二つの恋
「良い香りがしますね。」
「たぶん精油の香りだと思いますわ。私のセカンドネームと同じローズマリーの精油ですわ。
どのような香りがお好みでしょうか?
ラベンダー?バラ?ユリの花かしら?」
などと話をしていて、カテリーナは唐突にこう切り出した。
「殿下はシャーロットについてどうお思いでしょうか?私は、先日のシャーロットを見ていると痛々しくて見ていられません。」
「きっと、王女様は勘違いをなさっておいでだ。
ジザーニアには生まれて一度も訪れたことがないのにそこで毎年夏にあっているのだとおっしゃられた。
どなたかと間違っておられるようだ。」
「・・・殿下は罪な方ですわね。あれだけシャーロットに思われているのに。」
「罪と言われようが身に覚えがないことです。」
「殿下、ジザーニアに行ったことがない、または毎年訪れていないことを証明することは出来ますか?」
「おそらく兄上やフィリアの国王陛下が証明してくれるでしょう。
ここ3年間、私はフィリア王国から一歩も出ておりませんから。
それに毎年会ってもいませんし、と申し上げるより今回初めてあったのですよ?
王女様には。不思議だと思いませんか?」
(話がかみ合っていない。どういう事なのかしら?)
カテリーナはフリードリヒの発言とシャーロットの発言を照らし合わせながら一つの結論を出した。
「シャーロットに事実確認をした方が良さそうですわね。」
少し寒くなってきたなと感じたカテリーナは、フリードリヒの肩をとんとんとたたきつつ、声をかけた。
「そろそろ中に入りましょう。このまま寝てたら風邪を召しますよ。」
「そうですね。あ・・・いつの間に?」
フリードリヒは今置かれている状況を初めて知ったらしく、勢いよく起き上がった。
その拍子にフリードリヒの肩にあったカテリーナの手がフリードリヒの顔に当たりカテリーナがフリードリヒの表情を見るまでもなく真っ赤になっているのが文字通り手を取るようにわかった。
しかし、当の本人は驚きのあまり、顔にふれられていることすら気がつかないままであった。
所変わってこちらは食堂。カテリーナのために軽めの夕食の準備中のハロルドは、ふらふらとやってきたフランツに詰問している。
「それで、あなたはエレーナのことをどのようにお思いでしょうか?!」
妹を女性の嫉妬により傷つけられたハロルドは強い口調で言い放った。
「・・・」
「貴方様はどんな強い者からもエレーナを守れると言えるのですか?たとえ殿下であったとしても?」
「・・・」
「カテリーナ様は貴方と離れない限りエレーナがまたねらわれるだろうとお考えです。私も同感です。」
「!!」
「この件とは関係ないのですが、どうしても知りたいのです。何故あなた方はカテリーナ嬢をあそこまでしたい、主従関係に至ったのでしょうか?」
「そのことですか。何の因果か私達後を追おうとしたのです。愛する者を失って・・・
私はカテリーナ様に『後を追っても、あちらで会えるわけはない。自害した場合、死の神の審判により二度と会えなくなる。早まるな。』と諭されました。
それで命を助けていただいた事とダーニャ伯爵-私達の長兄ですが-仲があまり良くなかったこともあり、自ら進んで執事としてこちらで厄介になることになったのです。」
「そうだったのですか。てっきり・・・」
「貴方はエレーナの件から話をそらそうとなさっておいでだ。
実は私は知っていましたよ。貴方がエレーナに懸想をしていることくらい。おそらく周りの人間は知っていたと思います。
なぜそれだけ妹を思っておられるのなら守ってやれなかったのですか?」
「・・・」
そこへ夕食を食べていなかったカテリーナが食堂に入ってきた。ベルンハルトとは3階で別れたようだ。
「そのあたりで止めなさい。ハロルド。彼ばかりを攻めてはいけないわ。
こちらにもエレーナを守る義務があった。違わない?」
「ですが、カテリーナ様。」
「ハロルド、言いたいことは分かるわ。
良く考えて頂戴、私がこんな事で争っていてもエレーナは回復しない。」
言い争う二人を止めてほっとしたのかお腹が鳴る。
「それよりお腹がすいちゃったの。」
それから4人は笑い出した。
カテリーナとハロルドは寝る前にエレーナの寝室を訪ねた。
「エレーナ。もう、大丈夫?動いても平気?」
「カテリーナ様。ご心配おかけしました。だいぶ良くなりました。」
「では予定通りに参りましょう。」
朝、フリードリヒは嫌な予感がして目を覚ました。
案の定、食堂の机の上にはカテリーナの直筆のメモが残されていた。
カテリーナやハロルドなどここで5年の長きにわたり生活していた人物達は庭師と料理人以外の者の見事に消え失せ、最低限の荷物以外は手つかずであった。
やられたなとフリードリヒは寂しく思った。
カテリーナはいよいよ、引きこもり生活を精算し、再び社交界へ赴くことにしたらしい。
まだ、社交界シーズンは始まったばかり。タイミング的には少し遅めだが問題はないだろう。
なぜなら王族の多くが、彼女の事情を良く理解し、社交界への舞台の準備を滞りなく進めており、再出発をしようとしていたのである。
昼過ぎに、無駄だと思ったが念のため単身でフリードリヒはルドゥーレ公爵本邸へと向かった。
やはり無駄足だったなと着いて思った。
それはルドゥーレ公爵家の初老の執事が応対してくれたのだが、彼女からは門前払いをされてしまった。
仕方なく別邸に戻ると、王宮から彼宛に一通の招待状が届いていた。
ローズマリーは精油にもなるらしいです。ハーブなどについてこだわって書いてますから時々変更するかも知れません。
でも、本編にはほとんど関係ないんですよねぇ~




