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あこがれと何か

 学級長と花岡を各自家に送り届けた。

 次は千里の家と思っていたら、後部座席から声がかかったので振り返る。

「文、私も。文の家行きたい」

 私も。ってああ久星とかと対抗しているのか。

 そういえば中学も私彼女を家に上げたことなかったなぁ。

「いいよ。お夕飯食べてく?」

「ん」

「ということは、このまま会田家に向かっていいんだね」

 運転手の浅木さんはお茶会で余ったクッキーをかじりながらいった。

「お願いします」

「うい。愛染はどうせ一晩以上コース確定だし、史緒は口封じと病院連れて行くだろうし、おにいさんご飯作っちゃおうかな」

「人肉料理以外でも作れるんですか」

「人間の根本として食は大事だぜ、そして史緒の料理の師匠はオレだ」

 なら、まともな美味しいものが出てくるだろう。


 浅木さんはリビングに縛って拘束していた仕事仲間の縄を解いて、仕事用のバンで姉を迎えに行くように指示を出していた。

 さすがというか、彼はマイエプロン持参だ。

「ちょっとオレらで散らかしちゃったからそっち片付けて待ってて」

「何したんですか」

「誰が行くかでもめてさー。オレ偉大なる計画のためにどうしてもここで文さんの株をあげておきたかったんだ」

「計画?」

 千里が大きな刃物が刺さった跡の残る雑誌を拾い上げながら口に出す。

「会田姉妹の食事風景を網膜に焼き付ける。これはオレが史緒のところに来る理由のひとつだ」

「……まぁ、実害はないのでいいですけど」

「ありがとう。史緒が今日は時間がないからオムレツ作るって言ってたけど、あいつのオムレツはスパニッシュだから、オレはジャーマンを作る」

 各自作業を進める。

「そういえば、千里は姉知ってるんだよね」

「うん。史緒さんの事件にも関わったことあるから」

 それは5年前のことか。

「あの頃から、彼女の周りは危険がいっぱい。そしてグレてた私は彼女に遭遇。一緒にケーキ食べて、それがとても美味しかった」

 千里は口元を緩ませて懐かしんでいる。

「もっとも、文の姉だと知ったのは中学2年ぐらいのときだった」

「じゃあ、爆弾魔にも遭った?」

 彼女は険しい顔をしながらもうなづいた。

「といっても爆弾にだけど。それが最後で、文から話聞いたとき納得した。もう限界だったんだって」

「え?」

「最後のとき、史緒さん解体終わったら薬飲むの。睡眠薬をたくさんいっぱい。中学生には多すぎる量を飲んで、それでも寝れなくて、眼鏡の男の人が来て、やっと安心したように気を失うの」

「眼鏡の男の人って……」

「娘っていってたから、きっと文のお父さんだ」

 千里の言葉をテーブルを拭きながら整理する。

 その言葉が真実なら、父が姉の異常を知っていたことになる。

 薬を渡していたのも父だろう。

「あの親父」

 黙っていたのだ。

「文さん、お腹すいていらいらしてる」

 怒りの原因がお腹が空いていることだと浅木さんに言われ反論しようとしたが、テーブルにのった美味しそうな料理の数々を見てしまうとそう思えてしまった。

 千里はその料理に感嘆の呟きをもらしている。

「ただいまー」

「ほら、二人とも手を洗っておいで。ご飯にしよう」

 食事を前にして笑う彼は普通のいい人だ。

 人間ってころころ顔が変わる。


 4人がけのテーブルの席をすべて使って食べる機会はひさしぶりだ。

「千里ちゃんの話は文から聞いているわよ。脚線美人が蹴りで男を倒しまくる」

「史緒姉、そんなこといってない。勝手に話を作るな」

「あれ、そんなニュアンスじゃないの?」

「違う」

 千里と浅木さんはそんな私たちを微笑み見守っている。

 ジャーマンオムレツを口にして、その素っ気なさのなかにある味わいをかみ締める。

 スープと付け合せの野菜がまたそれに合うんだよな。

「美味しい?千里さん」

「はい、今日はいいご飯です」

 千里はいつもよりゆっくりとご飯を食べている。

 食べる量は同じかそれより少なめだけどゆっくりな分たくさん食べてるように見えるよな。

「うー、スープおかわりしよう」

「文、私も」

 姉のスープボウルを受け取って、まだ湯気の立つなべの中身をすくう。

「史緒、あいつらは?」

「今夜は帰ってこれない」

 ぶっきらぼうに姉は言う。

「げ、オレ仕事の車で来たんだけど」

「ブラザーズが使ってるから帰るの明日以降ね」

「マジか。史緒泊めて?」

「女所帯に男を泊めるか」

 姉にしては凄く真っ当な意見だ。

「えー」

「千里ちゃん送るついでに駅前まで送ってあげるから。最終で帰ればいいじゃない」

「いや、明日は星月日せいげつひトリオとバスで食いしん坊レポートのための取材を」

 3人で何だそのトリオと思ったが、私が一番最初に答えにたどり着いた。

「浅木さん、久星たちとまた取材ですか」

「ああ、(久)星と(大)月と日のき(ヒノキ)のことか」

 千里も気づいて彼らの苗字を宙に指でなぞる。

「社用車で来る浅木が悪い。ちゃんと自家用車で来ればよかったのよ」

「だって、愛染が乗っててもいいっていうから」

「沙門は仕事だもの。運転手代わりになるならガス代浮くでしょ」

 姉と浅木さんがあれこれ言い合っている。

 千里は妙に馴染んでもくもくとご飯を食べているのは私のせいだな。

 色々千里が手伝ってくれたから、ちょっとやそっとじゃ動じなくなった。

 しばらく言い合いが続きそうなので、お互い食べ終わったところでお茶を入れる。

「そういえば、今回の敵さんはどうだった?」

「師匠より弱かった」

 千里の判断基準って自分より強いか弱いか、師匠より強いか弱いかだもんな。

 まあわかりやすいし、師匠はそれ以上に大雑把だ。

「人間って、真上からの強襲は慣れてないと対処できない」

「ああ、それで仕留めたんだ」

「そういうこと。そのあとに、浅木さんが来て腕をぼっしゅーと」

「もいだ?」

「つなげやすいようにちゃんと刃物使ったよ、オレ」

「やり過ぎって言ってるじゃない」

「だって骨折るだけじゃさー」

 いつもだなこの二人は。

 でも、同級生でこうやって話せる友人ができたから姉は料理もうまくなったし、爆弾魔に爆弾を送られても何とか生活できたのだろう。

 姉が中学のとき薬飲んでたのに気づかなかったのは我ながら不覚だ。

 妙にそういうとこ隠すのがうまいんだから。

 年の功って昔言ってたけど、たかだか5年じゃないか。

 あと10年もしたら差なんてほとんどなくなってるんだから。

「文は、史緒さんが戻ってきてよかったね」

「何よいきなり」

 千里はお茶を冷ましながら言葉を選んで、話す。

「んー、文が誰かの心配するなんて、めったにないし、それは一時期だから。いつもお姉さんのこと心配して、気にかけていると。なんだか、とっても文が可愛い」

 褒めているのかけなしているのかわからない言葉だ。

「きっと、小向先輩も思っているよ」

「やめて。球技大会以来気まずくて会ってないんだから」

 あの騒動で、小向先輩のファンやら片思いの人間を敵にまわした私は、ストーカーというかいじめというか嫌がらせをいろいろ受けている。

 おかげで置き教科書ができずにいる。

 クラスメイトや事情を知る生徒会執行部部員が手助けしてくれたり、笹部先生や担任がフォローしてくれるからいいんだけどさ。

 低俗だろ、常識的に考えて。

 全校人数が少ないから、犯人もだいたい特定できてきたしそろそろ行動しようかと思ってるけど。

 姉と浅木さんの言い合いは姉が負けたらしく、姉がむくれて食器をまとめて洗いオケに持っていった。

 ああなったら、洗い物が終わるまで話しかけないほうがいい。

「かーわいい」

「あくしゅみー」

「ああ、悪趣味な。いいんだ、史緒はいじめられて光るタイプだから」

「史緒姉、いらいらすると私に抱きつくクセがあるんですからほどほどにしといてください。最近は沙門さんと何かあるたびに勉強中の私に飛びついてくるんですから」

「まじで?そうか、最近オレがやられないと思ったら文さんに行ってるのか」

 まて、今の発言。

 史緒姉、浅木さんにそんなことしてたのか。

「沙門だと女物の香水の匂いがして嫌だとか言ってさまるで兄弟猫がじゃれるように背中に乗ってきたり無駄につねってきたり」

「文だ」

「まちなさい千里」

「いらつくと檜に癒しを求めて抱きついている。そうか姉妹でのクセだったんだ」

 ……あ、本当だ。

「……今まで無自覚だった」

「檜かわいそうだ」

「おお、輝也さんに聞いてみよう。からかいネタが増えたな」

 姉妹だからなのか?でも、あれは……。

「親子ゆずりだ……」

 母も無駄に父の弟をからかうようにいじって、父にたしなめられてた。

『どうして、兄さんにしないの?』

『だって、綾史さんにしたら怒られるから』

 ちゃんと人を選んでるところも同じだ。

 親子の血って怖い。

 私も姉の隣に立って洗われたお皿を拭くことにした。

 千里は浅木さんと仲良く姉妹談義に花を咲かせていた。

 ちょっと気をつけよう。心には決めたがいつまで保つだろうか。


無自覚は性格に関わらず

習性というには性質が悪い

千里はそんな彼女たちのそばが気に入ってます

浅木はそんな姉妹たちの笑顔が気に入ってます


この後、結局浅木は檜の家に泊めてもらいました

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