学校生活とは尊きものなり
逃げることなく、まっすぐと。
勉学も、遊びも、生きることを励めといったのは父方の祖父だ。
『気晴らしにでも、行って来い』
そう言われ、喪中なので行かなくてもいい学校に登校する。
「お前喪中だろ」
教室に入って飛んできた第一声を発したのは中学時代からの友人にして元不登校生の湯元千里だった。
「お祖父さんが気晴らしに行って来いだって」
「あいかわらずだな、おい」
千里は寒くないのかと思うほどのショートパンツから足をのばして、ゆらゆらと揺らす。
ショート丈のソックスは、手入れのきいた彼女の脚線美を邪魔せずにいた。
私服高校である我が高校、県立東泉高校でもなかなか大胆な格好だ。
上履きがサンダルなのでそこは抜けてしまうのだが。
席について彼女と会話する。
「トップニュース、きく?」
「おー、いいね文のニュース」
「姉、帰還」
そういった瞬間に、千里は手に持っていたペンケースを落とした。
「どうしたの?」
「戻ってきたんだ、史緒さん」
むしろ私は何で中学からの付き合いのあなたが姉のことをそう言うのか訊きたい。
姉のことはいなくなったとだけ彼女に伝えたはずだが。
「まぁ、仕事があるから戻ってくるのは初7日の時みたいだけど」
「そっか。文が寂しくなると思った」
ぶっきらぼうな言い方だが、これが彼女のしゃべり方だ。
なんでも下手に言葉の数を増やすと文章として成り立たなくなるとか。
それが原因で不登校になったのだが、今はこうやって高校に通えてるから良しだろう。
「文、部活どうする?」
「あー。ちょっと保留かな、史緒姉のこともあるし。それにこの学校部活と呼べるものが……」
後半はあえて言わなかったが、千里も納得したようだった。
東泉高校はこの地区ではぐれ者の受け皿と呼ばれている。
天才から馬鹿までいるのはいいのだが、いかんせん部活が部活として成立していない。
そんなことを話していたら本鈴が鳴ってしまったので千里は自分の席に戻ってしまった。
いつもはお弁当な昼休みも、今まで作ってくれた母がいないと購買で購入する選択をする。
「会田、お疲れ」
普通なら女子グループあたりで昼食を取るかもしれないけど、何故かいつも男子グループと食事をする。
千里になぜだろうと尋ねたら、『お前、言動が男だろ』と返された。
それを言うなら千里もだと言い返したのだが、彼女は彼女で一人で昼食を取る。
「……なにこれ栄養ドリンク?」
「ファイトなんちゃら。痩せましたよ」
「否定はしないけど、効くかな」
「のんどきなよぅ、アイちゃん」
男の友人、久星、大月、檜の3人組に言われて渡されたそれを口にする。
ウニ頭の久星は2つ目のパンを口にしながら話し始める。
「だいたい会田はよー。色々と女として足りねえんだからさー」
「久星、それは立派なセクハラです。いちよう会田さんは女性です」
それ、フォローになってないよ大月と心の中で呟いた後、ビンから口を外した。
「でもアイちゃん、ほんとにやせたよぅ」
この中で一番背丈があって、一番小心者の檜はおずおずと菓子パンを差し出してきた。
どうやら、食べて太れとのことらしい。
「ありがとう、檜」
3人がいつも通りをこなそうとしてくれたので、ありがたくそれに乗っかった。
「そうだ、会田学校どうなった?まさか転校か?」
「んにゃ、姉が戻ってきたからこのまま学校に家から通う」
「……おねえさん、いたんだねぇ」
「きっと会田さんの様に残念な美人だと思います」
残念な美人ってなんだ。人の姉を失礼な。あんたこそ残念な美形メガネだ大月。
「「あぁ」」
そして納得の言葉を二人してもらすな。
「5年間会ってなかったからね。まだわかんないよ」
先に貰った菓子パンを片付け、コロッケパンの封を切る。
ソースの染みたジャガイモだけのコロッケは安っぽいパンと絶妙なタッグを見せた。
……母のコロッケも美味しかったなとちょっとセンチメンタルになって涙がこぼれた。
3人がこんなとこは空気読んでくれるから、一緒に昼食を食べる仲なのかもしれない。
「えーと、んーと。えっと、今日アイちゃん来てるって知ったら生徒会長喜ぶよね」
話題を出してくれた檜のおかげで涙が悪い意味で引っ込んだ。
「やめてくれ……。面倒なんだよあの人」
最後のひとかけらのパンを飲み込み、ミルクティーのパックにストローをさした。
「正直僕もドン引きですね。まだ喪中ですし、このあと帰ったほうが」
「俺も同意見」
「じゃあおれ壁するー」
決定したところで早くこのミルクティーを飲んでしまおう。
あの先輩はいつだって放課後に災厄としてやってくる。
欄外人物紹介 (とばしても問題ないです)
湯本千里:東泉高校1年 女
文の中学時代からの友人、一時期不登校仲間だった少女
ぶっきらぼうなしゃべり方だが、文の一番仲の良い友人
脚線美人、胸も文よりあり、スリムビューティー1年代表
久星凛:東泉高校1年 男
文の昼飯友達で男子3人組の一人、いがぐり頭の少年
文のことは友人だが、女と思ってない
頭が悪いが友人を大切にするが名前を呼ぶと怒る
大月望:東泉高校1年 男
文の昼飯友達で男子3人組の一人、美形メガネな少年
口調は丁寧だが辛い、成績は学年トップで入学した
事情があって東泉に入ったが、意外と校風が気に入っているらしい
檜輝也:東泉高校1年 男
文の昼飯友達で男子3人組の一人、一番のっぽで小心者
いじめが原因で東泉に入学し、久星や大月と会って初めて友達ができた
3人の中で唯一、文を女の子として大事にしている




