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ラブレターふぉーユー 04

 家にそろそろ戻るとのことで、久星をぱかぱかと軽く叩いて満足してから帰路につく。

 その手間をかけていた間に、姉に話しかけている男性たちの姿が出現した。

 変なナンパだったら追っ払ってしまおうと思ったが、久星が先に男性に声をかけた。

「一期さん」

 浅木さんと赤沼さんが姉の傍にいた。

 遠くてよく見えないが、何か傍に転がっている。

「おお、久星さん。さっき遠くから見たけど青春してたな」

 顔を真っ赤にする久星を見て、赤沼さんがぼそりと呟く。

「ガキ」

「いいじゃん、オレだって酒飲める年齢になったけどやっぱり彼女とイチャイチャしたい。それに水を差すのはよくないよねってことで、こいつら躾けておいた」

 こいつら、と言われた3人は二人の足元に転がって動かない。

 久星と一瞬硬直した。が、3人とも生きているので安心した。

 薄暗い夕闇の中、姉が今思っていることを代弁してくれる。

「赤沼、これ何」

「お前の追っかけじゃなかったのか。浅木が殺しそうな勢いでボコボコにしたからオレが殺される前に新製品の実験を兼ねてシメておいた。いい感じにのびているだろ」

「私じゃなくて、妹のよ」

「別にお前を困らせるならどちらにしても同じだろう」

 あれ、何かこの言葉小さなころに何度も耳にしたような気がする。

「どうしてどいつもこいつも同じ言葉を吐くかな」

「えー、いたの?」

「いたわよ。家出前にね、大概妹に近寄る馬鹿共だから根性なしが多かったけど」

「ああ、史緒に近づいてラブコールするのって並大抵の根性じゃかじり付けないと思う」

 浅木さんは納得して一人うなづいていた。

 どういうことだと姉のほうへ答えを求める。

 彼女は匿名で救急車を呼んでから帰り道に口を開く。


 史緒姉、10歳の記憶。ちなみに私は5歳だ。

 私にあの手この手で近づき時に誘拐しようとする大人に困り果てた姉は考える。

 父にたずねてみた。

 とりあえず父に聞くは姉の昔の悪いクセだった。

『ストーカーやめるには、どんな薬が必要なの?』

『プライドさえかなぐり捨てる恐怖』

 怖いことってなんだろうと、姉は再び考える。

 そんなときに姉を可愛がる人に、実はストーカーする人間は同族嫌悪するという話を聞く。

 姉は思ったそうだ。

『嫌悪って怖いことだよね』

 正しく日本語が使えれば違うことに気づくのだが、史緒姉は当時まだわからなかった。

 ストーカーが鉢合わせしやすいシチュエーションはなんだろうと模索した結果。

 それが二人での散歩。

 姉が意図していたものとは異なるが、結果的にストーカーは減った。

「私のストーカーが文のストーカーを淘汰していたのは12の時まで知らなかったわ。血まみれの中で首級をとって褒められるのを待つ男の顔を見たとき、あの時父が言った薬とはもう二度とこいつらに関わらないと思うほどの痛みとトラウマなんだって気づいた。」

「何ていうか、史緒さんぱねぇ」

 久星が冷や汗をかいていた。

 私もそう思った、怖いのは今は姉がそれを意図的にやっているということだろう。

「素人相手に私のストーカーは本気出さないわよ」

「お、それもしかしてオレら褒められてる?」

「オレを数に入れるな浅木」

 それでも病院送りコースなのはどうかと思う。

 つくづく、姉と深く関係を持った人間はまともじゃないと気づかされた。

 久星も前回のアレで、いろいろ走っているし。

「まぁ、あれでしばらく動けないだろうし、二度と関わろうと思わないでしょう」

 史緒姉はゆっくりとした動作で家の玄関を開ける。

「久星君、もう少しいる?」

「いえ、これで会田の子守も終わったので帰ります」

「ありがとう。ケガなくて本当によかった。」

 私はちょっと考えて途中まで送っていくと久星に伝えた。

 姉も必要でなければ、彼らを家にいれようとしない。

 二人が来たということはそういうことだ。

 ならば、お邪魔になりうる私は知らないために出かけよう。


 偽装交際が終わったので、いつも通りの距離で歩いていく。

「最後に手紙の相手だけわからないままだったな」

「そっちは、わかった。これの匂いで」

 私は手紙を久星の顔元に持っていった。

 彼は少しだけそれをかいで、納得したようにうなづいた。

「クラスメイトだ。誰か忘れたけど嗅いだことがある」

「でしょう」

 調合された香水なら、判断にもう少しかかったかもしれない。

 けれどもこれは、ひとつの花の香り。

 女子がつけている香りの中でも彼女だけが持っている特殊なものだ。

「どうするんだ?」

「お手紙書いたよ。きっと彼女との文通がはじまるに違いない。すごい乙女チックだよね」

「似合わね」

「そうやって、思ったことを口にしない。女の子が逃げちゃうよ」

 ぱかりと叩かれた。予期していなかったので、目を白黒させて久星を見る。

「お前が言うか」

 なら何故そっぽを向いている。

「何さ。今日はパカパカ人の頭を太鼓みたいに叩きやがって」

 それに彼は返答しないで、帰るとぶっきらぼうに言った。

「ありがと。また何かお礼する。何か要望があれば考えておいて」

「ん。あんまり夜道徘徊してんなよ」

 手を振って、西平高校の前で別れる。

 本当に自分の思いに素直な人だ。

 そう思いながら、彼の後姿を見送った。


 次の日以降、私はしばしば手紙の彼女と文通をして交友を深めた。

 しゃべらない理由とか、好きなものとか、日常の会話。

 メールじゃなくて手紙なのが私と彼女のテンポには相応しい。

 『手紙を誰にも見せなかった、文さんが好きです』

 知らせないことが、こんな友情関係を結んだりするのだ。

 彼女の私からの呼び名はラブレターの君としての定着させた。

 そんな、後日談。

ラブレターふぉーユー おしまい


ラブレターの君はまたお話に出したいです

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