変身怪人として頑張ってます
怪人への改造手術を受けた俺は、ドクトルKからどのように改造されたのか説明を受けた。その説明によると普段は人間状態だが、変身アイテムを使用する事で怪人に変身出来るようだ。なんで変身なの?と聞いてみた所、「テレビで見た変身ヒーローを試してみようと思ったから」だそうだ。思い付きで決めるなよ!……で、その変身アイテムがドッグタグだったりする。まぁベルトだと目立つからな。
それで肝心の身体能力の向上についてなんだが、なんというか人間状態では以前と変わらない。あえて言うなら動体視力と反射神経が向上した程度かな。ただし変身して怪人状態になると身体能力が一気に向上する。ドクトルK曰く「人間状態では普通で、変身すると一気に強くなるのは変身ヒーローのお約束だからな」だそうだ。いや、そんなお約束いらんから。じゃあ普段から変身状態でいればいいじゃないかって?変身すると結構体力を使うんだよ。体力の消耗を防ぐ為にも普段は人間状態の方が望ましい。変身していられる時間を延ばす為にも体を鍛えないとな……。
そうそう、変身するとフルフェイスの仮面を被ったプロテクター付黒タイツの姿になった。……これってテレビで放送している変身ヒーローそのままじゃないか。大丈夫なのか?その、大人の事情として。まぁ格好いいからいいけどさ。そんな訳で俺は変身ヒーローな怪人として生まれ変わったのであった。
「それにしても普段の姿が変わらなくて良かったですね、矢野先輩」
「そうだよな。普通は姿が変わったままだって話だもんな」
俺と新藤、そして雨宮君の3人は、昼食を食べる為に入った定食屋で料理を待ちながら会話をしていた。怪人になると異形の姿に固定されるから外を歩けなくなるが、俺は人間状態がデフォルトなので問題なく外を歩けるのだ。……ドクトルKには感謝だな。
「矢野の場合は特殊なパターンだそうだ。実際、矢野の後に改造された怪人は姿が変わったままらしい」
「へぇ、そうなんですか。でも何でなんで先輩だけが変身出来るんでしょうか?」
「ドクトルKが言うには俺の時は試しにやってみただけだったらしい。んで試した結果、姿を固定した方が高い身体能力を維持出来るらしい。まったく、人で試さないで欲しいよな」
俺の場合は人間状態の身体能力をベースしにており、変身する事により怪人補正が掛かって身体能力が上昇する。だがベースとなる俺の身体能力は一般男性並みなので、いくら補正が掛かってもたかが知れている。だからだろうか。俺の扱いは怪人の中でも底辺に近く、作戦参加時は主に殿を担当させられている。……今までに何度死にかけた事やら。
「まぁそのお蔭でこうして3人で外を歩けるんだ。別に悪い事ではなかっただろう?」
「だな。以前と変わらない暮らしが出来るのはいい事だ」
「ですね。他の人達は明るい内は外に出られなくて可哀想ですが」
「ははは。おっと、メシが来たみたいだな。唐揚げ定食は新藤だったよな。雨宮君はミックスフライ定食で……あれ?俺のとんかつ定食はまだ?」
店員が料理を持ってきたので受けとったが、俺が頼んでいたとんかつ定食だけがまだ来てなかった。オイオイ、ミックスフライが出来てとんかつが出来ないなんて何故だ!
「では矢野を置いといて先に頂くとするか」
「矢野先輩。先に頂きますね」
「あー!2人とも少しは待てよ!」
友達甲斐のない2人は俺を置いて食べだした。その2人を恨めしそうに睨む俺。今日もそんな他愛のない1日を過ごしていたのだった。
現在、俺達ANLG団は作戦行動中である。というか作戦失敗で撤退中だ。今回もデジレンジャーの奴らが来たんだよ!あと一歩って所だったのにさ!
「毎度毎度タイミング良すぎだろ!何でこう、作戦成功を目に前にして邪魔されるんだよ!……誰か情報を流してたりしないよな?」
そして俺は撤退の時間を稼ぐ為に移動中だ。どこに移動するのかって?……デジレンジャーの所だよ。あぁそうさ。今回もまた殿担当だよ!
「もう少しで着くな。そろそろ変身しておくか」
俺は走りながら首にかけていたドッグタグを手に取った
「変身!」
掛け声とともにドッグタグが光り出し、そして俺自身も光に包まれた。暫くすると光が収まり、その場にはフルフェイスの仮面を被った、プロテクター付黒タイツを着た姿の怪人がいた。まぁ俺の事なんだけどな。
変身した俺は『能力』を使って空に駆け上がり、デジレンジャーを上空から探した。辺りを見回すと、少し先の方でデジレンジャーと狼人間のヴォルフさんが戦っているのが見えた。って今回の作戦指揮はヴォルフさんだったのか!怪人になる前は世話になった人だから早く助けに行かないと!まるで滑空するような勢いで現場へ向かうと赤いデジレンジャーの攻撃を受けたヴォルフさんが大勢を崩すのが見えた。ヤバイ!間に合えってくれっ!
「ヴォルフ、助けに来たぞ!」
「っ!グロウか!すまない、助かった」
体勢を崩したヴォルフさんを庇う様なタイミングで俺は上空から飛び降り、赤いデジレンジャーの攻撃を防いだ。ふぅ、なんとか間に合ったか。ちなみに呼び捨てなのは敵対者――この場合はデジレンジャーだな――にこちらの立場の違いを悟らせない為だ。
「何!?」
「……ヴォルフは撤退を。ここは俺が対処する」
「あぁ、後は任せたぞ」
「そうはさせないわ!」
撤退するヴォルフさんに向かって黄色のデジレンジャーが攻撃を仕掛けようとしたので、妨害する為に俺は黄色のデジレンジャーに蹴りを食らわした。女性っぽかったけど大丈夫だよね?
「きゃぁぁ!」
「イエロー!?」
青いデジレンジャーが黄色のデジレンジャー、あぁ面倒だ。もうレッド、ブルー、イエローでいいよな?とりあえず蹴り飛ばされたイエローを助け起こす為にブルーが駆け寄って行った。
「よくもイエローを!」
レッドが殴り掛かってきたので俺はそれを躱し、距離を取った。レッドの後ろの方でイエローがブルーの手を借りて立ち上がるのが見える。どうやら無事だったようで一安心だ。別に怪我させる気は無いからな。2人はレッドの側に駆け寄り、構えを取った。うわぁ、やる気満々だよ……。
「さて、そろそろ始めようか。デジレンジャーよ」
俺のその言葉を合図に戦闘が再開された。勝つつもりはない。と言うか一杯一杯なんだよ!こちらは時間稼ぎが目的だけど、あちらさんはヤル気で来るんだから。……今日も無事に帰れるといいなぁ。