になりかねませんから。」
「殊勝な心がけですね?」
「そうかしら?」
「そうであってほしいです。」
かなり表情を硬くしながらフリードリヒは答えた。
「それよりもいいのですか?謹慎中なのに。」
「謹慎は明日からなので。」
「ではなぜ王宮に?殿下こそご用事があったのではありませんか?訓練は?」
「今日は非番です。それに用事は午後からですので。」
「そう。ということはあと2時間ほど時間があるのね?」
「はい。」
「コンスタンティーノには私の成人の儀に殿下との縁談があることを知っていたはずなのに。
コンスタンティーノは嘘だと思っていたみたいですね?」
「でしょうかね?」
「それは、きっと伯父様がコンスタンティーノに意図的に話していなかったからだと思います。
エワーズのテオバルドとの縁談の時などはすさまじかったそうですから。」
「想像に難くありませんね…」
「ですから、私の求婚者だとわかってしまった殿下もコンスタンティーノからの容赦ない攻撃を受けることを覚悟してくださいまし。」
とカテリーナは言いつつ、ポシェットに扇子を戻して再び歩き始めた。
フリードリヒも手をつないだまま一緒に歩き始めた。
(それにしても・・・今日の殿下の服装・・・ありえないわね・・・)
今日のフリードリヒの服装は、モスグリーンのジャケットに白いシャツと黒のズボンとここまでは普通だ。
それに合わせるネクタイは・・・サクランボがらのネクタイであった。
この服のコーディネートはフリードリヒ自らなのかそれとも専任の侍女などがいるのだろうか…
謎である。
あまりにも個性的すぎるファッションである。
そして、二人が手をつないで歩いている姿をどこかで見たいづれか者からもたらされた情報は王都内で噂となり、後から結婚間近という尾ひれがついてカテリーナたちの耳に入るのであった。
また、エントランスから絵画の間まではほんの5分10分で着くはずのところにコンスタンティーノの乱入があったために30分もかかってしまった。
一行が絵画の間まで着くとカテリーナは、侍女たちにこう言い残した。
「みんなはここで待っていてね?」
「わかりました。」
とお付きの者を代表してピンパル夫人が答えた。
別段逢い引きをするつもりもなかったのだが、聞かれるとまずいこともあるので侍女や護衛をおいていったのである。
しかし、それはフリードリヒにとって二人きりになる格好の材料になることをもちろん加味して。
カテリーナはあのときの言葉は本心なのかどうなのか少し試してみたかったのである。




