とある兄妹の訪問
「なんで殿下がここまで乗り込んできたのよ?一国の王子様がこんなことしていいの・・・?」
と独り言を言いつつ当惑しているカテリーナだったがあるとこに気がついた。
(そろそろ、ここにも初雪が降る季節ね。そうなったらここから引き揚げるはずだわ。)
迷いの森の冬はフィリア一厳しい地域だ。下手すれば遭難してしまう。
出来るだけ早いうちにふもとの村まで下りてくれればいいのだが・・・
日に日に寒くなってきた。そろそろ雪も降ってくるだろう。
今日、アンナは婦人会の集まりでふもとの村まで行っていた。
ジュリアーノは冬に備えてベイリーと共に狩りをしに行った。(薪も拾いつつ)。
ということで今小屋にいるのはカテリーナと猫たちが2匹だけである。
小屋はすべて施錠されているがカテリーナはたとえ人が来ても居留守を使うことに決め、自分の部屋で刺繍をし始めた。
やってくるとしたらこの時ほど彼らがやってくるのに都合のよい日はないだろう。
針を進めながらときどき猫のルチアがをなでているとゴロゴロと言った。
ルアーナは、カテリーナの足元で寝転んでいる。
そんな静かな小屋の一階で物音が聞こえた。
(誰か侵入したのね。)
と思ったカテリーナは刺繍をやめ耳を澄ました。
複数の足音がどんどん2階へと近づいてくる。
カテリーナはルチアを抱きあげつつ、とっさに自身のクローゼットの中に身をひそめ、様子をうかがうことにした。刺繍は机の上に置いたまま。
「どこに行ってしまわれたのかしら?」
女性の声が聞こえたのでクローゼットの隙間からのぞくとそこにはエレーナの姿だけがあった。
「エレーナ、こっち、こっち。」
とカテリーナはクローゼットの扉を開けながらエレーナを呼んだ。
「あっ、こんなところに。」
と言いながらクローゼットのほうへ歩みだしたエレーナ。
「あなた、フランツと一緒に付いてきちゃったの?」
「いいえ、ハロルド兄上と一緒に。カテリーナ様の様子を見に行くようレオポルド様からたのまれたのです。
そこで、カテリーナ様。噂によるとあの方々はカテリーナ様を見つけてしまわれたようです。どうなさるおつもりですか?」
「・・・その前に小屋にはかぎが掛かっていたはずよね。鍵はどうしたの?」
「ジュリアーノ様に借りてきました。」
と言って鍵を見せたエレーナ。
「・・・ハロルドに言ってちょうだい。彼らに早くこの山から下りるように。と。」
「カテリーナ様???そ、そうですわね。ここは南にもかかわらず冬は厳しいと聞き及んでおりますから。」
「あー。どうして私の計画をことごとく打ち破ってくれるのかしら?」
「カテリーナ様…」
「エレーナ。私の願いは国民の平安と安定した暮らしを営めるようにたくさんしなくてはいけないの。ウィリアに行ってしまえば私は・・・どうすればいいの?
私の考えに賛同してくれるような殿方は決していないの。普通の令嬢のように着飾って舞踏会や晩餐会に出席して。おとなしくしているのが普通なのだもの。
もっと他国で学ぶ必要があるというのに。このまま私は結婚しなくてはいけないのかしら?
結婚すれば自由にすることは出来なくなる。あぁ、どうすれば。」
と、強がっているような顔をしながらカテリーナは言い切った。
「カテリーナ様。カテリーナ様は殿下のことをどのようにお思いでしょうか?」
「え・・・」
「あの時カテリーナ様は私に『心の整理をつける』ようにおっしゃいましたね。
カテリーナ様もご自身の気持ちを整理なさったほうがよろしいと思いますわ。」
「私は決まっているの。だから、殿下には申し訳ないけれどあきらめていただくしかないのよ。そのためにいろいろとしてきたのに。」
実際のところカテリーナに思い人はいない。
が、彼と結婚する意思がないということを心に決めているのである。
「逆に興味を持たれてしまわれたようですね。」
「どうにかしてほしいわ・・・」
今までと同じ答えに苦笑するエレーナ。
本心を聞き出せないとわかると、すぐに話題を変えた。
「そういえば、リタを覚えていらっしゃいますか?」
「エレーナを突き落とした侍女でしょ?」
「えぇ。実は彼女私ではなくカテリーナ様を落とすつもりだったようです。」
「・・・人違いもいいところだわ。」
「彼女は奥向きでほどんど部屋から出なかったせいで私とカテリーナ様の見分けがつかなかったとか。
たまたま階段を下りていた私を見つけて突き落としたそうです。フランツ様から教えていただきました。」
と、エレーナははにかんだ。
エレーナは運悪く打ったところが頭部だったせいで一時は意識不明に陥ったものの彼が原因ではなかったことと、その後の紳士的な振る舞いにすっかり心を許しているようだ。
(勘違いとはいえ恐ろしい…)
リタという女性の情念にカテリーナは恐ろしくなってしまった。
「忘れるところだったわ。エレーナ、小屋のかぎを閉めたかしら?」
「えぇ、抜かりなく。」
「もし、彼らがここのあたりをうろついていたら出られないわよ。」
「大丈夫です。知り合いの家だと言って・・・」
「それこそ怪しまれるでしょ。殿下たちもおおよそ私の正体に気付いているみたいだし。」
「本心を言ってあきらめてもらえばよろしいのでは?」
「無駄だと思うわ。無理矢理自国に連れ去られるかも知れないもの。」
(まさか、ここまで追ってくるとは・・・)
そう、この山を越えた先はウィリア王国である。
カテリーナはよもやフリードリヒがここまで追いかけてくるとは予想だにしておらず、ここにきてようやく重要なことを失念していたことを悟ったのであった。
「それでエレーナはいつ戻る予定なの?」
「明日には戻ります。ハロルド兄上と一緒に。」
迷いの森某所ではハロルドとフリードリヒが偶然出会っていた。
「貴殿がここにいるということは・・・なるほど我が愛しき君もやはりこちらに。」
「それはどうでしょうかね?私はジュリアーノ様に会いに来ただけです。
殿下、ご存じですか?
カテリーナ様は結婚には消極的なのです。それなのに強く迫っては逆効果であるということを。」
「そうでしょうか?あの時も5年も引きこもったまま一向に出てくる気配もなかったではありませんか?」
「・・・あの時はタイミングが悪かっただけです。」
「タイミングねぇ・・・。ではお聞きしますが、ダーニャ伯爵はルドゥーレ公爵令嬢についてどうお思いですか?」
「そうですね・・・命の恩人ではありますが。今も私はなくした妻を今でも愛していますから。よく似た方は・・・ふふ。」
「一途なのですね。」
「殿下ほどではありませんよ。」
「ほめことばとして受け取っておきましょう。」
「殿下。ここの冬はフィリアでも有数の豪雪地帯ですし、遭難したら生きて帰ってこられませんので早めの下山を推奨しますよ。」
「お気づかいどうも。」
「はぁ。殿下!しばらく一緒にいる機会が多かったので一言言わせていただきます!!
うじうじしていないでズバッと本心を言ってしまえばよいではありませんか?」
「・・・」
「だから周りから言われるのですよ?とくにヴィルフレート帝国の皇太子はいまだにカテリーナ様を狙っておられるのですから。サッサとカテリーナ様をものにしてください!」
「な・・・」
「しつこく追い回したところで逃げられるだけです。」
「言おうとしたら逃げるのだ…」
「そうですか・・・。もう一言申し上げてもよろしいでしょうか?
何故殿下は、カテリーナ様を追い回すだけの行動力があるのになぜ言えないのですか?」
「何故って…」
「拒絶されるのが怖いからですか?」
「今までに何度も求婚を断られているのだ。慎重にもなるだろう?」
「直接伝えたわけではないのでしょう?当たって砕けてみては?」
「フランにも言われたが、どうしても言えないのだ。砕けるのはいやだ。」
するとそこへ、仮から戻ってきたジュリアーノとベイリーがやってきた。
「ジュリアーノ様!」
「おやおや珍しい。ハロルドではないか。」
「お元気そうでなによりです。」
「うむ・・・して、そちらは?」
「まぁ、知り合いです。で、あなた様は?」
「わしか?わしはなぁ。昔剣豪として有名じゃったんじゃよ。
ハロルドは弟子じゃ。孫はハロルドの姉弟子でな。7歳の時からわしの弟子でなぁ。筋がいいんじゃ。」
と言ってのけてしまった。
(師匠~~~それを言ったらカテリーナ様が孫だってばれるではありませんか!!!)
というハロルドの心の声もむなしくとどめの一言をジュリアーノは話してしまった。
「実は昔、わしはルドゥーレ公爵として生活をしておった。が、息が詰まってしょうがなくてな。妻と早々に引退したんじゃよ。」
(あ~~~~それを言ったらもう、ばればれですって!!!)
「そうでしたか。やはりそうだったのですね。」
とフリードリヒはうんうんと頷いている。
「カテリーナ様…無念です。」
とハロルドは小さくつぶやいた。
ジュリアーノはのちに、彼の正体を聞いて以上の発言をしたことを後悔した。




