蕾がほころぶ頃
「あら、蕾がふくらんできているわね。」
桜の木には蕾がほころびかけた枝を見つけ柔らかな笑みをたたえている。
ルーチェも本当ですねぇ。と目を細めている。
「あら?」
カテリーナは言い争うような声を聞き声のする方へ顔を向けた。
「あなた!!」
夫人だ。
今日は休暇を取っていた。
対面にいるのはピンパル男爵。
庭先で言い争っている。というよりも夫人が一方的に言っている。
ここは、ルドゥーレ家別邸。
夫人は帰ってすぐ自分の休暇届を作成し、この日を迎えた。
たまたま、カテリーナ達はハーブやらバラの花やらの生育具合を見に来ていた。
庭は、植物園と化した庭からおよそ5メートルほど離れている。
すぐにでも止めに入ろうとしたカテリーナだったが、夫婦の問題は夫婦で解決するものよ。という知の女神がカテリーナにしか聞こえない声で言った。
「アマンダ。」
「ルドヴィーゴ!!」
「帰ってきているならなぜ私に知らせてくださらなかったの?」
「アマンダ。君のためだと思って。」
「どこが、私のためですって?」
胸ぐらをつかむ夫人。
「よせ。アマンダ!!」
二人の間に誰かが入ってきた。
「母上!!」
息子のカミッロが作業中両親のただならぬ声に気がつき割って入ったのだ。
「なんですか!そう。貴方も知っていたのね。なぜ私に知らせなかったの?」
夫人がカミッロをにらみつける。
「あ・・・いや。母上が・・・」
「カミッロ!!!」
「は・・・母上!」
カミッロは身が縮む思いがして肩をすくめた。
「よせ、アマンダ!!!」
夫人は持っていた扇子をはじめはカミッロに向けていたが、急に腕の振りを変えピンパル男爵に向かって投げつけた。
「私、実家に帰らせていただきますわ。」
「母上~。お待ちください。」
「知りません。」
夫人は正門に向かっていく。
追う父子。
何事かとイルダとサンドロが屋敷から出てきた。
ルーチェがいることがわかると、そうだったわ。とイルダがルーチェを建物の影に誘導した。
『賑やかだこと。』
知の女神ユリーナもカテリーナのそばに姿を現した。
「夫婦喧嘩は犬も食わぬと言いますけれど。」
『良いわねぇ。仲良さそう。』
フフフと笑いながら姿を消した。
やぁ。といいながらカテリーナの近くにサンドロがやってきた。
「ピンパル男爵夫人は、かんしゃく持ちだからな。」
「あ。叔父様。」
「おや。お嬢さん。」
「ごきげんよう。」
「ごきげんよう。何かご用かな?」
「花を見に。ねぇ、叔父様はなぜ、ここにいらっしゃるの?」
「花を見るには少し早いんじゃないか?俺がここにいる理由?
それはな、元々はグレーデ家の所領だったんだ。
今、ちょっとルドゥーレ家の所領とするべきかグレーデ家の所領にするべきか論争が起こっていてね。」
「ここが、グレーデ家の所領・・・?」
「そう。姉さんもここが好きだったな。」
遠くを見つめるサンドロ。
そんな叔父の見つめる先をカテリーナも見つめていた。
ルーチェが戻ってきてお茶を1杯いただいてからカテリーナは本邸に戻っていった。
そこにはお怒りの夫人がいそいそと掃除に取りかかっていた。




