ラブレターふぉーユー 02
いちゃいちゃ3日目。
だいぶ板のついてきた久星と二人で雨を眺めながらお昼ご飯です。
いつも数日に1回のお弁当チャレンジがここ連続なので、姉に尋ねられた。
実験と答えたのは間違っていないはずだ。
学校にいるのは間違いの無い犯人を目下あぶりだす作業の日々。
地道な作業が嫌いじゃない千里に感謝だ。
何か後日に礼をしよう。
「今日の昼飯なんだ?」
「今日はね、ダシマキに胡麻和えでメインは西京焼きだよ」
和風ラインナップは彼の好みだ。
ジャンクフードと和食は久星の中で好みとして共存するらしい。
そしてこれを餌付けと言ってもいいかなと思う。
「食いしんぼうだよね」
「お前のメシがうまいからな、あー……文」
名前はまだ呼びなれないみたいだけど。
まぁ、食いしんぼうじゃなきゃいざ死体食べるって話になって血抜きをして解体するって発想は起きない。
食への意欲のポテンシャルは3人の中で一番高いかも。
「私があまり食べられないから見ていて嬉しいよ」
そう言って、しばらく無言で食べる。
「今年は雨多いな。晴れたらどこか遠出してみてもいいかと思ってるけど」
雨を見上げ、水滴の奏でる音を聞く。
ちょっと寒いかな。
「寒いか?」
「ん、少しだけ」
「ほら。風邪引いたら会えなくて寂しいから」
上着を貸してくれる優しさに笑みがこぼれる。
「ありがとう」
「別に」
ちょっと彼のほうに詰め寄って、食事を再開する。
遠くで男性を必死で止める叫びが聞こえたが、気のせいと思っていよう。
朝の手紙は届かなくなった。
代わりに久星のところに嫌がらせが行く。
「どうして、中途半端に臆病なんだろ」
「さてな。それより俺はこの3日でお前を女扱いするのに慣れたことが怖い」
「私も平気に恋人できることに驚きだよ。どこかで無理でそうだったのに」
「彼氏、いたことあんの?」
「いたら殺されてるんじゃない?片手ほど心当たりがある」
久星は眉をひそめる。
「お前さ、どんだけストーカー多いんだ」
「特定男性つくると殺し合いが起きそうな……いや、起きたな。一人死んでる」
あれも雨の日だったか。
「私が関わっていないように、父と警察の知り合いが手配してくれた。忘れろと言われて、薬飲まされても、まだ覚えている。うろ覚えじゃなかったらそれこそトラウマになってるんだろうと思う」
「無理して話すなよ」
「うん。あのときはね、自分じゃどうにもできなかったんだ。ただ、中学で普通の先輩を好きになって、普通にデートして、普通に恋愛しようとしたら、次の日その人がニュースで惨殺死体で発見されていたことを普通にTVで眺めていた」
今でも死体がどうなっていたのか思い出せると言うことは、私はおそらくその現場にいた。
「私、普通に恋愛できないなと学んでたのに、なんで久星勢いで偽装交際しろとか言ったんだろう。友達としては好きだけど、そんなつもりなかったのに」
「文」
久星に腕をまわされて、抱き寄せられる。
「久」
「黙ってろ」
雨の音を聞き続ける。しばらくすれば落ち着くだろう。
好きだった人の死体は、いつになったら私の脳内から消えるだろう。
姉を失ってからの私は、ずっと目の前で人を亡くしてばかりだった。
あの時貰った生まれて初めてのラブレターはどこに消えてしまったのか。
こんなんで良いわけがないとは思っても、足りない部分は私では届かない。
思い出したように、今回は以前お世話になった人に連絡をとろうと思った。
なんか今回はいやな予感がする。
殺しに来そうな人には断りのメールいれたがまだ足りない。
「ただいま」
「おかえり、文。ねえ覚えてる?隣の篠原の恋慈にいさん」
「ああ、警察で何度かお世話になって、その度に説教食らってる」
ウキウキしていた姉が素の表情に戻る。
「いつから?」
「姉が出てってから」
「だから、言ったじゃないか史緒ちゃん」
奥にいた篠原さんが出てきた。
ラフな私服だが湯本さんと組んでる篠原さんで間違いない。
「どうも、久しぶりに顔を出したんだ。史緒ちゃんが帰ってきたから」
「こんにちは、篠原さん相談乗って、ストーカーの」
「またか」
「今度は友達の子に偽装交際頼んでみたら、その子が危ない。ドジ踏んだかも」
彼は何も咎めずに私の頭を撫でる。
「史緒ちゃん、文ちゃんにお茶入れてあげて」
「ええ、わかった。文、お姉ちゃんに相談、してほしかったな」
「ごめん。でも昔お父さんに話したら初恋の人が死んだから、家族には言えないと思った」
姉が悲しそうな顔をするのを見ないように私はうつむいた。
父親は、今でも異端だという認識は姉妹の中にある。
これでも死んでかなり美化されているだろう。
篠原さんに今回のことを話す。
「警察沙汰には?」
「したくない。けどそうしなければ拭えない何かがある。むしろそうしないと駄目だ」
「……そういう時って文の場合、関係者に大物政治家とか警察関係者が絡んでいるわ」
姉が思い出すように言うことで思い出す。
そういえばそうだった。
「それで、もみ消される落ち。だから裏側の人間が顔を覗かせるっていう死亡フラグの連鎖」
「史緒姉。よく覚えているね」
「だって、ちゃんと拾ってあげないと文の周りで人が死ぬんだもの。回収できるようになったの小6のときかな。ずいぶんと恋慈にいさんに手伝ってもらった」
そうか、姉が私が死に触れないようにしていたのか。
「学生ってことはそれらの息子娘だな。ストーカーが男だけじゃないと文の件で散々味わってるからなぁ」
しみじみいわないでください。
「久星君襲った強い人間って、どれぐらいかな」
「千里が逃げられるってことは、死角からの一撃避けられたか受けきったかだから」
「……有梨子よりちょい上ぐらいと見るか」
姉が口元に手をあてて考えている。
「史緒、どういう計算している」
「二人以上ストーカーがいるんじゃないかな、と思って」
可能性としては十分ありえます。
「どう考えても、二日続けて同じ文章送ってきた子と襲ってきた3人組がかみ合わない。3日じゃ断定できないけど」
「同意見だ」
「私なら一人で夜道歩いてみるな」
「「襲われる、馬鹿」」
しかし姉はマイペースだ。
「それが狙い。単独か複数かわかるもの。私とお散歩しましょうか文」
「あのね……」
いつもこうだ、私を連れまわして振り回す
「だって、私以上に数が来るサディストからそれでずっと文を中学時代守ってきたんだもの、大丈夫だよ」
「は?」
姉は口を滑らせたと、思考を停止させて笑いでごまかしている。
私を何だって?
「ほら、私ってどこまで行っても一般人だから。お話がきっと相手に通じるよ」
それは考えとして違うよ、絶対。
「いやいや、ちょっと待って。史緒姉、サディストが??」
篠原さんに顔を向けるとしばし姉の顔を見て、私に話してくれる。
「こいつが、一番最初に俺に相談したときな。お前についてくるムシの相談だったんだよ」
「え、だって姉さんいたときは私一度も標的にされなかったよ」
「違うんだ、文ちゃん。史緒ちゃんがお前の壁になっていたから、誘拐犯とか変態とかがもっとヤバイ人種に淘汰されていなくなってただけで。事実、史緒ちゃんがいなくなったらいきなり増えただろ」
彼に説明されて開いた口がふさがらなかった。
姉は顔を赤くして、そっぽを向いている。
「だって、私ふらふらすれば文の問題解決したんだもの。連れまわせばそれだけリスク減るのわかってたし。父さん関わるとろくなことないし、母さんポヤンとしていて逆に犯罪にまきこまれそうだったし」
「なにそれ、怖い」
そんなことを露知らず、姉のためにせかせか動いてた自分ってなんだ。
「でも、史緒が中学3年になったときにそうも言えなくなったな」
「恋慈さん」
空気が固まるほど低い音。
最初はこのあとの話と2つで1つでしたが区切りのいいところで
文の心の傷と父の影
にじり寄る嫌な予感
そして史緒の失踪についてがあきらかに




