夜の音楽祭
「気分転換に久しぶりにちょっと弾いてみましょうか?」
夕食も終わり、庭を散歩していると昨日協議が催された広間にてチェンバロの繊細でもの悲しい音が響いていた。
音に誘われるようにしてやってきた人物が一人。ランバートル卿であった。
広間を覗くとカテリーナが一人でチェンバロを弾いていた。
演奏に集中しているせいかギャラリーが来たことも知らず、美しい音色を響かせている。
曲が終わり、カテリーナが顔を上げるとフランツが拍手で迎えた。
「いつの間に?」
「曲の始め頃からいましたよ。」
「あなたは何か楽器を奏でたことはありませんか?」
「あいにくと剣一筋なもので。」
「そうですか。せっかくおじいさまが所有していたたくさんの楽器があるので弾いてみませんか?」
と差し出された。
「これは、あの有名な工房の作ではありませんか!!」
カテリーナが手にしていたもの。それは、ヴェルーゼ工房の印が押されたバイオリンだった。
ヴェルーゼ工房は、世界一の楽器工房で安いものでも屋敷1軒が立つほど高価なもの。
しかも広間の壁を見ると(あのときは気がつかなかったが)オーケストラが演奏できるようそれぞれの楽器も数もきっちりとそろっていた。
(噂に聞いたことのある・・・おそらくこれ一つでウィリア王国の国家予算の半分はくだらないんだぞ!)
ほいと渡されたバイオリンを大事そうに持ちながらフランツは血の気が引いた。
「こ・・・このような高価な楽器を弾いてよろしいのですか?」
「楽器は弾かなければただのアンティークにしかなりません。楽器のそのものの価値は演奏してこそ発揮されるものです。」
「・・・つかぬ事をお聞きしますが、このように大量の楽器をどのようにして入手されたのでしょうか?」
「それはおじいさまが若い頃、そこの親方と昵懇になったとかで、その当時はまだ売れない工房に過ぎなかったそうです。
懇意にしていることもあり、それでおじいさまは今では考えられないくらい格安で購入されたようです。
おじいさまは、音楽に造詣が深く私は幼い頃よりおじいさまに楽器の演奏を学びましたの。
ですが、私はまだまだ勉強不足ですわ。まだまだ伸びしろはあると思うのです。」
と、はにかみながら答えた。
(プロと言っても良いくらい上手だった・・・元ルドゥーレ公爵というのは凄腕の音楽教師であったのか?)
と新たな一面を目にし、後で殿下に報告せねばと思うフランツであった。
「音楽にあまり興味がないのですが、先ほどの演奏は少々もの悲しい気持ちになりました。元々そういう曲なのですか?」
「・・・弾き手によって楽器は明るくもなれば暗くもなるものですわ。」
「と言うことは何か悲しいことでもおありでしたか?」
「それは・・・、秘密です。あら、シャーロット。」
見ると、シャーロットが数人の侍女を引き連れて広間へとやってきた。
「チェンバロの音が聞こえたから来ちゃったわ。ねぇ、昔みたいに演奏してみない?」
「じゃあ、どんな楽器を弾きたい?」
「そうねぇ・・・私はバイオリンを。」
フランツが大事そうに持っていたバイオリンをシャーロットは受け取った。
「じゃあ私は、ビオラを。」
「楽器を弾けないというあなたは観客と言うことでね。」
ミニ演奏会の準備をし始めた。
フランツは一人で聞くのもと思ったようで一つ提案した。
「殿下をお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「あまり気は進まないけど、シャーロットはそれでも良いかしら?」
「いいわ。ハロルドもエレーナも呼んできて頂戴ね。」
「と言うことで準備が出来る間、3人を呼んできて欲しいの。お願いできるかしら?」
「わかりました。」
というと、30分ほどでランバートル卿は3人をつれて広間へと戻ってきた。
「エレーナ、貴女はピアノを弾いて頂戴。ハロルドは…そうね、コントラバスを。
ひけるわよね?
殿下は何かお引きになりますか?」
「殿下は私と同じで全く弾けませんよ。」
聞かれてもいないのにフランツが答えた。
「チェロを弾ける方は?」
「私が弾きます。」
とシャーロットの侍女が名乗りを上げた。
名前はユイリーと言うそうだ。
「では、有名な『コマドリのささやき』を演奏します。」
と、バイオリンを持っていたシャーロットがお辞儀した。
カテリーナと相談し、演目を決めたようだ。
コマドリのささやきとはA.C.Eと言う作曲家が作曲した20分くらいある曲で、元々は楽曲である。
演目が終わり、拍手喝采で終わった。
「久しぶりにみんなで弾いたわね。楽しかったわ。」
「ユイリーさん、お上手ですね。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
と、小さな侍女は顔を赤くして答えた。
その日は、楽しい音楽に包まれて夜も更けていった。
おそらくフランツは楽器が弾けると思われます。




