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食人鬼による殺人事件 05

 月曜日からテストと同時に半日で学校が終わる。

 久星が頭を抱えていた。

 結局駄目だったのか、数学。

「色々ヤマ勘が外れた……」

「どんまい」

 大人しく日曜日に頑張ってればいいものを。

「対策プリントは全部やったぞ」

「あくまで対策なんだから、基礎ができてなきゃ意味ないってことでしょ?」

 再び机に伏す少年久星。

「久の字は駄目駄目?」

「そうらしいよ千里。英語どうだった」

「リスニング以外は。いつもそれで点落とす」

 気にしてない様子な彼女は久星を見下ろしながら呟く。

「私も食べたかったシフォンケーキ。史緒さんお手製」

 土曜日のことを話したら、姉と同じことを言われた。

 そして彼女は今シフォンケーキに飢えている。

「今度焼いたとき持ってくるよ。お昼一緒に食べてデザートで食べよう」

「……早く中間テスト期間おわらないかな。お昼無い」

 楽しみだという言葉を口にせず、体を揺らして彼女は表現する。

 姉に頼むか。一人ご飯より千里がケーキを所望している。


 掃除の時間は割り当て的に学校周りの掃除で、別のクラスの大月の班とかち合う。

 皆が知り合い同士で掃除に回ると大月がこちらに小さなごみ袋を持ってやってきた。

「いきましょうか」

「確定なのね。部室裏がきたないからそこに行こう」

 大月か。土曜日のことがあったから一番二人きりになりたくなかったなぁ。

 軍手をはめながら場所に向かいつつ話す。

「あのあと、何もされませんでしたか?」

「ああー、大丈夫。危惧されるようなことは何もなかった。さすがに夕飯はお魚食べたよ」

「普通に久星がハンバーガーを帰りに買っていたことを比べると、女性らしい」

「2食ハンバーガーか。やるなぁ」

「どこがやるんですか、どこが」

 主にお菓子の空き袋や缶を回収しながら清掃にはげむ。

 部活、まともにやってる所が少ない上に、テスト期間中はここ来るの禁止になってるから人がいない。

 いつもはちょこちょこサボりがいるらしいけど。

「……会田さんは、血を見ても平気なんですね」

「そこまで精神弱そうに見える?」

「黙っていれば」

 相変わらず辛いな。

 黙っていればは、家の3代続く伝統芸だ。

「残念なとかいうな」

「今日は言ってませんよ」

 ああいえば、こういう。

「少し興味がありました。あなたが怖がる物はなんだろうと」

 大月は背中を向けて空き缶を拾っている。

 私も足元に目線を落として、その言葉に返す。

「姉。昔は父と母もいたけど。死んじゃったし」

 好きだけど、私には恐怖の対象でしかない。

 だから両親が死んだと聞いたとき、信じられなかった。

 死体を見たとき、作り物ではないかとさえ疑った。

「……会田さん、時々あなたは返す言葉が無くなるものを口にしますね」

「だから黙っていれば、なんでしょう。」

 あまり、友人らを家族に関わらせたくないのはそのためだ。

 姉に警告もかけたのは前科があるからだしね。

「大月は無いかな。好きだけど、怖いもの」

「ありますよ。ニュアンスは変わりますけど」

 そろそろいいだろうか、時間もいいかな。

「そろそろ戻ろうか」

「会田さん」

 振り返ると真後ろに大月が立っていた。

「ん?」

「あなたなら、檜を救えるかもしれない」

 どうしてそこで彼の名前が出てくるのだろうか。

「檜、どこか具合悪いの?」

「中間テストが終わるまでは支えます。彼を僕たちとは違う方法で救ってください」

 大月の表情は神妙なのが妙におかしくて、それと同時に見上げた彼の言葉が気になってしかたがない。

「それって、土曜日の件は絡んでる?」

「一部分においては。問題はもっと以前に発生していますけれども」

「なら、手伝う。救えるかはやってみないとわからない」

 彼がやんわりと笑んだ。

「ありがとうございます」

 とても珍しい、大月の素直な言葉だった。


 檜に会いに行こうと教室を出たところ後ろから捕獲された。

「会田さーん。一緒にかーえろ」

「小向先輩でしたか」

 断ろうと思ったが、背後から回された腕の力が強い。

「わかりました。ご一緒します」

「ありがとう。ついでにお茶して勉強していこうか。おごるからさ」

 嬉しそうに彼は私の首元に顔をうずめた。

 皆、勘違いしないでくれ。付き合ってないんだからね。

 自転車に二人乗り、先輩は駅組なので私の自転車を前でこぐ。

 優男に見えて相変わらず男らしい力の持ち主だなと思う。

「なんかあったでしょ、昼食3人組と」

「わかりますか。それを解決しようとしたら先輩にお誘いを受けましたが」

「わかるよー。中学生の時からの付き合いだしな」

 駅前から少し奥に入ったところにある喫茶店の前に自転車を彼はとめた。

 小さな喫茶店だったが、雰囲気はレトロでくつろげる気分にさせる

「一押しはコーヒー、ミルクティー派はココアがオススメ。」

「じゃあココアで」

 注文をして明日のテスト科目の教科書を取り出す。

 人が少ないので少し長居しても大丈夫だろう。

 もし、先輩が何かしても一つテーブルを挟んでむこうに浅木さんと沙門さんいるし。

「……ん?」

 小向先輩にジェスチャーで後ろの席をしめし、そっと唇に人差し指を当てた。

 彼はそれに意地悪く笑ってうなづき返し、黙ってノートを開く。

 そうすることで狭い店内で二人の声がよく聞こえる。

「どこまで進んだ、浅木」

「いくつかそれっぽい事件ピックアップして今井に照らしあわさせてる。ここらへん都内と違って私立高校少ないし、私立小学校中学校なんて片手数しかないから手間は都内で探すよりはすぐ結果が出る」

「依頼で遊ぶなよ。史緒がキレるぞ」

「土曜のあれは、オレが文さんに会ったからキレたんだ。潔癖症だなぁ史緒」

「……どう考えてもアレのせいだろう。あの時の史緒の顔は忘れられない」

「アレか。史緒、あの時あいつが終わらせていなかったら発狂してたんじゃないかな」

「かもな。どちらにせよ、勝負に勝って試合に負けた形だ」

 やっぱり何かをお探しのようで。

 ココアのカップに息を吹きかけて口にする。あ、おいしい。

「だめかなぁ、オレあんなに素直な史緒見れるなら、本性隠して二人並べてニヤニヤ愛でたい」

「それが予想できるから住所隠してたんだろう」

「今井に抜けない情報は無いから無駄なあがきだ」

「話し戻すぞ。依頼人の要請は完全根絶。社長の史緒はなるべく穏便に済ませたいと思っている」

「無理だね。オレ犯人に目つけられただろうし。きっと犯人も愛染からオレの行方突き止めてアクションしてくる。それを穏便にすますってほうが甘い。史緒はわかって言ってるからいいさ」

 なるほど。こっからは18禁もとい、犯罪関わるから姉は止めたのか。

 死体担いでくるぐらいだからな。

「もう一つ史緒から。文の友人3人組については調べは」

「ああ、あいつらか。望んでしてないなら一度少年院に入ったほうがいい。オレらみたいに良心の呵責が無い人間と違うし、揺れてるなら表の判決をもらったほうが更生する。史緒はそこまでさせたくないだろうけど、文さんのためにも内緒でやっておこうかなーと。昔のオレや皆を見るようでさ、懐かしくも心苦しい」

 ……内緒になってないよね。

 笑ってないでください小向先輩。

 会話聞いているのがバレてしまうじゃないですか。

 メモで注意すると、返事がメモで返ってくる。

『そこまで器量の狭いように見えるんだね、とんだ勘違いだ』

 なんせあなたとこうやってお茶するぐらいですからね、先輩。

 とにかくこのままじゃまずいと思って、メールをポチポチと打つ。

 送信っと。

 せんどまいめーる。

「あ、噂をすれば文さんからメールだ。テスト期間なのにやっぱ優しい……」

 本文は『見ているぞ』です。

 浅木さんの視線がこっちに飛ぶのがわかった。

 目に映るのは私の後姿だ。

「どうした浅木。」

「……ごめん。愛染。店の入り口チェックはオレの役割だったのに」

 あ、沙門さんも振り返ったな。

 ワンテンポ遅れて声がかかる。

「文?!」

「しっかり聞きましたので。」

 振り返らずにそう言うと小向先輩が笑い声をかみ殺すのをやめた。

「あっはっはっは、会田さんさすがだ。いいこと聞いたよ」

「先輩笑い事じゃないです。姉の知り合いに友人たちの人生いじくられてたまるか」

「なら、手伝おうか」

「強いですよ。姉のそばにいる人ですから」

 小向先輩は口元に手を当てて笑いをこらえている。

「俺も文の傍にいるのに?」

 スイッチ入れないでください。せっかく美味しいココアのお店紹介していただいたのに。

 首元が寒くなって仕方が無い。

「……史緒手遅れ」

 浅木さんのつぶやきが印象的だった。


 『浅木一期は命に誓って久星、大月、檜の3名に変な手を出しません。』

 そう念書を書かせて署名させる。

 そして沙門さんに伝票を手渡した。

 姉に黙っているなら安い取引のはずだ。

「はい、書いたよ文さん」

「確かに。姉には今日会ったことは黙っておきますね」

「よろしくお願いします。オレの凡ミスだなぁ」

「実行に移したあと会田さんにバレるよりはましだと思うけど」

 そうなったら鉄拳制裁が入るな。

「お互いにバレてよかったですね」

 浅木さんたちのいたテーブルに移ってココアの残りをすする。

 小向先輩はただニコニコと黙ってその場にいてくれる。

「……彼氏?」

「いいえ」

「残念なことに。許してもらえなくて」

 浅木さんはうぇと眉をしかめた。

「しっかり手綱握ってるところは史緒より一枚以上上手だ」

「姉はしっかりしているように見えて、抜けてるし放任主義なんです」

 ココアを飲み終わって立ち上がる。

「ご馳走様です。完全根絶がんばってください」

 お昼を食べに行こう。こうなったら久しぶりに先輩とお昼ご飯だ。

「ああ、お二方」

 小向先輩がぐいっと私の体を引いて、抱きしめるように私の首前で腕をクロスさせる。

「文のお姉さんの友人とはいえ、文に手をだすなら覚悟してください」

「ガキがよくいう」

 浅木さんが目を細めてそのケンカ言葉を買う。

 苦しいよ、小向先輩。本気で絞めないでください。

「先輩、ロープロープ」

 腕をタップして緩ませた腕の袖ををそのままつかんだ。

「それでは」

 また説明しなければならない人が増えてしまった。


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