第三幕 その五
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敵───『ナイタル』の飛翔戦艦は、約30メローグ。
艦隊の先陣を斬る小型戦艦系であり、艦首艦橋型だ。
艦尾と左右に風進機を搭載し、艦首下と風進機横に烈鋼砲が装備され、中央甲板上には空雷弾管。下には核石弾管が追加されていた。
……なんというか、小型の飛竜に烈火竜の力を乗せたようなものね……
「銀騎。下がって」
その指示に空中戦をしていた銀騎が迷わず離脱した。
稼働領域を問わないような仕上げにはしてあるとはいえ、空戦用には仕上げてない。空専門の兵器には1歩遅れる。それをちゃんと理解してるから助かるわ。
「良い、ルミアン。これが初陣よ。気を引き締めて戦いなさい」
敵艦がこちらに気がつき、小さく旋回して艦首をこちらに向けた。
「───は、はいッ!」
「だからって緊張しないの。あたしも熟練者相手に勝てるとは思ってないわ。攻撃はあたしがするからルミアンは操縦に集中しなさい。無理と判断したら直ぐに操縦を奪うから。では、開始と行きますか」
「───はいっ!」
ギュッと操縦桿を握り締める音が響き、ラ・シィルフィー号が加速した。
こちらが先制する前に敵艦の艦首が輝いた。
輝きからして光魔弾か。なかなか慎重な操縦士じゃないの。
ダン! ダン! ダン!
船体を包む魔力壁が光魔弾を弾く。
「ごめんなさいっ!」
「これは敵の威力偵察よ。なんたってこちらは星船型飛空船。帝国飛翔艦隊ですら配備してない最新鋭船。装甲は予想できとも魔力壁は当てて見ないとわからない。そして、光魔弾の弾け具合からして魔力炉の出力が予想できる。慎重ではあるが情報分析もできる優秀さ。学ぶのに丁度良いわ。───空裂十字砲!」
敵艦と交差。飛び越えると同時に風の刃を食らわせる───が、3拍子揃っているようで防御力も優秀。空裂十字を弾き返されてしまった。
ラ・シィルフィー号が急速旋回。敵艦より速く照準を合わせ、船首烈鋼砲2門からから裂鋼弾を連射。銀色の弾丸が敵艦の船首から左舷中央に飲み込まれる───が、飲み込まれただけ。爆発も起きなければ煙もでない。装甲は薄くても緩衝材が優秀なのね。
なにより優秀なのは操縦士だ。まあ、あの滑らかな動きからして魔眼航法を使用しているんだろうけど、空戦のなんたるかを知ってる翔び方だ。
全弾命中したにも関わらず敵艦の飛翔になんら支障は見て取れない。小型らしく小さな旋回でこちらの横(右舷側)に食らい着いてきた。
「光破陣っ!」
右舷側に円形の光の盾が生み出され、敵艦の放った魔砲を弾き返してやった。
とはいうもののなかなかの威力してるじゃないの。並の飛空船なら1発で撃沈だわ。
2度目の交差。魔眼航法により敵艦の艦橋内部が見えた。
改造された艦橋に座席が1つ。見慣れぬ飛翔服を纏った男(顔は見えない。体格で判断しました)見えた。
どうやら頭が逃げるための使い捨てのようね。実に悪党らしい行為だが、こんな使い手を捨てるなんてもったいないだろう。しっかり最後まで使ってやれよ。
なんて他人を心配している場合ではないな。
「銀騎!」
〈はい〉
間髪を入れず銀騎からの思念波が届いた。
「ここは良いからシルビートさんにのところに行きなさい。戦闘してるなら退避させて。もし追跡に拘るなら攻撃してでも止めなさい。良いわね?」
〈了解です〉
左舷に敵艦が並ぶ───と、光が瞬いた。
間一髪。ラ・シィルフィー号が急速回転、急速上昇。敵艦の左舷側に着いた。
そんな軽業師のような操縦に対処できないでいると、
「食らえ、光魔砲ッ!」
ルミアンが敵艦に向けて放ったではないかっ!?
この子の戦闘感覚の鋭さは……って思う暇なく急降下。錐揉みしながら敵艦の裂鋼弾を交わしてるぅぅぅぅっ!!
「滅砕陣! ───食らえッ!」
滅砕陣で敵艦の進攻を防ぎ、回避したところに裂鋼弾。まったく、この子の戦闘感覚は"騎士バカ"に匹敵するわね。
「見事だ、ルミアン! 第6式組に移行!」
「はいっ!」
地上まで100メローグちょい。この高度で操縦桿だけで船首を持ち上げるなど到底不可能。纏う魔力壁を変化させて風進機から噴射される風を船首下から噴射させる。
重力により体が座席に押しつけられる。
地上より約20メローグで船首が上を向くもののここら辺の樹々は成長がよろしい。森林破壊をしながら上空へと翔た。
しかし、なんつー風進機だ。重力制御(船橋だけね)が追いつかなかったぞ!
「敵が逃げるよっ!」
見失った敵艦を捜すと、北西方向に翔ぶ敵艦の後ろ姿を発見した。
ったく。武装だけではなく高出力回転噴射型風進機まで搭載しやがって。この距離では追いつかないじゃないのよ!
「……しかたがない。逃がすよりはマシだ。ルミアン。魔進機を使うわよ!」
「はい! 魔進機開封。発動します!」
飛行式組以外の魔力が魔進機へと注がれる。
ドンという音と衝撃が起こると同時に体が座席に埋もれた。
船体を包む魔力壁と空気の摩擦で船橋の外が赤みを帯び、船体が小刻みに揺れ出した。
───ドォン!
初めての経験だが、その話は有名である。
音を超える速度に達したとき、『悪魔の壁』に激突すると。
この壁に挑み、死んで行った者の多いこと。だが、空を目指す者は諦めない。今も悪魔の壁に挑んでいると聞く。
その先にある世界を求めて。
広がる視界が徐々に一点に狭まり、一瞬にして敵艦が消える。そして、現れる。
───神々の世界───
音なく視界も消えたのに、その名に相応しいと感覚がその世界を認識した。
……これが音速。これが神々の世界なのね……
白く、どこまでも白い世界があたしを飲み込む。
───ダメッ!
あたしの中のなにかが叫ぶ。
「……あっ……あ……」
言葉が出ない。圧力で体が動かない。
〈───ロリーナッ!!〉
眩しい光があたしの脳天に突き刺さり、白い世界が吹き飛んだ。
「……───ッ!」
一点に紺碧の海が見えた───と理解したとたん、自分の置かれた状況を悟った。
が、意識が霞んで頭が回らない。しっかりしろ、ロリーナと、自分の頬を殴りつけて気合いを入れてやった。
「魔進機緊急停止! 最大逆噴射ァァッ!」
両舷の風進機と各所にある制御用風進機が魔力壁を伝い、船首魔力壁穴から噴射される。
重力制御がまったく効かない。
……あの腐れ、音速の船なら重力制御も音速使用にしやがれってんだ……!
「───ルミアンっ!」
呼ぶが返事はない。
さすがのルミアンでも未知の世界に入るには精神が未熟だったか。こりゃ、しばらくは封印だな……。
速度が弱まり、航行を自動に切り替え、計器類に目を走らせる。
魔力が激減している以外、これといった異常はない。船体を流れる魔力伝導率も狂いはないし、船体の軋みもない。並の飛空船なら空気との摩擦で魔力分解を起こし、下手したら装甲が溶けているところよ。
自動から手動に切り替える。
速度を下げ、緩やかに旋回させながら降下する。
気色は海から地上へと変わる。
……綺麗……
心奪われる景色に見とれていると、遥か先に湖が見えてきた。
……確か、エマ湖だったかしら……?
心ここにあらずで眺めていたら、どこからか悲鳴が聞こえてきた。
なんなのと見ればネルレイヤーだった。
どうしたのといいかけて気がつく。魔力残量計が悲鳴を上げてることに。
「───魔力壁解除! 第1、第2風進機緊急停止!」
余分な魔力を切り、制御用風進機で慣性航行を行う───が、距離も魔力も足りない。
持てる魔力を魔力炉に注ぎ込む。
船体が浮かぶが、意識は急降下。根性だせや、あたし!
エマ湖に出た。
船体が湖面を切る。
そして、九死に一生を得る。
「……うん。腐れ、絶対に泣かす……!」
改めて誓いを立てるあたしであった。
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ファンタジー根拠はまったくもってありません。
なんか、本当にスミマスン。
あと、読んでくれた貴方に感謝です。




