制圧
「とうとうこの日が来たのね。」
カテリーナの要望は通り、二人が到着するまで式典は延期された。
その間にカテリーナはちゃっかり採寸され、本日はその際寸通りに作られたウエディングドレスを着せられていた。
そして頭の上には薄いレースをかけられティアラまで乗せられ、綺麗にお化粧やらネックレスまでつけられていた。
結婚式までもう間がないことを示していた。
それなのにカテリーナは騒ぎもせず粛々とそのときが来るのを待っていた。
『レオポルドたち、ちゃんとしてくれていると良いのだけれど。』
(それよりもハロルドとエレーナが既に到着しているのに私に会わせないなんて・・・)
『それだけ貴女が逃走するのを警戒していると言うことのあらわれね。』
『ふぅん。そうなのぉ?』
『出たわね!!』
『出たら悪いぃ?』
『たちの悪い女神だわ。』
『ここは私の申し子が住む城よ?もうすぐ貴女もそうなるでしょうけどねっ!!』
いつの間にか美の女神が乱入していた。
二人の女神の間に見えない火花が飛び散っている。
どうも二柱は大変仲が悪いらしい。
そんな神々のいがみ合いを止めるでもなくただ見つめていた。
しばらく言い合いをしたところで、コンコンとドアをたたくものが現れた。
その人物の後ろへとついて歩き始めた。
ようやく外へと導かれたカテリーナ。
そこには、ずらりと壁に背を向けた男たちが両脇に所狭しと並んでいた。
その中の数人は見覚えのある顔ぶれだった。
(どうやら、フィリア軍が既に潜入済みのようね。)
『手の込んだ作戦だわ。』
(美の女神様はどうなさいましたか?)
『アデリーナの方に行ってしまったわ。なんなのよ。
自分が女神の中で一番美しい女神だからって鼻にかけないでよね!!
見た目の美しさより中身の美しさの方が断然・・・
そのせいで孤独な女神様って言われているんだから、少しは自覚なさいよ!!!』
(はいはい。そのお話は聞き飽きましたわ。そろそろですね・・・)
会場までの長い廊下を進んでいくと背の高い男とドレスを着た女性の姿が見えてきた。
(あら?ハロルド・・・じゃないわね。見た目はハロルドみたいだけれど。
隣は・・・エレーナ????にしてはちょっと様子がおかしいわね。顔も違うけど。)
履き慣れない高いヒールのせいか、エレーナのような人物はしきりに足下を気にしている。
そんなことを考えていたせいだろうか、何もない長い廊下の真ん中でカテリーナは長いドレスに足をかけ盛大に転んでしまった。
ハロルドのような人物があわてて起こしに来た。
「大丈夫ですか?我が愛しの君。」
よく見るとそれはフリードリヒであった。
「うまく変装なさいましたね。殿下。」
「はい。このめがねをかければそれらしく見えるでしょう?」
「遠くからだと見分けがつきませんわ。ところでこの男たちは?」
「すべてフィリア軍の兵士たちです。隣はコンスタンティーノ殿下です。身長差をダーニャ兄妹に合わせた結果なんです。
この後、時期を見て私が合図をするので、その後全力疾走で会場を脱してください。」
「えぇ。わかったわ。ヴィルフレート側にはばれないようにね。」
「はい。」
「そろそろ、行かないと怪しまれるわ。」
二人はほかのものに聞こえないように小声で話をし、話し終わるとすくっと立ち上がり会場へと再び歩き出した。
会場まで着くと既にたくさんの来賓客がカテリーナの到着を待っていた。
(ルーチェ!!!)
そこには、ナタリア、セザール、ルーチェともう一人の男性が座っていた。
彼がルーチェたちの父親だろう。
横目で見た後、付添人無しでまっすぐマリユスの元まで歩み寄るカテリーナ。
『カテリーナ。フルートとあのショールは持ってきた?あと楽譜も。』
(えぇ。両方とも親類の形見だと言ってほらここに。ちゃんとショールの中に楽譜を隠していますから。)
右手に持っていたショールとフルートをみている。
左手には大きな花束を抱えてマリユス皇子をまっすぐ見つめ直した。
『上出来だわ。後はタイミングを見計らって全力疾走するだけだわ。』
(このまま式が終わってしまいそう・・・)
「では、誓いますか?」
カテリーナが答えようとしたそのとき。
「待ちなさい!!」
声を張った人物が立ち上がった。
「あなたたちまだ気がつかないの?ここは既にフィリア軍によって制圧され、私たちは捕縛されかかっているのよ!!」
その声の主はアデリーナであった。
「レオポルド。いるんでしょ?」
周りから押さえつけられ座らされた。
「なにをするの??私はヴィルフレート帝国の皇后アデリーナよ。」
押さえられたせいか顔をゆがめるアデリーナ。その場にいた面々はざわめき始めた。
「はなしたまえ。そうだ。ここにいるほぼすべての兵はフィリア軍だ。」
脇に立っていた男がアデリーナに近づいていく。
皆が二人に気をとられている。
一番前に座っていたフリードリヒがカテリーナに合図した。
「今だ!にげろ!!」
その声に反応したカテリーナは全力疾走で会場を逃げ出した。
会場は騒然としている。
外へ出ると大雪でどこが道なのかもわからないほど雪で覆われていた。
真っ白な雪原を走るどころか歩くことさえやっとだ。
後ろから何者かが追ってきていた。
走りにくいドレスであったためもういつ転んでもおかしくはなかった。
「も・・・もう無理!!!」
走るのをやめ、息を整えている。
「カテリーナ!!!」
後ろから追ってきていた人物が声を張る。
「待った。待った。もう走るのをやめてくれ!!」
フリードリヒだけが追いかけてきていた。
「よかった・・・マリユス皇子ではなかったのね!!」
うれしさのあまりフリードリヒに飛びつき泣き出してしまった。
「間に合ってよかった。一番の立役者であられる皇后様にもお礼をしなくては。」
「アデリーナ様も一枚噛んでいらしたの?」
「あぁ。無事に取り戻すことができてよかった。さぁ。戻ろう。」
その後・・・会場に戻ってみると、レオポルドが縛り上げられたたくさんの人物を皇帝の目の前に並べ、周りはすべてヴィルフレート軍の軍服を着たフィリア軍が包囲していた。
「自分たちの力で、互いに犠牲が最小限になるよう配慮して打ち負かすことができました。
もう、我々の土地に立ち入らないでいただきたい。そして、私の娘を帰していただこう。」
「ここまでするとは・・・さすがは策略の神の申し子だ。よかろう。我々が返還しなかったばかりにこのような事態を招くこととなった。そなたの娘も帰そう。よいな。マリユス。」
「・・・はい。」
話し合いの結果カテリーナはここまで乗ってきた馬車に乗り、夕刻にはフィリアに帰国することとなった。
もちろん、カテリーナはフィリアから連れてこられたときの服装に着替えて。
忘れないようにフルートとショールも持って正面玄関に出てきた。
レオポルドは戦後処理の関係で遅れて帰国することになった。
馬車には、フリードリヒとコンスタンティーノ、カテリーナが乗り込み出発した。
(ルーチェは・・・まだこっちにいるみたい。帰る前にこっそりアデリーナ様にお礼が言えてよかったわ。)
『本当。これで帰れるわね。』
(えぇ。お父様から見返りを要求されそうで怖いけれど。)
「ところで、コンスタンティーノ。なんで貴方がここにいるのかしら?」
「姉貴が捕まったと聞いて司令官であるルドゥーレ公爵の下に行ったらちょうど姉貴が密書を送ってきてて、背の低いのが俺しかいなかったからってこんな姿に。」
「男にしておくのがもったいないくらいだわね。」
うふふ。と笑った。
「言うなよ。次の宿場で着替えるからな!!」
「カテリーナ。手に持っているのは?」
「あ・・・いけない!!これ、楽譜なのよ。」
「もらっていけばいいだろ?」
「でも・・・」
「ここまで連れてこられた分の拘束代としてもらっとけよ。」
「もう、返しにもいけなし。そうね。もらい受けましょう。あ・・・そうだわ。フランツはどうしたの?」
「今、馬でフィリアに向かっているはずだ。ほかの軍隊はレオポルド様と一緒に帰国なされる予定だ。」
「そう。後でお礼を言わないとね。彼に手紙を届けてもらったから。殿下。これで、ただの一兵卒ではないと軍部の中では知れ渡ってしまいましたわね。」
「そうだな。そろそろ、除隊するときが近づいたか・・・」
「ルーチェは家族が見つかってしばらくヴィルフレートにいるって言っていたわ。ナタリアも。」
「それはめでたいことだな。」
誰だそれ?と一人蚊帳の外のコンスタンティーノをよそに二人の会話は弾んでいく。
そんな3人を乗せてフィリアへと馬車は走り続けていく。




