ダーニャ領の神殿
「一体どこに隠れてしまったのか・・・」
一人の男が、ある女性を捜していた。
女性の名前はエレーナ・ダーニャ。
カテリーナの侍女見習い兼保護をされていた女性だ。
ハロルドもどうやらエレーナと一緒にいるらしいのだが、カテリーナはどこへ隠れたのか口を頑なに閉じていた。
カミッロに至っては振られたんだよ。などと心ない言葉を浴びせられた。
仕方なく他のものにも聞いてみたが、誰も知らなかった。
彼がエレーナに最後に会ってからおよそ2ヶ月ほどが経った。
(もう一度、ダーニャ伯爵領のあるガニアへ行ってみようか。)
彼が今滞在している別邸からガニアへは馬で小一時間ほどだ。最近歩いていないので歩いていくことに決めた。
ダーニャ領は王都からもほど近い。
それにダーニャ伯爵家は近いうちに侯爵になるのではないかとも言われる名門貴族だ。
そして、医者になる者がダーニャ一族では半数以上で、代々直系の伯爵家は国王の主治医を務めている格式ある、一族である。
(そう、ハロルド殿も昔医者だったそうだな・・・)
ガニアの町の手前にある由緒正しそうな神殿までたどり着いたとき、
「おい!!俺の娘がここにいることくらい分かっているんだ!とっととだしやがれ!!」
と神殿の前で怒鳴っている男が一人。
だが、神殿の中では誰一人として声も上げない。気になって聞いてみたフランツ。
「どうかなさいましたか?」
「俺の娘がから逃げ出したんだ。どうしてくれるんだよ。」
「ほぅ。それで?」
「あの子を娼館に売ったんだ。だけどいつの間にか逃げ出してて、金に困っているんだ。」
「それで、その子は幾つになる?」
「今年で5つだ。」
聞いてみて驚いた。年端もいかない少女を金に困って売ったというのだ。
「我が娘の人生と金どちらが大事か!」
「あんたにゃ関係ないだろうが!!!」
といい、殴りかかった男の腕をフランツはぐいっと曲げた。
そして、腕を背中側に回して締め上げた。痛がっていたようなので、放すと、
「次はないから、覚えとけよ!!」
男は捨て台詞を残し去っていった。
そんな彼を見送ってフランツもガニアへ向けて足を進めた。
ようやく、わめいていた男の声がしなくなり、神殿の中にいたエレーナとカーラが出てきた。
カーラとはカテリーナが以前お世話になった神官ジャンニのいる神殿に丁度カテリーナがやってきた日と同じ日にやってきた5歳の少女である。
「どうにか、帰っていただけたみたいね。カーラ。」
「エレーナお姉ちゃん・・・私、これ以上みんなに迷惑かけられないよ・・・」
「大丈夫。」
「でも・・・お父さん、ここらじゃ、腕っ節が強くて有名なんだよ?」
と言うカーラの頭をなでながら、優しい声でささやいた。
「ちょっと様子を見てくるね。」
と言って入り口のあたりから様子を見に来たエレーナは驚愕した。
(間違いないわ。あの男だわ。)
そこには、エレーナが出来るだけ会いたくないフランツ・ランバートル本人の後ろ姿が見えたのだ。
(ここも、危うくなってきたようですわ。兄上に相談してみなくては・・・)
ハロルドが外出先から戻ってきて、エレーナが、今日会ったことについて話した。
「それで、どうするつもりだい?」
「それを相談しようと兄上の帰りを待っていたのです。」
「ん・・・このままいてもらちが明かないし。どうしようか・・・」
「やはりここはカテリーナ様にご意見を伺った方が宜しいのかもしれませんわね。」
「カテリーナ様は・・・おそらく・・・」
あの衝撃的(?)な日々からおよそ1週間。
カテリーナは16の誕生日をとっくに迎え、誕生会が終わった翌日、シャーロットもまた自国へ戻り、王宮から本邸に戻り、別邸へ引きこもる前の生活のように本を書いたり、気が向いたら刺繍をしたり、本邸には庭はあっても畑がないので、農作業は一切しないでいた。
無論、服もぼろぼろの服を着ていない。農作業しやすい服ではあるが、いつどこで貴族と会うとも限らないからである。
ただ、依然と変わったのはフリードリヒの毎日訪問であろう。やはりしつこい王子である。
そんなにしつこいと嫌われてしまうぞと同僚は口を酸っぱくして言うが聞く耳を持たない。
そんなゆったりとした時間の中、カテリーナの部屋を久しぶりにハロルドが訪ねてきた。
ハロルドから一部始終を聞いたカテリーナは、彼女たちをここ、本邸で保護することを独断で決めた。
「とうとう、かぎつけたみたいね。それでは、ハロルド。カーラとエレーナを私の元へ連れてきて頂戴。
分かっていると思うけどカーラのお父様とフランツに見つからないようにね。」
「はい。」
「ここも賑やかになるわね。事前にお父様とお母様に彼女たちの滞在許可をもらいましょう。
カーラのお父様・・・なぜ実の娘を娼館なんて所の入れようとなさったのでしょうか?
まだ、年端もいかないのに。」
「・・・ところでエレーナは良いとしてカーラはどうするおつもりですか?」
「丁度・・・というわけではないけれど、弟にも年の近いお友達とふれあいを持って欲しいなと言うことと彼女にいろいろと勉強を教えようと思って。」
「はぁ・・・」
「・・・私がほっとけると思ってる???身の危険を感じている少女を。」
「いいえ、カテリーナ様は絶対何が何でも保護しようとなさいます。7年間一緒にいますので手に取るように分かります。」
「わかったら、出来るだけ早く事を進めて頂戴ね。」
走り去るハロルドを見送った。
「弱き者を助けるご令嬢はお嬢様だけですから。」
「私と同じように困らないように少し手を貸すだけよ。」
おいしそうにシフォンケーキをほおばる主を胸騒ぎのする心を押し込めるように優しく見守る。
翌日、カーラとエレーナは無事ルドゥーレ家に到着した。




