片思われ、またの名を災厄
ペットボトルならフタを閉めて、持って帰れるのだが紙パックだとそうもいかない。
それでも私は紙パックミルクティーが好きだ。
けれども今日ばかりはペットボトルにしておけばよかったと思った。
「来た」
檜のその一言にストローから口を離す。
まって、まだ昼休みよ。あの人はいつだって来るのは放課後だ、それぐらいの自制は持ち合わせている。
「……飛び降ります?」
「いや無理だよ?!」
一年の教室は4階にあるし、地面はコンクリートなのに大月は真面目な顔できいてくる。
「自制効いてない。あれは午前中ひたすら我慢」
千里が私の鞄をきながら呟いた。
「あぁ、そういえば昨日も朝一で覗いていったなぁ。会長の教室3階なのに」
「あの人は……。先生によろしく千里」
「よろしくされた」
私は檜にミルクティーを押し付けて鞄を抱える。
「会田さーん」
教室の入り口でたたずむ、男子生徒が一人。
キッチリとアイロンをかけたワイシャツを着ている笑顔の彼の名を小向晋作という。2年でこの東泉高校生徒会長を勤めている凄い人だ。
それはもう眩しいほどの笑顔でこちらに愛想を振りまいている。
優男の甘いマスクが大月よりモテる理由だろうか。
「おひさ、しぶりです」
「この度は……」
急に真面目な顔をして小向先輩は頭を下げてくるので、慌てて頭を下げ返した。
その姿のまま、彼の腕の中に抱きとめられる。
「大丈夫、俺がいるからね。何でも相談してくれていいんだよ。そしてあわよくば恋人になって欲しい」
「傷心の女性にその言葉を囁かれるのは男としてアウトだと思います小向先輩」
まっすぐすぎるのも考え物だということだ。
彼の腕の中から抜け出して、改めてお礼を言う。
「ご心配おかけしました。ですが姉が戻ってきましたので、いつまでも泣いていませんよ」
「強がりさんだなぁ、会田さんは。もしかしてもう帰っちゃう?」
ええ、本当ならあなたが来る前に。
「はい、気分転換ができましたので。来週からまた来ます」
「そっか、せっかくだから送っていこうと予約しに来たけど。そういうことなら気をつけて帰るようにな」
ごくごく自然にキスされかけたのは檜が手で遮ってくれた。ナイス壁。
「会長、セクハラですよぅ」
「む、相変わらず純情だな檜君は。いや、君のような生き方も俺は好きだけど。ぶちのめしたいぐらい」
「あははー、ありがとうございますー」
この会長、時折ギョッとするような発言を平然と言うから怖い。
クラスメイトの皆が数名残してほぼ全員固まってるじゃないか。
いろんな意味で変な意味に聞こえる発言だぞ今の。
檜はそれを笑顔でかわして私を教室の出口へ促す。
そこで、彼にお礼を言った。
「サンキュ、檜。落ち着いたら、また遊びに行こう」
「アイちゃん女の子として守るのぼくの役目だし。無理しないでねぇ」
災厄の防波堤もとい壁の檜はとっても優しい男の子だと思う。
私は背伸びをして180越えある檜の頭をワシワシと乱雑に撫でて昇降口に向かった。
「ずるいな、檜君は」
「会長が変態なだけでしょう」
耳に小向先輩と大月の会話が聞こえたがあえてきかなかったことにした。
私が絡まなければ、本当に面倒見の良い先輩なんだけどな。
小向先輩との付き合いは中学時代からだ。
中学校は違ったのだが、とある縁で惚れられてしまった。
猛烈なラブアタックを丁重にスルーしつつも、すごしていたのだけど高校がまさか同じになるとは思わず。
以来、毎日放課後に何かと生徒会に入らないか?とか一緒に帰ろうよとやってくる。
周囲がドン引きするほどなので、時々副会長さんや先生がたしなめに入ったりするが勢いはとまらない。
そんなときに両親の事故で、一番心配してくれたのは彼だったのはわかっている。
学校で私が事故の報を聞いたとき、授業放棄して傍にいてくれたし。
その時は何も言わず、ただ震える私の手を自分の腕につかませてくれていた。
死体確認して放心した私を支えてくれたのも、祖父が来るまでいて祖父には恋人かと尋ねられたりもした。
『いえ、会田さんにいつもお世話になっている者です。彼女のこと、よろしくお願いします』
小向先輩はそう答えただけだった。
あの時だけはちょっとかっこいいと思ったのは秘密だ。
……でも、恋人にはちょっとなぁ。
欄外人物紹介 (とばしても問題ないです)
小向晋作:東泉高校2年 男
東泉高校生徒会長、優男風な美少年 文ラブで中学時代からの付き合い
周りからの評価は高く、上からも下からも慕われている(ただし文が絡まないとき)
分別はつけているので、普段は放課後しか絡んでこない




