食人鬼による殺人事件 10
自分の家もこれから四十九日がありますが、それの前に姉と檜の家の葬式の手伝いの準備をする。
「文は無傷だけど檜君怪我してるしね」
それが姉の言い分だった。
しかし遺体が肉の塊一つとほぼないことから外でお別れ会をして、家の仏間に檜の父用に仏壇をしたてあげることになった。
姉はこの手配を一晩の間にこなした。
なんでもこういう仕事は需要があるらしいので、早い。
この日はいつものスーツに白シャツだ。
「檜君、お茶は出せるようにお部屋片付けてね。埃っぽいと色々困るから」
「すいません史緒さん、親戚が遠方で」
「いいのよ。親戚の方とは話しておいて、私もちゃんと仕事として受けましたから」
姉が抜け目なくなってることに驚きながらも、掃除を手伝う。
「檜これどこに置いておけばいい?」
久星や大月も手伝いに来ているので、案外早く掃除は終わりそうだ。
「それは奥の物置に」
「わかった」
私の担当は台所で新聞紙なども散らかっているのを片付けていく。
あ、この前のレシピノートだ。
そう思ってペラリと反射的にめくった。
所々に血が散っているノートにはどの部位をどうやって処理し、加工して食べたか書いてある。
ほう、私が食べた部分は肩ロースにあたるところか。
人体解体図の部位を参照してある。そう人間をバラしたことの証のようなノート。
「会田さんあまりサボらずに掃除をしてください」
「うん、ねえ大月。加工したベーコンまだ残ってるの?」
「は?ベーコン……」
大月の顔が真っ白になる
私は彼のほうを向いてノートをひらひらさせた。
「大月は加工担当って書いてあるから。なかなか美味しかったみたいだから気になって」
久星と檜もこのノートを見て不動像と化していた。
「読ん」
「だよ?」
固まっている3人に近づいてノートでペチペチ叩いて正気に戻す。
「どうしたの?」
姉が廊下から身をこちらに出して、覗いてきた。
「史緒姉ー、面白いノート見っけたー」
「ああ、それなら私も見たわ。まだまだ改良の余地ありね」
あまりに驚かない姉に首をかしげる。
「食べたことあるの?」
「浅木が作るんだもの。私の料理の師匠だからね、彼。高校の時は3月に1体バラして試食会してたわよ、断るわけにいかないじゃない。美味しかったし」
「檜のから揚げなかなかだったよ。」
二人でぺろっとそんな人肉談義をしてノートを檜に返す。
「ほら、3人とも掃除」
「待って、そこの姉妹」
「「何?」」
まずその話に割り込んだのは檜だった。
「そんなに平気な顔どうしてしてるんだよ」
「姉は何で?」
姉はちょっと迷って、無難じゃないほうの回答をする。
「別に美味しくて毒がなかったら何でも食べるわよ?」
「私はそれに栄養が多ければもっと嬉しいかな。人のお肉って分解しやすそうだよね」
そうじゃねぇよ、と3人に突っ込まれた。
あれ?
「会田さん、史緒おねえさん。お二方本気でいってますか?」
「それは私に対しては愚問ね大月君。」
姉は檜の手の中にあるノートをパラパラとめくる。
「死んじゃったら仕方が無いじゃない」
「私はそうは思わないけど。それですんだら警察要らないし」
「妹よ、じゃあ何で平気そうなの?」
「だって、死んで一番困る人が食べたんだよ?」
なら問題が発生しない。
「だからいいじゃん」
「「「良いわけあるか!!!」」」
意外と常識人なのね3人とも。
当人達なのに、なんというかそういう苦悩をまだしているか。
「なら隠した真実、あとで説明してよ。そしたらノート処分は私がする。ほらこれで共犯だ」
「妹が共犯になるなら、姉はあえて自首をすすめないことにしましょうか」
姉からノートを引き受けて、3人に微笑みかける。
まずはお掃除からと姉妹で皆を掃除に戻す。
さ、お片づけをしましょう。
姉と沙門さんが仏壇の用意をしている間に、3人でダイニングでお茶を飲む。
ここから姉の仕事の領域らしい。
「んで?」
「……おれ、親父に暴力振るわれてて」
話は檜の母が亡くなったことから始まる。
妻を亡くした夫は、空しさを暴力にかえ矛先を息子に向けて振るっていたらしい。
そんな友の姿を見かねた久星や大月が、彼を家に泊める。
数日振りに家に戻ると父は息子だけではなく二人にも暴力を振るった。
ほんの少し、檜は友を守るために友人の手を引いて。
そのせいで、彼は前のめりに頭を強く打った。
あっけなく父は死んだそうだ。
これは殺人というよりは事故だな。
「んで、なんで食べたの?しかも3人で仲良く」
提案は檜で、協力したのは友人二人だ。
最初は解体して運びやすくしてから、どこかに埋める予定だった。
そのためにまずは父の捜索願をだしたそうだ。
ところが発生した例の食人鬼の事件に、運び出すに運び出せない。
あまつには、容疑者宅として見張られる始末だ。
考えた結果が、証拠隠滅のための食人。
解体は久星が、食品加工は大月が、そして調理は檜がした。
3人が私を避けるようになったのは、この件に関わらせたくなかったのが一つ。
もう一つはお昼のお弁当にもしっかりと父肉が使われて3人のお弁当の中身になっていたからだ。
確かに3人同じお弁当だったら、私も首をかしげる。
だからあんなに肉々しいお弁当だったわけか。
「んでも残りは?」
「浅木さんが」
檜と私が襲われたあの日、やはり久星と大月が尾行していたらしい。
檜が襲われて、私がさらわれたときに、まず久星が飛び出したそうな。
けれどもスタンガンでアウトー、で様子を見ていた大月は自動車ナンバーを確認。
相手が去るのを見届けてから我が家に檜を引きずっていった。
それを聞いた浅木さんが一言。
『おお、ナイス犯人。お前らオレと肉取りに行くぞ』
まずはのびている久星を回収して、無理やり起こす。
残っていた肉を浅木さんが大月と取りに行っている間に、姉は自動車ナンバーを照合。
犯人宅がわかったところで、檜宅から監視の目を逸らすために姉が通報。
檜の家から肉を回収して、浅木さんが犯人宅へ向かって後は私も知っている。
お茶を一口すするが大分ぬるくなってしまった。
3人の言葉は重かったせいもある。
「ってことは、浅木さん3人がお父さんさばいてるの知っていたんだ」
「そんな魚さばくみたいなニュアンスでいうなよ。すっげー大変なんだぞ、電動器具使わなかったから」
解体担当の久星がぼやいた。
「あの勉強会の時ばれていました。誰とは言いませんでしたが」
「残りの肉とか、骨は食べるとかで持っていったよ彼」
そりゃ、本物だな彼も。
私は納得してから空の大きなタバコ皿をテーブルの上に置いた。
「もういらないね、このノート」
「というか、内容覚えてる」
「んふふ。」
檜の疲れたような顔を見ながら含み笑いをして、タバコ皿にノートを置く。
姉が用意したマッチを擦って、独特の匂いを鼻で感じ取りながら火をつける。
「お疲れ様、3人。ごちそうさま、檜のお父さん。美味しかったよ」
ぽとりとマッチを落とすと、血に染まったノートは美しく燃えた。
4人でそれが燃え尽きるまでは静かに眺めていた。
この一時だけは誰にも邪魔されずに4人で時間を過していたかったのだ。
誰にも裁かれない。
誰も咎めない。
誰も生きている人間は損をしない。
こんな素敵なことはなかなか無い。
殺しではなく事故なら尚更に。
食人鬼はもう既に世を去っている。
人は食人鬼を殺した人間が自分たちの生活を脅かさなければ忘れ去り。
すべては過去のものになる。
食人鬼による殺人事件 完
文には3人の心境を考えることが抜けています




