第一幕 その一
ファンタジー的根拠はありません。
軽く流してもらえると幸いです。
第一幕 その一
目覚めると───
ドォドオオオン!
───ぐにゃぁ。ぷしゅーっ!
なにかとっても硬いものに激突し、とっても熱いものが噴き出した。
……いっ、痛い。これってないくらメチャクチャ痛いいぃぃっ……!
そんな苦痛を無視して鋼鉄の床が深紅色に染まって行く。
「───って、死ぬぞ、あたしッ!」
血の海で溺れる前に起き上がり、首のうしろをトントンする。
こん畜生めッ! なんであたしがこんな目に合わなくちゃならないのよっ! あの腐れ外道に負けた上にこんな血の海こしらえちゃってさ。この
まま死んだらいい笑い者じゃないのよっ!
キラン。
涙で滲む視界になにかが光った。
なんでしょうと視線を移すと、鼻血が一瞬で引いた。ついでに全身の血も引きました。
アレを見て呑気に鼻血流している奴がいるなら全世界の種族から称賛されるわよっ!
血の海に足をとられながらも船長席に飛び込んだ。
「えーと、あ……んっ! ラ・シィルフィー号始動っ!」
まだ説明書を読んでないが、魔力炉が搭載され、技導師が仕上げているなら魔眼航法(簡単にいえば己の魔力で操船する航法です。むあ、並みの使い手ではできない航法だけどね)なのは必至。その読み通り魔力を流しながら叫ぶと魔力炉が稼働する振動と波動が伝わってきた。
ラ・シィルフィー号まで数十メローグ。数えて10。造ったのが、腐れ外道でなければ死んでいるところだ。
「烈法陣っ!」
船体を光の膜が包み込み、爆烈弾が激突。紅蓮の炎がそこで爆発した。
さすが技導師。ハンパじゃない。城壁すら破壊する爆烈弾を防いだよ。
「やれやれ。寿命ご縮んだわ……」
これまで『三大悪』や『馬鹿ども』に喰らわしてきたけど、まさか自分が喰らってしまう日がこようとは夢にも思わなかったわ……。
「ったく! どこの馬鹿よっ!」
と、前後左右からやってくる武装した飛空船を捉えた。
「……空賊、か……」
空に飛空船が浮かんで約100年。『空路』や『空輸』などという言葉が生まれると同じくらいに『空賊』という言葉も生まれた。が、この空の空路は国が管理し、飛翔艦隊が見張っている。しかも凶悪な竜やら浮游石が漂っている。その中で略奪業を営むなど苦労でしかない。まあ、安全圏がない訳でも
ないが、それほど旨味がある職業なんだろうか?
……活動が内陸部ばかりだったから海の方の情報に疎いのよね……
ピーッ。ピーッ。ピーッ。
どこからともなく音が発せられる。
なんでしょうと船橋を見渡せば、操縦席の計器版の一部が赤く点滅していた。
……えーと、もしかしてそれは魔力残量計かな……?
「───あの腐れ外道がぁあぁっ!!」
あたしの可愛い六騎団から魔石を奪っておいてなんで魔力炉が空っぽなかのよっ!? 六騎団から魔石を抜いたなら軽く1000リノは飛べるじゃないのよっ!
『───おらッ! そこの船。出すもん出したら命だけは助けてやる。さっさと結界を解きやがれっ!』
正面に陣取った飛空船からありきたりな勧告が飛んできた。
空賊事情はよくわからないが、目前に陣取った飛空船の武装はなかなかのものだった。
船首に烈鋼砲が2門に爆烈砲が1門。まあ、これだけでも攻撃艦といっても過言ではないだろうし、脅すには十分過ぎるほどの武装だった。
それだけで大きな空賊だとわかるし、経験豊富なのが見て取れる。だったらこの船の異常さに気がつけよ。武装もしない星船型飛空船なんて明らかに不自然だろう。あたしなら見なかったことにするぞ。
『そこの裸のねーちゃん! 早くしねーと売り飛ばすぞっ!』
いわれて見れば裸だっけ。理不尽なことが続いてたから忘れてたわ。
おにょれ腐れ外道。必死になって考案した甲殻強化鎧も役に立たなかったか。これでも地蒼竜の首をヘシ折ったんだぞっ!
なんて憤慨している場合ではないか。あたしの"裸"を見た不幸な空賊さんを殺してあげないと。
ラ・シィルフィー号の船内に意識を潜らせ、あたしの可愛い六騎団を捜し出す。
魔眼航法の便利なところは魔力で操船でき船内外を見れるということ。欠点は精神疲労が激しいこと。魔力精神力が弱ければ始動させただけで失神しちゃうわね。
───おっ。いたいた。第1格納庫のうしろ。なんとも六騎団を知り尽くしたような格納庫に収まってるよ……。
「銀騎。風騎。雷騎。鋼騎。天騎。蒼騎。非常対応で機動準備開始」
思念波を飛ばし、六騎団の第2心臓───『蓄力器』から目覚めさせた。
『うぉら! 無駄な抵抗してっと殺すぞっ!』
はいはい。もうちょっと我慢してね。蓄力器は出力が小さいから始動するまで時間がかかるのよ。
六騎団が目覚めるまで腐れ外道に封印された"ゴルディラ"と""リィズを解き、そのた諸々の封印を解いた。
……まったく、嫌がらせにもほどがあるだろうが……!
〈───おはようございます。ロリーナ〉
六騎団の団長たる銀騎の声(複雑でもないけど、それなりの事情により銀騎の声はあたしと同じなんです)が脳に飛び込んできた。
「はい、おはよう。なにか問題はある?」
〈全騎異常ありません。いつでも戦闘可能です〉
「まあ、色々あったけど、説明はあと。現在空賊に襲撃されてるとこ。数は4。前後左右に陣取られてるわ。そこから射出後はいつものようにお願いね」
〈了解しました。いつでもどうぞ〉
「1番扉から6番扉まで開放。烈法陣解除。───六騎団、出撃っ!」
ラ・シィルフィー号の中央甲板から6騎の『魔法鋼鉄機人』───通称、魔鋼機が飛び出した。
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