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ラブレターふぉーユー 03

 手紙が、入っていました。

 そんな4日目、中身を確認する。

『前略 会田文さんへ 好きです 気をつけてください 恋人さんも』

 これは姉の推論が当たった。

 手紙の人はただの文が下手で言葉をうまく伝えられない人だ。

 本当に下手な手を打った。

 私は久星と偽装交際なんてしなかったら今回みたいなことにならなかった。

「おはよう、文」

「おはよう久星、昨日はありがとう」

「別にいい。手紙また来たのか」

「そう。あの3人じゃない人だったみたい。むう」

 手紙の端をかじっていると良い匂いがした。

 かすかだけど、これは女物の香水だ。

「3人の内男の人しかいなかったでしょう?」

「だな」

 久星の手を机の上におき、頬に当てながら考える。

 どうしようか、姉の言うとおりに二人で散歩すれば問題解決するのか悩む。

「久星、私の家今日遊びに来ない?」

「え」

「だめ?」

「いや、その。いいのか?」

 素で驚いている。

 私が彼が嫌がる下の名前で呼ばないのと同じぐらい、私は家に人を入れるのを嫌がる。

 それを久星は知っているからだろう。

「姉と3人でお散歩したいの」

「……姉付きかよ、期待させんな馬鹿」

「え、何を」

 皆が会話を止めたのがどうしてもわからず、久星は固まった後にうつむいたままで顔を上げてくれない。

 千里に救いの視線を向けると彼女は肩をすくめるそぶりをした。

「それが文クオリティー」

「ちょっと黙れ湯本」

「わかった、今から大月に話してくる」

「や・め・ろ」

「会田さん良いキャラしてるわ、ほんと」

 女子のその一言が私にとっては驚きだった。


 今日は絶対別々にご飯を食べると言われ、久星とは別に社会科準備室でご飯を食べる。

 それでも作ってきたお弁当は渡したのでちゃんと食べてくれるだろう。

「笹部先生、どうしてだと思う?」

「そこのド天然悪女テンプレート、とりあえず今すぐ久星と小向に謝ってこい。少年の心をいくつ手玉に取れば満足するんだお前は」

 そう言ったのは笹部先生ではなく松林先生だ。

 松竹梅でなく松笹梅の3人が今日この場にはいる。

 千里は犬が楽しく尻尾を振るように歩いて、どこかへ消えていった。

「松林先生は関係ないじゃないですか」

「あのな、お前本当にそう思ってるのか?」

「はい」

「松林先生、会田は真剣です。大真面目です」

 笹部先生がフォローをいれてくれる。

 たぶんフォローだ。

「会田さんは人と、はずれた考え方をするのね。この前のテストもそうだったから」

 小梅先生が緑茶をすすりながら言った。

「まぁ、それを笹部先生に大分矯正できるようにしてもらえました。国語と社会の点数が上がった上がった」

「あえてお前はそのままでいいよ。下手にそれ以上いじると首絞めるからな」

「そうしておきます。自分の意思ではなく自分の意思を変えるのは殺したくなるほど嫌ですから」

 本日のデザート、姉の涙入りチーズタルトを取り出す。

 メールしたら、一緒に散歩してくれると返信してくれた。

 あとは久星と帰るだけだ。

 あ、でもその前にお手紙書かなきゃ。


 私と久星が手をつないで帰ってきたのを見て、姉はクスッと笑った。

「いらっしゃい、久星君。お散歩行く前にお茶はいかが?」

「いただきます」

 リビングで私がお茶をいれ、姉はチーズタルトを用意する。

「話は聞いたわ、うちの妹が迷惑かけたみたい」

「いえ、その……」

「うん。言わなくてもわかってる。年重ねた分凶悪だと思うよ、姉から見ても」

「昔からかこいつ」

 私のほうを何か睨みつけるように久星は見ながらチーズタルトを食べる。

「だから、何が」

「黙っていればの限定で、立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」

「姉もそうじゃないか」

「姉は妹と違って、一般人ですから化粧すれば美人に見えるのと、しぐさだけは気をつけてます」

「何それ」

「あなた顔に対して行動が男の子みたいなんだもの。今は二つお下げの女学生さん風だけど、昔のショートカットの時なんて、会田病院の天使とか言われてたの知らないわね」

 自分の作ったチーズタルトの出来ばえを確かめながら姉はそんな昔のことを話す。

「天使……悪魔の間違いだろ」

「言うな、私にもそんな時代があっただけだ」

「ふふふ」

 姉は嬉しそうだ。


 灰色の雲が空を覆っている。

 その中をただ、3人で歩くだけ。

 川沿いの道はじっとりと草も土も湿って濡れている。

 姉は歩きながら足元の草や雨で滴ができたクモの巣を興味深い様子で眺めながらフラフラ歩いている。

「姉さん、川に落ちないでよ。増水して危ない」

「わかってますよー妹よ」

「絶対わかってない」

 ここ幾日かの断続的な雨で増えた水かさは川の変化した茶色と掛け合わされて乱暴なうねりだ。

「史緒さんて、結構幼いんだな」

 久星の言葉に思わず愚痴がこぼれる。

「本人に言ってやって、面倒見ているこっちがハラハラする」

「好きなんだ、文は。心配するぐらい」

「まぁ、それなりに。本人に言わないでよ」

 絶対調子乗るから。

「普通の姉ちゃんじゃん。悩む必要ない」

「ありがとう。普通って言葉史緒姉は好きだよ」

 二人で手をつないで姉の後をついて行くように散歩する。

「うまくいったんだ。姉妹の会話」

「……わからない。けど、なんかやっと昔と今がわかった感じかな」

「よかったな」

「言わないことも多いけど、言えないことは少なくなった。姉が折れてくれたから」

 自分でも思うが、結構頑固でワガママだと思う。

「もうしばらくしたら梅雨が明けるね」

 話題を変えて、今考えていることを口にする。

「ああ。それがどうした?」

「皆で遊びに行こう。きっといつも通りに楽しい。海とか行ってみる?」

 青い空と海、広がる海岸線とテンプレートなことしか思い浮かばないけれども。

「……皆でか」

「うん。嫌?」

 久星はちょっと言葉を吟味するように間をおく。

「いいや、楽しそうだな。俺は女に思えない奴には水着の評価は厳しいぞ」

「何それ。千里の脚線美に負けちゃうじゃないか」

「いい脚だからな湯本は。それに胸も結構ある」

「男の人ってしっかり胸も見るよね。大月の前言った『胸張ったってサイズが増えるわけではありませんよ』には男子が頷いて、女子から叩かれたのが面白かった」

 思い出しながら笑ってから、何気なく久星のほうを向いた。

 こちらを向いている彼の視線がかち合う。

「やっぱ、俺。お前のことは彼女にはどう転んでもできないな」

「だから頼んだんだよ。こんな自分の半分遊びみたいな実験に冗談でも真面目に付き合ってくれるの久星しか今のところ知らないもん」

 久星は苦笑して、私の頭を笑いながら頭を強く押し付けるように撫でる。

「ちょっと痛い、久星」

「知らないな。具合のいいところに頭のあるお前が悪い」

 馬鹿みたいな理不尽さに笑って、仕返しをしようとして避けられた彼の後を追う。

「待ちなさい」

「だが断る。会田・・、やり返したいのならついてこい」

 ガキみたいなかけっこを二人でしばらくして、姉に危ないと怒られた。

 でも姉の顔はすごく穏やかに笑っていた。

「私も人のこと言えないけど。その上をいくわね」

 何の事だ姉よ。

 一旦それへの反論を保留する。

 私は会田と連呼する久星を追うことにした。


何かを折る女、文

その種類はフラグとか相手の感情とか多岐に


そして姉と行動を共にすることによって今まで幼い文が無事にすんでいたかが今回初めて知ることになります。

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