辺境の神殿
「大旦那様。」
「イルダ。こっちだ。」
若い女性を手招きしている。
ここはフィリアとヴィルフレートの国境地帯。
イルダとカテリーナたちを探し回ったところで、馬車の一団がここを通り過ぎたという話を聞き、とどまることにした。
すぐさま、フィリア国王などに人を使い今の状況を知り、司令官にいまいる場所を伝えた。
カテリーナが無事ヴィルフレートを脱したという話をペレターヌの町のウェルーゼ工房に滞在中、息子レオポルドの使者を通じて聞いて、フィリアに戻る途中だ。
ジュリアーノは近くを通りかかったときに訪れるのがいつしか習慣づいてしまっていた。
そこにある神殿に途中までは馬車で向かった。
神殿の入り口までは徒歩で歩かなければいけないほど道幅が狭い。
馬車を降りておよそ10分。
神殿までは一本道なので、迷うことなく大きな石造りの神殿が見えてきた。
ジュリアーノたちが見上げるほど高い城壁にあるのような門をくぐり中へと入っていった。
「まぁ。叔父様!!!」
神官に到着を伝え、程なく一人の女性がお茶を運んできた。
彼女は、ジュリアーノの姪つまりアレッシオやリベラートの末の妹でルクレツィアという。
幼い頃から修行をし、ここで巫女をしている。
「あら?この子がルのつくお嬢さん?」
「いいや。違うんだよ。確かに彼女は我がルドゥーレ家の侍女ではあるがな。」
「あ・・・の???」
イルダは返答に困ってしまっている。彼女はジュリアーノの隣に立っていた。
「私のことは覚えていらっしゃらないのかしら?そうよね。あれからもう18年も前のことなんですもの。それに私と一緒にいたのはほんの数日のことでしたもの。忘れていても不思議ではないわね。」
ルクレツィアはまるで昨日のことのように話して聞かせた。
ジュリアーノは後でイルダにこっそりと教えてくれた。
”ルーチェはここでしばらく暮らしていた”ことを。
事件はこの後、起った。
二人は散策しに森へと分け入ることにした。
イルダも後ろからついて行く。
すると、茂みから3頭の熊が。
身構えるジュリアーノ。
イルダはその先で起こっていることに気がつかず進んでいく。
ジュリアーノの近くまで来たとき熊の姿を見たイルダは恐怖でその場を動けなくなっていた。
ジュリアーノが斬りかかった、そのとき。
「「きゃぁ!!」」
思わず目をつぶったイルダとルクレツィア。
「親父!!!」
左端の熊がジュリアーノに近づいてきた。
「・・・儂は熊に親戚なんぞおったかの?」
剣をおろしたジュリアーノ。
真ん中の熊が話しかけてきた。
「親父さん!!」
右端の熊が涙を流している。
「公爵様。我々ですよ。あぁ。あれからもうどれだけの月日がたったのやら。ずいぶん老け込まれたのではありませんか?」
よく見ると、それは熊の毛皮をかぶった3人の男たちであった。
髪とひげは伸び放題、服は破れぼろぼろ、やややつれた表情を見せていた。
「おまえたちは・・・まさか!!!生きておったのか!!!」
3人をつれ、神殿に戻り身だしなみを整えるとそこには20年ほど前戦争に出兵してから行方不明になっていたジュリアーノの次男ルキーノ・ルドゥーレとグレーデ家嫡男サンドロ・グレーデそして、彼らを探しに行って行方がわからなくなっていたピンパル男爵であった。
「良かった。親父に会っていなければあのままこの森で暮らすところだった。皆、俺たちのことを御ものの熊だと思って襲ってくるんだから。」
「仕方ないじゃろう。おまえたち一度、王都に戻ろうな。一緒に帰るぞ。皆がそなたたちのことを案じておったのじゃぞ。」
「「「はい。」」」
それからしばらく、3人の体力などが回復するまで神殿に滞在し、ようやく王都に戻る日が来た。
「ルクレツィア世話になったの。」
「いいえ。では、ルのつくお嬢さんによろしくお伝えくださいね。」
「うむ。」
これは、レオポルドたちが凱旋帰国してからおよそ2週間ほど後の話である。




