薪拾い
「早く下山をしてください!冬の迷いの森は危険すぎます!!」
カテリーナがそう訴えても下りるつもりがないらしい。
できるだけ被害を防ぐにはどうしたらいいか考えてみた。
「そうですか。それなら殿下と従者殿は残っていただいてもかまいません。
ですが、捜索隊を解散させてください!」
「何故?」
「彼らを巻き込まないでください。彼らは優秀な人材なのですよ?それをこんなところまで連れてきて。」
「一理ありますが、仮にも貴女は王族なのですよ?そこのところの自覚をお持ちください。」
「わかっています。・・・殿下もウィリアの王族ではありませんか?
それは置いておきまして殿下たちはこちらに滞在してください。
こちらでは、働かざる者食うべからずですから、薪割りなどをしていただければ結構です。
そばにいたいというのならこちらのほうがよいとは思いませんか?」
「あ・・・いや。そういうことではなく…」
「部屋はあと2部屋空いてますからご心配なく!!」
と、言いつつ小屋のドアを勢いよく閉め、カテリーナは薪拾いに出かけた。
カテリーナが小屋を出たのは薪が足りないというわけでなくフリードリヒとフランツのそばにいたくないというのが本音だろう。
森で小枝を拾いながらカテリーナは空を見た。
今年はまだ雪が降る気配がない。
毎年この時期には初雪が降るのだが、今年は暖冬のせいだろうか?
薪を拾っていると、ベイリーがワンワンと言いながらかけてきた。
「ベイリー?お祖父様と一緒じゃないの?」
カテリーナの足元に寄ってきてカテリーナのほうを見ている。
「いつの間にベイリーと仲良くなったのかしら?ベイリー、貴方は番犬なのよ?
普段なら知らない人には吠えて噛みつくのだけれど。おかしなこともあるものだわ。」
と言いつつ、ベイリーの頭をなでている。
カテリーナ日が付いてくる男が一人。
「私とフランだけ残ることにしました。」
「・・・」
「この犬は獲物を追いかけていた途中で殿下に付いてきてしまったようなのです。」
「我が愛しき君が心配で3カ月もの間フィリア銃を探しまわってやっと見つけたのですから。」
「その言い方はやめてください。恥ずかしくて仕方がないのです。せめて呼び捨てにしてください。
って、笑いごとではないですよ?時には一人にさせてください。
ベイリー貴方はお祖父様のそばに戻りなさい。」
と言ってベイリーの背中をたたいた。
ワン!と言ってもと来た道を走って行った。
「では、カテリーナと呼ぼう。カテリーナ、そうはいかないのです。
いつ何者かが襲ってくるやもしれませんから。」
「私のことはほっておいてくだされば良かったのに。」
「でも、前回はそうはいかなかった。ですよね?」
「えぇ、敵の数が多すぎました。」
「たまたま居合わせて良かったです。そういうことが起こりうるのですから。」
「ですから、冬になれば人もむやみやたらに出てくることはないのです。ご心配には及びませんわ。」
(大変な人に目をつけられてしまったわね・・・)
話題を変えようとフランツに話を振ってみるカテリーナ。
「フランツはダーニャ家に行かなくていいのかしら?」
「エレーナから聞いたのですね!!ありがとうございます。
ダーニャ家に行くと当主のハロルド殿に追い返されますから会いたくても会えないのです。
ですから、恋文を毎日書いてます。」
「・・・そうですか。」
「うらやましいなどと思いになられましたか?」
「別にそういうつもりではありませんよ?私が引きこもっている間毎日のように手紙が来てましたし。
何と返事をすればよいかわからず、返事は一切書いていませんけど。」
「道理で、いくら待っても返事が来ないわけだ。」
(返事、待っていおられたのね。)
またしてもカテリーナは話題を変え、フリードリヒに聞いてみた。
「そう、そういえば。あの時襲ってきたのは賊で間違いないのですね?」
「えぇ、間違いないと思います。」
「不思議な話ですね?お祖父様や村の方々から聞いた話では今まで、迷いの森で山賊や盗賊がここに出てきたという話は聞いたことがないのです。」
「ほぅ。」
「何かの隠れ蓑にするつもりなのかもしれません。」
「たとえば誘拐とか。」
「ヴィルフレートの者?」
「あり得ない話ではないと思うのです。セザール様の言う時期尚早という言葉。何か企んでいるかもしれません。」
「それならばなおさら危険すぎます。早く本邸にお戻りを。」
「自分の身ぐらい自分で守れます。」
押し問答になり、カテリーナはフリードリヒに気になっていることを聞いた。
「そこまで心配する必要があるのですか?」
「あなたを愛しているからです。」
「あり得ないわ。どういうことなの?」
「まだ・・・言い足りないくらいですね。」
「その言葉をいったい何人の方におっしゃったのやら。」
とカマをかけてみたカテリーナ。
「いませんよ。カテリーナ。貴女だけです。」
「では、名うてのハンターとの異名を持つというその根拠は一体どこに?」
「それはフランでしょう。それも昔の話ですよ。」
「まぁ、従者として近くにいたのですから殿下とフランツ殿が混同しても無理のない話ですわね。」
この際カテリーナはどうしても気になっていることを聞いてみた。
「もう一つ気になっていることがあるのですけれど、鬘はまだつけていらっしゃるようですが、国王となられてからも付け続けるおつもりなのですか?」
「立太子をしてからは外す予定です。」
「え・・・???」
「殿下はまだ正式には王太子ではないのです。ウィリアでは妻を娶ってから出立太子をする習わしなので。殿下はまだ独身ですから。」
とフランツが言った。
「ま・・・まだ、王子ということですか?」
「王太子には内定していますよ。兄上から直々にお話がありましたから。」
「そ・・・それで、何故私…なのですか?何故私を追い求めて・・・」
「人生は一度きりですから。愛する人と一緒になりたいと思いまして。」
と少し恥ずかしそうにフリードリヒは答えた。
「・・・」
(それは、まぁ、わからなくもないのだけれど。限度っていうものはないのかしら?
何を間違って私なのかしら?)
とカテリーナは多少引いた。
もうすぐ20になろうという青年が顔を赤く染めて理想の結婚像を語っているのである。
その様子はまさに初々しいという言葉がぴったりである。
「王族に生まれたのが何かの間違いだったかも…」
とカテリーナがぽつりと言った。
「?」
「そうであったのなら、私は殿下と会わずにすんだわけですよね?」
「???」
「私が何度あきらめてほしい、と言ってもあきらめてくださらなかったのはそういう理由からだったのですね?」
「違う!それは断じて違う!!たとえ身分の低いものであってもカテリーナと・・・」
「違いません。どの殿方も私の家柄、容姿ばかりを気にして。
私の内面は二の次三の次なのです!
それに、政略結婚の相手はどのみち殿下もしくはマリユス皇子のどちらかであるのは明白です。
先の戦争で我が国は疲弊しています。
自国でどうにもならない場合は経済的にも裕福な他国と結びつくのが自然ではありませんか?
どなたにしても私の願望まではかなえられないのです。」
それは、カテリーナが生まれる2年前まで続いた大きな戦争だった。
それにより、およそフィリアの人口の5分の1もの命が失われてしまった。
それを歴史の授業で知ったカテリーナは身震いした。
そして、その戦争の事後交渉をしたのがマリーナ・サントリナ・グレーデであった。
交渉成立の報告をするために王宮へ向かったときに国王に見染められてのちに王妃となったのである。
マリーナ王妃がカテリーナの実母と知る前からカテリーナは彼女の意思を継ごうと心に決めたのだった。
「ですから、私は・・・」
「そうならないように、みんなで力を合わせていけばよいではありませんか。そのように考えているのはカテリーナだけではありませんよ?」
「・・・」
「どのようにすればよいのですか?具体的な案とはどのようなものでしょうか?」
すぐには答えられないフリードリヒとフランツ。
「単なる気休めですのね。」
キッとフリードリヒをにらみつけた。
「私は先に帰らせていただきます。」
これ以上話しても意味のないといわんばかりのオーラを出しつつ、フリードリヒたちを残して足早に帰路についた。




