プロローグ~姉、両親とすれ違う~
昔から姉に事ある度に言われ続けた言葉がある。
『気をつけなさいな、妹よ。あなたは私と似ているから』
よくわからない顔をすると姉は苦笑して私の頭を何度も撫でた。
そんな姉が失踪したのは彼女の中学校の卒業式後。
両親はもちろん、姉の知人は皆が心配したが残したのは手紙一枚。
『しばらく出かけます。探さないでください』
けれども、姉は戻ってこなかった。
それから5年ほど時はすぎ、私が高校の入学式から少したった。
今、私の目の前にはたった今焼けた両親の遺骨がある。
交通事故だった。幸いと思ってしまうのは二人が即死だと聞いたせいだろうか。
「さぁ、文ちゃん。お骨入れましょうね……」
叔母の声に促されて震える指で箸をとる。
「あ……」
父の骨が箸からこぼれ落ちた。
それを素手で受け止める細くて白い指。
「小さくなっちゃって、父さん」
女性の指はひょいひょいと動き、父と母の骨をそれぞれの骨壷に入れていく。
「待たせてごめんね、母さん遅くなって」
その場で彼女を知っている皆は固まっていた。
「ただいま。文」
全身黒のスーツ姿をした女性は私のほうを向いて笑う。
「史緒お姉ちゃん」
それが姉との再会だった。




