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食人鬼による殺人事件 01

 美味しそうな匂いに目を覚まし、少し早いがアラームを切る。

 階下から料理を作る音がしていて姉の奏でる音だとわかった。

 1階におりて、出来上がりかけの朝ごはんを眺めた。

 いけないヨダレがこぼれそうだった。今日は洋食らしい。

 出来立てのオムレツの皿にはバターで炒めたほうれん草がのっており、彩りも鮮やかだ。

「おはよう、文」

「おはよう、史緒姉」

 中学のころは卵焼きが精一杯だった姉の料理スキルの向上には5年間という年月の一端が見える。聞いてみたら、『沙門の料理がひどすぎた』との返答。

 お互い食い意地は結構張っている。

 手を合わせて、ご飯がありつける喜びをかみしめつつ感謝の言葉を口にした。

「「いただきます」」

 姉に教えてもらって、最近は料理をするが1月かそこらでいきなり上達するわけがない。

「今日のお弁当昨日のハンバーグの残りだけどよかった?」

「うん。どうして姉さんが作るとオムレツがふわふわになるんだろう……」

「師匠が良かったからかな、学校にはなれた?」

 夕方から夜にかけて出かけることの多い姉との朝の会話は貴重だ。

「ぼちぼち。千里は相変わらずだし、久星たちは最近秘密になんかやってるし」

「男の子たちの秘密の一つや二つ、笑って許して上げなさいな。そういう時は本人たちも後で埋め合わせしようと一人ぐらいは思ってるから」

「べつにのけ者にされてる気分じゃないけどさぁ」

 そう言いながら朝刊を広げる。

「……犯人捕まらないね」

 5月のGW前からこの付近で起きた殺人事件の報道が載っていたが、進展はないようだ。

「ああ、警察と新聞社に人肉料理の写真と物を送りつけた馬鹿ね」

 料理にされたのは市内の女子中学生だ。映像を見たが可愛い子だった。

「部位が足りないって話だからやっぱり食べたのかなぁ」

「そうでしょ。美味しい部分は自分で食べるでしょうね、食事目的なら」

 ソーセージにフォークを刺しつつ、すでに新聞を読み終えた姉はそう答える

 ……美味しいのかな、人肉。

「ちなみに人間の腸で腸詰を作るとかなりの大きさになるわよ」

「直径からして豚とか羊と違うもんね」

「あまりに遅くなるようだったら、連絡いれなさいね」

「うん、わかってるよ」

 少なくても人肉を食べたことの無い私には、目の前のソーセージと味の優劣をつける手段はない。


 東泉高校まで自転車で30分、がんばって走り抜けると20分。今日は余裕の30分。

 半分の生徒が自転車で通い、あとは近くの駅から歩きと完全徒歩だ。

 バスが近くを通っていないので、電車組も駅に自転車を置く人が多い。

 GWが終わってそろそろ中間テストがあるが、うちの学校そんな雰囲気がまったくない。

「今日カラオケいかないー?」

「いくいく、でも6時の電車に乗れって親言ってて」

「まったく迷惑な食人鬼だ」

 ……ああ、まったくもってゆるい学校だ。市内で殺人事件があったのに食人鬼の扱いが春に出てきた変態裸おじさんぐらいの対応だし。

「先生はピリピリしてる」

 千里が出現した。今日はパステルブルーのミニスカートで初夏風な装いだ。

「ああ、千里おはよう」

「おはよう。それに久星たちもピリピリしてる」

 彼女にそう指摘されて、返答に困る。

 そういえば、最近昼休みいなくなるんだよ。それがピリピリにつながるのか。

「んー」

 流し目でつるんで話をしている3人の様子を見た。

 ……何かあったな。

「檜の関係」

「その心は?」

「目元、髪で隠れてるけど怪我してる。」

 檜、小中といじめられてたって話だからな。

 男共が、暴れるのに檜が私巻き込みたくないっていったらそれは十分はぶられる意味を持つ。

 でも怪我は心配だ。もうはぶられて1週間は経っているしそろそろ突撃レポートとしよう。

「気をつけろ。お前は巻き込まれやすい」

「忠告どうも」

 千里は餞別というように飴をよこした。

 ひとつの袋に2つ飴が入っているとちょっと嬉しいのはなぜだろう。

 ありがたく飴をなめていたが、1時限開始までにこれを舐めきらないといけないことに気づく。

「千里は舐めないの?」

「太りたくない」

 私は太ってもいいのかよ。


 弁当箱を片手に檜のネルシャツ風の上着を掴む。

「アイちゃん?」

「あんたら何か言うこと無いかな?」

 久星と大月はしばらく顔を見合わせ、檜に片手をあげた。

「え、ちょ。ひどいよ!」

「お前が言い出したんだからさ」

「よろしくお願いしますよ、檜」

 その場に私と檜が残る。さてお天気もいいし体育館裏の日陰で昼食としゃれこもうか。

 檜は困ったように体育館裏でお弁当を広げる。

「そういえば、檜はだいたいお弁当持参だよね。お母さんが作ってくれるの?」

「いや、おれ自分で作ってる。お袋いないし、親父も……いないし」

 地雷だったか。ごめん檜。

「おいしそうだな、交換して」

「え、あ、だ、だめ!」

 慌てる友人がちょっと可愛い。でかいけど。

「いいじゃん。量も同じくらいだし」

「あの、色々新作で味見まだだから。それに今日のメニュー肉料理多いし」

 お弁当の中身を見ると確かにから揚げやらチンジャオロースやら肉料理が多い。

「気にしないよ。だめ?」

「……じゃあ1つだけ」

 から揚げとピーマンのハンバーグ詰めを交換する。

「いただきます」

「……」

 ちょっと強引にもらいすぎたかな、と思いながらから揚げを口にする。

 ん……なんだろうこの肉。

 無言で私を見守る彼に首をかしげる。

「安いお肉って訳じゃないな。ちょっと揚げすぎた?あ、でもご飯に合う味付けだよ」

 下味しっかりついていたので、何もつけなくても十分いけた。

「おいしいじゃん、檜」

「ほ、本当?」

「うん」

 ほっとした様子の檜と昼食を食べ進める。

 ピーマンのハンバーグ詰めは彼にも好評だった。やったね姉。

「檜ー」

「何アイちゃんー。」

「私一緒に昼ごはん食べるの迷惑だった?」

 檜は無言で首を横に振る。

 私は箸でお弁当をつつきながら続ける。

「あのさ、別に迷惑かけてもいいんだからね?文句は言うかもしれないけど。ケンカもできないし、檜の目元の傷作った相手倒すとかはできないけどさ」

 彼が、目元を押さえる。

「気づかれたかぁ」

「挙動不審してなかったら気づかなかったけどね。昔がどうあれさ、今は私たち友達なんだから」

「……ん」

 それでも3人で何をしているのかは檜は語らない。

 意向表明はした、あとは彼らが考えることだ。

「話は変わるけど。アイちゃんは、例の殺人事件どう思う?」

 えらい話の方向転換だ。でもいい、話に乗ってあげよう。

 別に友人を困らせたいわけではない。

「人間は欲求の為に他人を殺す生物だ」

「えっとー?」

「食事をして満足している同じ時間のどこかで、人が餓死するのを知っていながら私たちは平然と食事を続ける。自分が死ぬのはゴメンだけど、私は人を食べる人を否定できないと思ってる。警察に調理済み女の子を送りつけるのも、お裾分けなら理解できる。もったいないもんね」

 だから、私や姉は食前と食後に感謝の言葉を口にする。

 目を点にしている友人を前に、話を元の路線に戻した。

「話がずれたや。要するに、殺人はいけないことだと思うけど食人は否定しないよって思ってる」

 檜はしばらく無言だったが、その後ちょっとだけ笑った。

「アイちゃん変なの」

「いいじゃないか」

「うん、アイちゃんらしいやと思った。答えてくれてありがとう」

 まるで心のつっかえ棒が外れたように彼が笑うので、私も釣られて笑ってしまった。

「今度さ、私お弁当作ってくるから、味見してよ。今練習中で、今日は姉さんなんだけど」

「いいよ。うん、それまでにちゃんと話せるようにしておく」

 どうやら私はまだ彼らと昼食を共にすることができそうだ。

食人鬼さんの事件が発生しました。

そして3人組がなんかしているようです


文は所々自分の会話がブラックなのに気づいていません。

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