本邸へ
「まぁ、まぁ。カテリーナお帰りなさい。あら、貴女一人なの?」
別邸を出てからおよそ3時間。あいにくの曇り空だったが、午前10時くらいにルドゥーレ公爵家本邸へとやってきたカテリーナ。
イレーニアは王宮で、花嫁修業をしている。
レオポルドは仕事でしばらくフィリア王国を離れている。
故に、母ヴェロニカと嫡男が今現在、この屋敷に住んでいる。
「ハロルド達は別なところに今はいるのよ。」
「そうだ。ルドゥーレ公爵家に跡継ぎが出来たのよ。いらっしゃい、お姉様にご挨拶なさい。」
「・・・初めまして。」
と母ヴェロニカの影から小さく挨拶した。
「顔見知りが激しくてね。マルティーノと言う名前なのよ。かわいいでしょ?」
「初めまして。私、姉のカテリーナと申します。これからよろしくね。マルティーノ。」
と、ヴェロニカから前へ出された少年の頭をなでた。
こわごわとカテリーナを見る当たりとても人見知りが激しいようだ。
午後になり、テフィン公爵がカテリーナを訪ねてきた。
「テフィン公爵様。あのときは・・・お手数おかけして申し訳ございません。」
「いやいや、良いんだ。僕が変なこと言っちゃったせいだし。5年ぶりだしね。顔を見たくなったんだ。」
「叔父様。いろいろ調べたり、侵入者殿に聞いてもよく分からないので少しご相談しても宜しいかしら?
なぜ、ウィリア王国の王子は強引に結婚を迫ったりなさらないのでしょうか・・・?
お父様も叔父様ももう少し強引に進めても良かったのではないでしょうか?」
「まぁ、先代の王妃、マリーナ様の事もあって慎重なんだろうね。
おそらくウィリア王国の王子はもう一人の候補を牽制しつつカテリーナと仲良くなって、円満に嫁いで来て欲しいと言う心情からの行動だろうね。」
「まどろっこしいわ。私が第三の人物と結婚してしまったらどうするおつもりなのでしょうか?」
「そのような相手が、おられるのですかな?」
「・・・たとえですよ。いるわけないじゃないですか。最近やっと巫女よりも結婚したいと思い始めたばかりなのに。」
「おやおや・・・。もうすぐ成人というのに。恋の話の一つもないとは。」
「いいでしょ。私がいつ恋して結婚しようと私の勝手ですから。」
「だが、その結婚はどのみち政略結婚だろうがね。」
「それも王族に生まれた私の宿命でしょうけど。あまり気が進みませんわ。はぁ、引きこもっていた別邸を占拠されて頭に来て出てきてしまいましたわ。」
「ふ・・・はっはっは~。兄上らしい。そうやって君を引きこもりから抜け出させようとなさったわけだ。」
「何がおかしいのですか?」
「ん・・・あっ、いや。兄上は実際、策士だなと思ってね。普段はどうにかこうにか執務をこなしてるから。」
「きっと、お父様や、宰相様の入れ知恵ですわ。」
「フィリア王国において政略結婚の駒となりうるのは君たちルドゥーレ公爵家姉妹しか王族の血縁の娘で嫁げる者はいないからね。
イレーニアは決まったし、残るは君だけなんだ。」
「北の帝国は願い下げですわ。私、一度監禁されたこともございますので。」
それは、カテリーナが7歳の頃。レオポルドと一緒に皇帝に呼ばれたときのこと。
いつものようにカテリーナは、面白くもない話になど興味を持たず、勝手に王宮内を探検し回っていた。
そこで、第一王子に会い、勝手にコレクションなるものの一つとして後宮に1ヶ月にわたり監禁されるという事件があった。
幸いにして帰ってこれたのだが、コレクションが逃げ出したとか言い出して求婚者となった・・・らしい。
カテリーナにとって本当に迷惑な話である。ただ、歩いていただけなのに監禁されるとは・・・。
そのため、カテリーナは元ルドゥーレ公爵夫妻の元に預けられ、王立学校に通うこととなったのであった。
ヴェロニカは少々育児疲れが出ていたため離れて暮らすこととなり妹イレーニアも一緒に別邸へと移ってきた。
「あれは叔父様の時よりもトラウマですわ。」
扇子を広げ口元を覆った。
「・・・どうやっても笑えないね。アレはひどすぎるよ。僕でもしないさ。」
「私、そんな男の元に嫁ぎたくもありませんわ。それに、叔母様から愚痴だらけの手紙が毎週、私の元に届くのです。それを見たら結婚する意思なんてなくなってしまいますわ。」
「あ・・・あれね。カテリーナにも届くのね・・・。」
「結婚ってああいうものなのかと、現実を見せつけられますわ。」
(だから結婚したくないと・・・)
帝国の正妃として嫁いだアデリーナからほぼ毎週愚痴だらけの厚さ1センチはあろうかという手紙を親族に向けて送っている。
「で、私はいつ社交界へ復帰すべきなのでしょうか?」
「次はダーニャ伯爵主催の仮面舞踏会が近々あるらしいね。きっと君の元にも招待状が届くだろうね。その時のエスコートは・・・そうだな、うん。僕からあの坊ちゃんに頼もう。大丈夫任せておいて。」
「では、その日に復帰いたしましょう。あと、変な噂はたっていませんよね?
あ・・・それと私の成人の儀はいつ頃になる予定でしょうか?」
「僕がちゃんと『テフィン公が失礼なことを言ったから出て行った』って噂を流しておいたから安心なさい。
だが、あの求婚者達としばらく一緒に暮らしていたからそのことで何か言われる心配はあるだろうな。成人の儀については兄上に聞いてみなくては分からないな。」
「叔父様、そんなことまでなさったのですか?そんな申し訳ないわ。
私の成人の儀の時、髪上げの儀で私の髪を上げていただきたいのです。
それとその日のエスコートもお願いしたいのです。」
と少々ダメ元で聞いてみた。
「義兄上は、仕事でドタキャンする可能性有りだしね。良いだろう、再度トライだ。」
快く引き受けてくれた。




