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距離と焦燥と恋慕 04

 登校するとすでに教室で待っていた先輩が口を開く。

 たしか、彼は生徒会執行部の3年の副会長だ。

 何でこんなところにいるのだろうか。

「会田、小向が一昨日の夜から連絡がつかない。知らないか?」

「……いいえ」

「一昨日の夕方から帰ってないらしい。警察にはご両親が連絡してあるそうなんだけど。夕方一緒に帰っただろう?」

「私、ちょっと怒って喫茶店で先に帰ってしまいまして」

 嫌な予感がする。

「あいつだから、もしやらかすとなると被害者じゃなくて加害者だからな。そうか……電話も電源切ってるらしいんだ」

「すいませんお役にたてなくて」

 謝ることはないのだろうけど、頭を下げる。

「いいんだ。会田が悪いんじゃないから。いや、俺はそう思ってないけど、皆はどうかしらんけど」

「副会長、ここにいた」

「それじゃあ」

 副会長は執行部のメンバーに呼ばれて教室から出て行った。

 小向先輩、どこに行ったのだろうか。


 お昼、何となく教室が静かだった。

「アイちゃん。大丈夫?」

「なんか、調子でない。なんでだろう」

 檜にそう返すと、きゅっと彼は唇を結ぶ。

 大月が頭を横にふるのが見えた。

「文。何があった」

 ご飯をどこかで即行で食べてきた千里が教室に戻ってきて尋ねてくる。

 食べてきたということは長く話すこと前提だ。

「……千里。ハルキさんって知ってる?」

「え……ハルキさんってあのハルキさん?文のところによく顔だしてた」

「いつごろ、私や千里の前からいなくなった?」

「え……っと、中学の。3年」

 頭の中でノイズが走る。

 もう少しでフタが開きそうだ。

 フタにバールを押し込んで無理やりあけるようなやり方だけど。

「その夏に私に何が起きてた?」

「……ハルキさんのこと覚えてないの?」

 彼女も気づいたようだ。

「千里。ハルキに何があった」

「首狩り殺人事件のターゲットになって。最後の被害者」

 最後の一言が余計だった。

 キーワード的には首狩りだけでも十分だったから。

 それと同時に行方不明の彼がいる場所もわかった。

「……ちょっと小向先輩迎えに行ってくる」

 席から立ち上がる。

「え、文」

「こないで。大丈夫、だから」

 心の中では大丈夫じゃないとは思ったけど。

『手遅れにならなければいいがな。その一日が足りないことは稀にある』

『間に合わないことなんて何一つないんだ。人生、命をかけたりおとしたりしてまで求めることなんてなにもない』

 昨日話した二人の言葉はきっとどちらも正しいのだろう。                     真っ青な顔なのだろう。廊下ですれ違った人間が振り向いたのはそうだからに違いない。


 どうして忘れてたのだろう。

 私の前で亡くなった人なのに。

 しかもリアルで首にデンノコがめり込んで血が飛び散りながら首が落ちる瞬間まで。

 見ていたのに、聞いていたのに。

 耳に残った呪いの言葉も、見るなと言ってくれた優しい声も、デンノコが止まった後の残響も。

 自転車をこいでたどり着いた先は閉鎖された、廃ビルだった。

「鎖に擦ったあとがある」

 閉鎖のために使われた鎖をまたいで中に入る。

 元はホテルだったのだが、首狩りがここで犯行を重ねていたことから事件発覚後すぐに廃業してしまった。

 確か、あの時の犯人はここの若旦那さんだったんだよな。テレビにも出ていたようなちょっと有名な。

 あと数年すれば有名な肝試しスポットになるだろう。

 でもここは、いままで管理していた一族が相続を放棄した場所だ。

 犯人の遺族もさすがに引っ越してしまったようだし。

 警察の見回り箇所にもなっているはずだが、彼はいるのだろうか。

 私の予想が正しければ彼はきっといるはずなのだ。

 敷地内をぐるぐるめぐって入り口を探す。

 二階非常階段の扉が開くのでそこから入った。

 ……息が上がる。

 ここまで自転車をこぎっぱなしなのと、脳内の不協和音が響いて私にこれ以上進むなと警告してるせいだ。

 ああ、そうだ。

 彼とこんなところで二人きりで会うなんて危ないことだとは自覚している。

 トラウマ現場へわざわざ行く必要もない。

 それでも、足は止めないで前へと。

『ヒントは文の周りのファンです。彼らと先輩の違いがわかればきっと大丈夫。』

 昨日一晩足長さんのヒントをもう一度よく考え、姉の周りで姉が気を許している人とどう違ってどう同じなのか書き出しながら悩んでみた。

 そしてもうひとつ、彼とどうしたいかについても。

 答えは、今私の胸の中にある。

 すっごく考えてでた答えのあっけなさには驚いたけれど、足長さんのヒントと共に導きは一週回ってシンプルな回答になっていた。

 私は彼のことが怖いんだ。

 

 ひんやりとした地下倉庫。

 閉鎖されてから一年もたっていないので、老朽化はまだのようだ。

 物は取っ払われているので以前きたときよりも広く見える。

 ちょっと休憩しようかとも思ったが、それが別の強迫観念に置き換わってしまい足が止まらない。

 それでも震える足を止めて、深呼吸をする。

 空気は悪いが、それでも気休めにはなった。

 もう少しであの凄惨な現場にたどり着く。

 私は知っている。この前の食人鬼よりひどいことがあったのを。

 防音加工の一室は人を殺すためだけに作られた。

 親子5代で行われていた首狩りの儀式は、ひっそりひっそりと続いていた。

 妻や従業員にも一切漏らさずにやってきた所業。

 手記は私の前で若旦那が朗読してくれたのでよく覚えている。

 あの手記は結局別の誰かによって闇に葬られ、新聞などメディアにあがる情報は警察の組み立てた状況証拠から来る予想でしかない。

 だって、犯人の若旦那さんは警察に捕まったあと、自分で自分の首を掻き毟って死んだ。

 呪いだと言われていたが、まさしくそうだろう。暗示と世間では言われるが。

 ここまで来るとフタをしていた記憶と情報がパンドラボックスから飛び出した何かのように次から次へとやってきて神経を逆撫でる。

 ……血の匂いだ。

 顔を上げて、少し開いている扉に携帯電話のライトを向けた。

 人の気配がする。

 部屋に近づく前に、もう一度だけ自分のたどり着いた答えを思い出す。

 それでも、彼とファンと違った点はなにか。

 私がどう違うと思っているのか。

 どうして、ここまで一人で来ようと思って会いにきたのか。

「小向さん」

 声をかけて、足を踏み出した。

 

文、まずは自分の心に向き合う

そして、次は向き合うべき他人に


今までできなかったことを出来るのは姉がいるからです

無償の愛の後ろ盾

その愛に応えたいこその成長と前進は無意識の変化

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