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Short Short Circuit

豆の木を

作者: 境康隆

 少年は豆の木を登っていた。

 小さく硬い豆。牛と交換で手に入れた豆。そのことで母に叱られた豆。その母に庭に捨てられた豆。

 翌朝気づいてみれば、その豆が芽吹いており巨木となっていた。

 少年は牛との交換で豆を得た時のことを思い出した。

 豆の前の持ち主は、この豆を魔法の豆だと言った。そもそも魔法の豆でなければ、牛となど交換しない。

 やはりこの豆は魔法の豆だったのだ。代わり映えのしない日常にもたらされた非日常なのだ。

 少年は迷わず豆の木を登った。

 青々とした葉。白く可憐な花。早くも実り始めた豆。掴んでも切れないツル。何よりどんなに体重を預けても折れない丈夫な枝。

 それらをかき分けて、少年は豆の木を一心不乱に登った。

 辿り着いたのは雲の上。巨人の国だ。

 少年は雲の上の巨人の国を隅々まで見て回った。 

 見つかればどうなるか分からない。だが好奇心が全てを上回った。

 目に入るもの全てが初めて見るものばかりだった。一日ではとても回り切れない。

 少年は翌日も豆の木に登り巨人の国を見て回った。

 少年は日が昇っては、己も豆の木に登り。日が沈んでは、自分も豆の木から降りるを繰り返す。

 日々眺めても巨人の国は飽きがこない。景色も宝物も全てが少年の心をとらえた。

 やがて彼は気に入った宝物を見つけては盗み出すようになった。

 毎日のように豆の木を登っては、巨人の国で不思議な品を盗んで回る。

 そしてついに見つかってしまい、少年は命からがら逃げ出した。

 巨人の手が少年の体をとらえとうと、音を立ててふるわれた。

 少年はその手を頭を引っ込めては避け、体を捩っては逃れた。

 巨人は憤怒の形相で追いかけてくる。雲の上だというのに地響きを立てて少年を追い立てる。

 少年は踏み潰されそうになりながら、また叩き潰されそうになりながら逃げ回った。

 やがて自分が登ってきた豆の木のところまで、少年は命からがら逃げてきた。

 少年は豆の木に飛び乗った。慌てて身を滑らせてその豆の木を降りようとする。

 だが巨人は追ってこない。雲に突き出た豆の木の前で悔しげにほぞを噛んでいた。

 そう、その豆の木は巨大ではあるが、巨人のその身と比べるとやはり豆の木としか言い様のない細さに見えた。

 巨人は雲の上で怒りに震えていた。姿はまだ見えるが追いかけることのできない少年に、はらわたが煮えくり返っているのだろう。

 少年は安堵に胸を撫で下ろした。

 少年がどんなに体重を預けても折れない丈夫な枝も、巨人にはそうではなかったらしい。こんな細い木に身を預けたら、巨人の巨体を支え切れずに豆の木は折れてしまうだろう。

 掴んでも切れないツルにつかまりながら、青々とした葉と白く可憐な花の間から巨人を見上げる。

 巨人が雲の上で悔しげに足を踏み鳴らした。

 少年はそんな巨人をせせら笑いながら地面を目指して降りていった。

 だがそんな少年の頭に何かかが降り注いだ。

 小さく硬い何かだ。

 それが雨霰と降ってくる。

 少年は直ぐに理解した。それはこの豆の木に早くも実り始めた豆なのだ。

 豆は巨人が雲の上で足を踏み鳴らす度に、その衝撃に落ちてくる。ざあざあと落ちてくる。

 流石は巨大な豆の木。その豆の量も半端ではなかった。

 少年は思い出した。少年が手に入れた豆は、たった一晩で巨木に成長した。

 その豆が豪雨のように地上に降り注ぐ。

 少年は考えてしまう。それがやはり一晩で成長したら?

 森のように成長した豆の木々は、楽々とその身で巨人を支え――

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