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このままで良いわけがない

 グルグル過去のことを考えていた頭が、姉のその一言で二人のほうへ意識がむいた。

 私が視線を姉にむけると無表情で姉は指を唇に添える。

「ひみつ」

「あぁ、悪い。でも、5年たったしケリはついたんだろ?話してやったらどうだ」

「ヤダ」

「史緒姉」

 姉妹で頑固なところは似ているが、そこは私も知りたい。

「いなくなったの私のせいなら、怒るよ」

「違う。だから話したくないの」

「あの後、母さんがどれだけ泣いたか知らないからそんなこと言えるんだ。友達が何度も家に来てくれたかわからないからその苦労が理解できないんだ。私が……どれだけ引きこもっていて、父に薬飲まされたか知らないから。」

 薬という単語で姉の表情がゆがむ。

 嫌な思い出しか表に出てこない。

「ごめん、最後のは卑怯だった」

「……ある日、いきなり爆弾が届いた。それも学校ひとつ吹き飛ぶ量の火薬付きで」

「え」

 姉は顔を机に突っ伏して話し始める。

 くぐもった声が耳に届く。

「それこそ1日に1つのペースで。多いときは日に8つぐらい解体した。段々レベルアップしていたし、私以外が解体をしようとすれば、遠隔操作で吹っ飛ぶ。火薬量が、私一人で済まないことは多々。どこに行っても爆弾魔は私に爆弾という影を落とした。神経は磨り減るし、限界だった。このまま、私が解体に失敗して家族が死んだらどうしようと」

「中学卒業したときいなくなったのって」

「3月誤魔化せた。家族が死ぬことがないという安心感もあった。まだ、自我が保てた。絵葉書が送れるぐらいに。生きている証に絵葉書送れと行ったのは恋慈にいさんだけど」

 この人は馬鹿だと思った。

 頼ればよかったのだ。いつものように。

 それと同時に底知れない恐怖が私を侵食していく。

「AIは元々、対爆弾魔のメンバーなの。やっと、あいつを見つけて、勝って。でも知らされた。両親が事故で死んだって、彼に。ごめん、私トドメはさせなかったよ。あいつに背を向けて文のところに戻ってきちゃった」

「部屋に戻る」

 限界だった。

 姉のどうしようもない、泣き顔や泣き声を、見るのも聞くのも絶対嫌だった。

 怖くて怖くてしかたがない。


 ドアがノックされる音で目が覚めた。

 どうやら考えていたら、眠ってしまったらしい。

「文ちゃん、俺だけど入っていいかい」

「どうぞ」

 篠原さんが入ってきた。

「史緒ちゃん寝ちゃったから、一緒にうちでご飯食べようか」

「ん」

 顔をあげて、ごしごしと目元をこする。

「……恋慈にいは知ってたんだね。全部」

「おおよそな。そろってお前らが別々にやってきて同じことを姉妹にばれないように相談しに来るから」

 なんだそのシンクロは。

「お陰で手柄取ったりして、希望のデカにもなれたけど。正直お前らはもっと幸せになってほしいよ。出世よりそっちのほうが大事だ。うちの両親もそれを望んでいる。あの親父さんが亡くなったんだ、幸せになれ文ちゃん。」

「ん、わかってるけど。わかっているんだけど」

 恋慈にいは昔から優しい。

「幸せになるんだ。って史緒ちゃんも決意しているんだぞ。」

「うん。……でもね、恋慈にい。私わからないよ。どうすればいいのか。友達は好きだけど、史緒姉とも一緒にいたいけど、怖いんだ。ぞっとするほど怖い。これは私と姉にまとわりついている両親の呪縛だ」

 変人や奇人に加えてオマケ以上な人殺しに好かれてまとわりつかれて、まともな神経のままではおかしくなるから自分を変えるしかなかった。

 おかしくなって歪んだところは、私は先生や足長さんに生活できるように教えてもらった。

 それでも姉妹二人のときはそんなことをしなくてもバランスを取れていた。

 離れ離れになった5年間で私たち姉妹はどれだけのものを手放したのだろうか。

 姉は笑顔を死別した両親の遺骨に向ける人になり、私は白骨死体を前にしても、顔もしっかり確認しても、生き返るんじゃないかと指を震わせるほど恐怖しながら生きるようになった。

「大丈夫だ。きっと元に戻れるよ」

「……ご飯いいや。史緒姉と寝る」

 彼は笑んで、起きたらご飯食べにおいでといって部屋を出て階段を下りていった。

 その足音を聞いて、安心しながら1つ決意をする。

 姉が爆弾魔に奪われた高校生活を私が普通にすごそうと。

 幸せが何かわからないけど、それを探して掴んでやろうと。

 今はそれしか思いつかなかっただけなのだけども。

 部屋を出て、姉の部屋に入る。

 昔とは少しだけインテリア類が大人になった部屋だけど、基本は変わっていない。

 規則正しい寝息が聞こえて安心した。

 壁に体をひっつけるようにして眠る史緒姉の隣に潜りこむ。

 姉は、もう戻れないし、戻らないのだろう。

 AIという仕事をしていて、そこに仲間もできてしまった。

 でも、両親が死んだと聞いて何よりも先に私の元に帰ってきてくれたことが嬉しかった。

 すごく怖かったけれど、私の史緒姉だと思えた。

「ごめんね、史緒姉。私もう今回みたいに興味本位で遊んだりしないようにするから」

 久しぶりに、彼女の背中に抱きついて目を閉じる。

「二人とも幸せになろう。もう小学生じゃくて高校生なんだ、それぐらい考えられるよ」

 彼女が起きているときには絶対言えないことを宣誓して、昔のように眠りに落ちる。

 大丈夫、私には姉も、友達も、助けてくれる人もいる。

 何度も何度も心に刻み込まなければ、姉の隣ではなかなか眠れない。

文、高校生活を謳歌すると決意する

姉妹のスタート地点

秘密を話さなければ縮まらなかった距離


歩み寄りが難しい場合仲介者が有効です

お互いにある程度信用を置いている人ならなおさら


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