姉さん、今まで何してたんですか
初7日を終えて、史緒姉さんが引っ越してきた。
「荷物少ないね」
「うん、家財道具は処分してきたし。」
姉の車はてっきり黒かと思ったら渋い抹茶色だった。
ステッカーが貼ってある……AとIを並べて組み合わせたものだ。
「ああそれ、会社のステッカーよ」
そういえば、何でも屋をやっていると言っていたっけ。
姉は思い出したように荷物を置いて、私と目線を合わせる。
「1つ約束。私の仕事仲間や友人が来ても、一人の時は入れないこと」
「小学生みたいな約束させるね」
「姉の交友関係が一筋縄でいかないだけさ」
姉の友人と聞いて、そういえば姉は一度も友人を家に呼んだことはなかったなと思い出す。
決して友人が居なかったわけではない。
失踪したときに、何度も訪ねてきた女の子とかいたし。
けれども、気づいた。
そういえば私も他人を自分の家に呼ぶことしてないや。
「遺伝かなぁ」
そう独り言を呟いて、姉の車に残っている荷物を運ぶのを手伝う。
姉の部屋は昔のままに母がしてあったので、姉は苦笑していた。
「変えてない」
「いつでも戻ってこれますようにって、母さんが」
「うん。もう少しだったのだけど、間に合わなかった」
「ずーっと後で、あやまりに行こうね。」
死後のことを話すと姉は小さく、そうだねと呟いた。
姉妹そろってちょっとしんみりしていた所でチャイムが鳴った。
「あらお客さんかな」
「私が出るよ。姉さんは片付けしてて」
階段をおりて、玄関のほうに声をかけてドアを開ける。
立っていたのは男性だ。黒のスーツに黒シャツに黒ネクタイって姉の制服と同じ出で立ち。
彼はちょっと私を驚いたように見つめたあと笑いかけてくる。
「こんにちは。君が文ちゃんかな?」
「そうですけど。どなたですか?」
不安をかきたてる服装なのにそれをも自分の魅力にしてしまうのは、彼がすごく美人さんだからなのか。
この人の笑顔は警戒心を緩和させる。
「史緒いるかな?」
「姉ですか……?」
「うん」
後ろから声がかかった。
「沙門、昨日の今日で来ないでよ」
姉が階段をおりながら眉をひそめている。
「お前、会社にしばらく来ない言ってたのにサングラス忘れてるから、せっかく届けにきたのに」
どうやら姉の仕事仲間らしい。
「史緒姉、この人も留守のときいれちゃいけない人?」
「そうよ、こいつサチリアジスだから」
「いて座の人?」
「それはサジタリアス」
その様子を見ていた沙門さんがクスクスと笑った。
「何だ、本当に姉妹だな。仕事辞める口実だと思ってたら」
「失礼ね、辞めてもいいわよ」
「わりぃって」
とりあえず悪い人ではなさそうだ。
「どうぞ、お茶入れますね」
「あがって、沙門」
たしかドラ焼きがあったはずだ、それを出そう。
美男美女ってこういうことを言うのだと観察しながら思う。
史緒姉、素面より化粧していたほうが綺麗だ。
「そんなの当たり前でしょう。何のためにするのよ」
「教えてあげようか、文ちゃん」
「男の人なのにお化粧できるんですか?」
沙門さんに首を傾げてたずねるとうなづかれた。
「もちろん。史緒に化粧教えたのもオレだし」
「こいつ、元ホストだから」
ホストには見えないが、人の警戒心を解く笑顔に納得がいった。
「えっと、おいくつですか?」
「ん?今年28かな。史緒拾って早5年か。あっという間だ」
「史緒姉拾われたの?」
姉は緑茶を口にするのを止めて喋る。
「そう、私の名義上の保護者。おかげ様で高校と短大通えました。感謝してるわ」
「お前さ、妹の前だと素直なんだな。皆見たらびびるぞ」
「黙りなさい、沙門。切り落とすわよ」
何を切り落とすつもりですかお姉様。
日常会話なのか沙門さんは平然と笑っている。
「その前にして欲しいなぁ、史緒」
「……妹に手出したら、わかってるわね?」
「もちろん手出しはしない。お前にぞっこんだから。でも、知恵は貸すかもなー」
何でも相談していいからな、と言う顔をされたが何故か小向先輩の顔が浮かんだ。
んって待てよ。
「恋人同士じゃないんだ」
「こいつと付き合ってたら身が持たないし、こいつも危ないし」
「オレは構わないんだけどなぁ。文ちゃん、史緒ってもてるんだよ」
苦労しそうだ。どちらかというのは言うまでもなく。
沙門さんとメアド交換した。彼はまた来ると言って私の頭を愛しそうになでて帰っていった。
彼が帰った後に姉に問いただす。
「史緒姉、私の記憶が間違っていなかったらサチリアジスって色情症の男性のことだったと思うんだけど」
「さすが我が妹。そのとおりよ」
「……あのさ、あえて今まで聞かなかったからこれからも何もないかぎりは聞かないので、これは独り言なんだけどさ」
「うん、あそこでボケてくれて助かった」
気まずそうな苦笑いに私は思わず呟いた。
「本当、5年間何してたの史緒姉……」
「ありがとう、私もその問いされたらどう答えようか真剣に悩む」
それでもそれ以上聞かないのは、姉が笑顔だったからだ。
何も変わっていないようで、5年の間に私も彼女も変わったことに気づいた。
納骨のとき、姉はずっと骨になった両親を目の前に微笑んでいた。
気づいてしまうと、逆に問いただすのが怖くなる。
姉妹そろって変人に好かれる。




