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図書館にて

「珍しいこんなところで」

「……少なくとも檜よりは本読むわよ」

 学校の図書館の心理学関係のコーナーで大月に声をかけられた。

 今日は小向先輩と帰る予定なので、彼が生徒会の仕事を終わらせるまでいる予定だ。

「心理学に興味が?」

「いいえ。ちょっと考えていたことがあったのだけど、家にある本が専門書だけだったから」

 千里に言われたセリフがここ数日、妙に胸に引っかかっていた。

 中途半端ってなんだろう。

「これどうぞ。面白いですよ」

 大月は決めかねていた私に棚から一冊の本を抜き出して差し出してくる。

「ありがとう。家でゆっくり読ませてもらうわ」

「どういたしまして。感想聞かせてください」

 借りる手続きをして、彼の座る斜め前の席に腰をおろした。

 どうやら自主学習をしているらしく、難しい参考書を開いている。

 正しい図書館の使い方の一つに見えた。

 東泉でこの光景をお目にかかることはめったにないと思う。

 妙な人たちは勉強に対しても、奇妙に勉強し楽しみ時々放り出す。

 見た目正しい自主勉強の姿は貴重だ。

「……暇をつぶすなら、棚に本があるでしょう。じろじろ見ないでください」

「邪魔していないからいいじゃない」

「人に迷惑をかけないように」

「声を荒げる大月のほうが迷惑だ」

 大月は言葉を詰まらせて黙り込む。

 何か勝った気分になったので、棚に本を取りに立ち上がった。

 しばらく本を読んでおとなしくしていた。

 大月はため息をひとつついて、再び参考書とノートに向かう。

 彼は大人びていながらどこか子供っぽいところがある。

 たとえば今私の頬を無言でつまむところとか。

「なに?」

「もち肌ですね。すっぴんがプラスに働いているようです」

「ひふこきゅうできないのだもの」

 気に入られたのか、そのまま両手で両方の頬をつままれた。

「ふにふにするなー」

「人の気をそらした罰です。あなたは人の気持ちをくまない」

「……だからちさとにああいわれたのかな」

「なんと?」

「こむかいせんぱいにたいしてちゅうとはんぱだって」

「同感ですね」

 目を細めて首を少しかしげた。

「どうしてそうおもうの」

「わかりませんか?自分で好きで好きでたまらない人にいいようにあしらわれ続けるんですよ?」

「わからないわっていひゃいいひゃいー」

「この残念美人。私は二人のように籠絡されるつもりはありませんよ」

 大月はいじめっこのように笑って私の困った顔を見ながら頬をいじり続けた。

 むかついたので、私は反撃とばかりに彼の頬をつかもうとしたが器用に腕で防がれてできない。

「甘い。想定済みです」

「むー、おおつきのばかー」

「おばかのはどちらかよく考えてから物をいいなさい」

「うん。女の子は馬鹿でもいいけど、男はそうもいかないよね。大月君」

 いつもより一トーン低い声だった。

 大月が固まっている。

「おわりましたか、こむかいせんぱい」

「終わったよ。体育委員長に丸投げしてきた」

「しごとしてください。おおつきもそうおもうでしょ」

「……ノーコメントで」

「うん。で、いつまでも女の子の頬をつねって遊ぶのは感心しないな、大月君」

 その声で大月が私の頬から指を離した。

 自分でもんで、感覚を取り戻す。

「行こうか、文」

「はい。じゃあまたね、大月」

「ええ」

 彼に手を振って、先に歩いていった小向先輩についていく。


 機嫌のナナメな小向先輩はそれでも私の歩調に合わせて歩いてくれる。

「だいたい文は俺というものがありながら他の男に浮気するなんて」

「あれは浮気ですか。そして付き合っていないと何度いったら理解しますかあなた」

 しかし彼は一定の距離を保ったまま先を進んでいる。

 しかたがないので、話をこちらから切り出すことにした。

「小向先輩のことシンって呼ぶ人に会いました。この前先輩がお昼に会ってた方」

「ああギルか。あいつ色んなところでバイトしているからな。西平の進学コースなんだよ、あれでも」

 西平の進学コースとなると県内有数、市内でトップの学力だな。

 頭いいんだあの人。

「小向さんがあの時自殺未遂した理由もわかりました」

「……あいつ、余計なことを」

「あなたの失恋が痛手になることはわかりますが、それでも自殺未遂はどうかと」

「引っ張るなぁ、今日の文は」

「そうですか?」

 自分でも何を引っ張っているのかわからないが、彼が立ち止まったのでその背中をぽんぽんと撫でる。

「ただ、小向さんが認めるほど良い人なのはわかります」

「……ギルの恋人のトミーはな、俺らと同じなじみでさ。とにかく幸せになれというしかなくて。実際、あれでよかったんだ」

「引けるときに引ける男は潔くて好きです」

「……文、もう一回言って?」

 私は無言を守り、彼を越して自転車を手で押し進める。

 別に褒めや世辞で言ったわけではないので一度しか言うつもりはない。

「あーやー」

「置いていきますよ」

「つれないなぁ。でも今日は何で一緒に帰ってくれるんだい?」

「千里が、私があなたに対してかわいそうだと言ったので」

 そのかわいそうの意味を知るために、彼と帰ろうと思った。

 それを聞いて、小向先輩は笑顔になる。

「ナイス湯本さんと言わないとね。嬉しいな俺」

「左様で」

「うん。大好きだよ文」

「そういうセリフは恋人に囁いてください」

「球技大会はかっこいいところみせたいな。ギルに負けないようにしないと」

「勝手に決めない」

 いつもの小向先輩に戻ったので安心した。

 こんな彼を見ているとかわいそうには思えない。

 とても、強い人で。

 どこか儚いように感じるのはわかっていても。

 思わず顔を伏せたくなるのはなぜだろう。

「文、球技は何?」

「バレーです」

「俺はバスケ。応援行っていい?」

「構いませんが」

 小向先輩が更に笑顔を増した。

 わからない人だ。

もち肌もち肌

好きな表現の一つです


実は2回データが飛んで一から書き直しました

3回書いても同じ文章にならないのは何だかなと思ったり

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