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ぎゅっとしたいとか、この人は言う

「長らくご心配をおかけしました。会田史緒、無事戻ってまいりました」

 両親の親族に丁寧に姉は頭を下げる。

 今年で二十歳になる彼女はそれ以上の落ち着きと……色気?を身にまとっていた。

 まだ生きている父の祖父が代表で話を聞くことになっていたが、祖父は目を細めるだけだった。

「戻ってこれた、ということは戻れなかった事情があったということだな?」

 ざらついていながら重量のある祖父の声に姉はただ、首をかしげて笑うだけだった。

「わかった、多くはきかない。よく戻ってきた」

「ありがとうございます、お祖父様」

 姉は正座を改めて正し頭をさげる。

「して、文。お前はどうする?一人暮らしは心配だからワシの家からと思ったが、史緒がいるなら今の家で暮らすか?というか、文もどうするつもりだ」

 私は姉の横でちょっと考える。祖父の家から今の学校に通うとなると片道2時間かかる。

「史緒姉さんがいいのなら、今の家から通いたいです」

「手がけている仕事が片付き次第、戻るつもりでいます。こちらでも仕事はできますので。もちろん姉として文の保護者としての勤めはきちんとこなすつもりです」

 祖父はきまりだなという顔で頷き、部屋を出て行った。

 部屋に二人きりになって姉の顔をちょっとのぞく。

 失踪したときはショートヘアだった姉の髪は長く美しい黒のロングストレートになっていた。化粧もした顔は実年齢より2割増しほどに見える。


 緑茶をすすりながらその後も姉の観察を続けた。

「姉、何で全身黒なの」

 スーツやネクタイが黒なのはともかく中に着ているシャツやストッキングも黒づくめだった。

「制服だからよ、妹よ」

 姉はそう低い音で答えて緑茶を吹いて冷ましている。

 彼女が猫舌だったことを思い出した。

「何の仕事?」

「うーん。何でも屋かしら。最近は部下がいるから私はもっぱら事務とかやってるけど」

「5年間ずっと?」

「うん。いちよう高校は行ったわよ」

 久しぶりの会話はそんなことで、もっと何かを話すつもりだったのに、昔と変わらない姉の姿に言葉が霧散してしまった。

「父さんと母さんのこと、ごめんね」

「事故だから、でも連絡ぐらいはしてもよかったと思う」

「……年1で絵葉書は送ってたのよ。名前は書かなかったけど」

 初耳だった。姉はちょっとためらって続ける。

「その様子だと知らされてなかったんだ」

「別に、いいけど」

 嘘だった。拗ねて言葉をにごらせると姉は立ち上がって私を抱きしめる。

「ごめんね。泣きたいときに一緒にいれなくて本当にごめん」

 後ろから殴られた気分で姉を見上げる。

 悲しい笑みで姉は私の首に手を添えた。

「傍にいてあげられなくて、ごめんね文」

 こぼれた涙で姉のスーツを汚しても、どんなに泣き叫んでも、姉はただ微笑んで私を優しく抱いていた。


 姉は1週間ほどで引っ越してくるらしい。

「手続きとかは私とお祖父様でやっておくから」

 初7日には間に合うように仕事を片付けてくると言って、ジャケットを脱いだまま彼女は最終の新幹線に乗って帰っていった。

なんかシリアスっぽいですが、いちようこのあと学園ものになる予定です。

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