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ガチャ爆死で異世界召喚されたけど、スキルが『無料10連ガチャ(99%低レア)』と『コメント欄』しかない ~ゲーム知識でがんばります~  作者: ころにゃん


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第2話 スキル2個って何ですか?(後編)

翌朝。冒険者ギルドに登録しに行くことになった。まずは着替えから——なんだけど。



ちなみに、着替える時に「見るな」と全力で念じたら、コメント民の視界が遮断された。


『真っ白になった!』


『映像復旧しろ!』


『プライバシー保護機能とかいらん』


いや要るでしょ。トイレでも自動で遮断されるらしい。プライバシー機能、ちゃんとあるじゃん。



王宮を出て、冒険者ギルドに向かう。


外に出ると、異世界の街が広がっていた。昨夜は暗くてよく見えなかったけど、昼間の街は活気に溢れてる。石畳の道に屋台が並び、獣耳の人や、ローブの魔法使い、ごつい戦士がうろうろしてる。


空は青くて、太陽は1つ(月は2つなのに太陽は1つなんだ)で、空気がきれい。


「リルア、行こっか」


「うんっ!」


リルアが嬉しそうに私の隣に並んだ。


そして、当然のように手を繋いできた。指と指を絡めるやつ。


「り、リルアさん?」


「だって、迷子になったら大変だもん」


「手の繋ぎ方がちょっと……」


「ダメ?」


上目遣い。うるうる。後光がしょんぼり。


「ダメじゃない! ダメじゃないです! 行こう!」


「えへへ」


すれ違う人たちが微笑ましそうにこっちを見てる。おばちゃんが「あらあら、仲良しねぇ」って。


「ひなたちゃん。なんだかカップルみたいだね」


「なっ……! カ、カップルって、リルア知ってるの?」


「さっきすれ違った人が言ってたの。"あの二人、カップルかしら"って」


「違うよ! ただの女神と勇者だよ!」


「女神と勇者って、カップルじゃないの?」


「じゃないよ!?」


「そっかぁ。ざんねん」


残念なの?


残念って言ったの今?


『カップルです(断定)』


『手の繋ぎ方が恋人のそれ』


顔が熱い。異世界の太陽のせい。太陽のせいだから。



冒険者ギルドは、街の中心部にある大きな木造の建物だった。酒場みたいな雰囲気。扉を開けると、ガヤガヤと賑わってる。


受付カウンターに向かうと、栗色のポニーテールの女性が座っていた。


制服姿で姿勢がよくて、すらっとしてて、切れ長の目が知的で――。


あ、きれいな人。


「いらっしゃいませ。新規登録ですか?」


「はい。王宮からの紹介状があります」


紹介状を渡すと、受付嬢さんが目を通した。


「……R女神の召喚勇者。スキルは――"無料10連ガチャ"と"コメント欄"」


声に出して読まないでほしかった。周囲の冒険者が数人チラッとこっちを見た。


「エルナ・フォーチュンと申します。この支部の受付を担当しています」


「桜庭ひなたです。よろしくお願いします」


「桜庭さん。一つ聞いてもいいですか」


「はい」


「"ガチャ"というのは……もしかして、毎日引けるタイプですか?」


……ん?


目の奥で何かに火がついたような。


「え、はい。毎日0時に10連が引けます」


「10連……!」


エルナさんの声が裏返った。事務的な仮面が剥がれて、別人みたいな表情になった。


「排出率は……?」


「N90%、R9.994%、SR0.005%、SSR0.001%です」


「0.005……! SR0.005……!」


エルナさんが両手でカウンターを掴んだ。身を乗り出してきた。近い。顔が近い。切れ長の目がキラキラしてる。


『なんだこの受付嬢』


『急にスイッチ入ったぞ』


「天井はありますか? ピックアップは? 期間限定は?」


「えっと、たぶんなくて……」


「天井なしの0.005%……。それは、ロマンですね」


「ロマンっていうか地獄っていうか」


エルナさんが咳払いをして、事務的な顔に戻る。……戻りきれてない。


「失礼しました。私事ですが、前世で……いえ、なんでもありません」


今「前世」って言いかけたよね?


エルナさんの目がほんの一瞬だけ遠くなった。懐かしいものを思い出してるような、それでいて少しだけ痛そうな目。


「あの、エルナさん。もしかして――」


「い、いえ! なんでもありません。忘れてください」


エルナさんが髪をさっと直して、姿勢を正した。受付嬢モードに戻ろうとしてる。……でも目の奥にまだ、さっきの熱が残ってる。


ソシャゲの排出率を聞いた時の食いつき方。「前世」という言葉。あの目。


この人、絶対に何かある。


でも今は追求しないでおこう。初対面で踏み込みすぎるのはよくない。ソシャゲーマーの勘が「この人は味方だ」と告げてるから、それでいい。


エルナさんの目がやわらかくなった。切れ長の目に、ほんの少しだけ親しみが滲んでる。


「……桜庭さん。排出率を聞いただけなのに、こんなに嬉しいのは初めてです」


「え?」


「い、いえ! 今のは忘れてください。と、とにかく! 登録を進めましょう」


頬がほんのり赤い。


この人、仮面の下にすごい熱量を隠してるタイプだ。


リルアの後光が、ちょっと暗くなった。


横を見ると、リルアがむぅっとした顔をしていた。


「……ひなたちゃん、あの人と盛り上がってたね」


「ガチャの排出率の話しただけだよ?」


「はいしゅつりつ……? 私の知らないお話で盛り上がってた……」


後光がさらにしょんぼり。


「リルアにも今度教えるから。ね?」


「……ほんと?」


「ほんと」


後光がじわっと戻った。嫉妬バロメーター、敏感すぎない?



登録手続きが終わって、ギルドカードが発行された。


……灰色だった。


カード全体が灰色。背景も灰色。文字も地味。


ソシャゲのNカードと同じ配色。


「あの、エルナさん。このカード、色って選べます?」


「ランクに応じて自動です。Fランクは……その、灰色です」


「ですよね」


「ちなみにSSRランクの方は虹色に光ります」


「その情報は聞いてない」


レクトちゃんのカード虹色なんだ……。


リルアが私のカードを覗き込んだ。


「わあ、ひなたちゃんのカード!」


「灰色だけどね」


「でも、ひなたちゃんの名前が書いてある! 私の名前も! "所属女神:リルア"って!」


「……そこ喜ぶんだ」


「だって、ペアだよ? カードでもペアなんだよ?」


リルアが灰色のカードを両手で持って、きゅっと胸に抱えた。


……灰色でもいい気がしてきた。


エルナさんがそのやり取りを見て、柔らかい目をしていた。


……少しだけ、寂しそうな目でもあった。


「……桜庭さん」


「はい」


「その、毎日のガチャ結果なんですが。私にも教えてもらえませんか。データを……まとめたいので」


頬がほんのり赤い。


「いいよ、もちろん! ガチャ仲間だね!」


「ガチャ仲間……!」


エルナさんの目がキラキラ輝いた。事務的な仮面がまたちょっとずれてる。


「ありがとうございます。毎朝、楽しみにしていますね」


リルア(後光暗め)「……私も楽しみにしてるのに」


「リルアが一番だよ?」


後光復活。



ギルドを出た頃には夕方で、空がオレンジ色に染まっていた。


宿に戻って、ベッドに倒れ込む。


異世界2日目。


スキルは2個。ランクはF。ギルドカードは灰色。


でも、ガチャ仲間ができた。女神さまは隣にいる。


悪くない、のかな。


「ひなたちゃん」


リルアが、もじもじしながら私のベッドの横に立っていた。


「あのね……お願いがあるの」


「うん」


「今夜も……一緒に寝ていい?」


「え? リルアのベッドあっちにあるよ?」


「あるけど……ひとりは怖いの。暗いと後光がしょぼくて余計に暗くて……」


リルアの後光をちらっと見た。ロウソク。確かにこれじゃランプにもならない。


「お願い……ダメかな?」


上目遣い。指先で私のシーツの端をぎゅっと掴んでる。


こんな顔されて断れる人間いる?


「……おいで」


「! いいの!?」


「いいよ。おいで」


布団を持ち上げてあげると、リルアがすごい勢いで潜り込んできた。


そしてすぐに私の腕にくっついた。


「えへへ……ひなたちゃんのベッド、ひなたちゃんの匂いがする」


「嗅がないでよ恥ずかしい」


「いい匂い。安心する匂い」


「……もう」


コメント欄が流れてるけど、「見るな」と念じた。


『また真っ白に――』


『おい大事なとこだろ!』


『プライバシーフィルター仕事しすぎ』


『視聴者はモヤモヤしてます』


騒いでるけど、知らない。


今は、二人きりがいい。


リルアが私の腕に顔を埋めた。銀色の髪が広がって、後光がふわぁっと柔らかく光る。


さっきまでロウソクだったのに、今は暖炉くらいの温かさ。


「ひなたちゃん」


「ん?」


「今日、鑑定でスキルが2個って言われた時……悲しくなかった?」


「うーん……ちょっとだけ」


嘘。ちょっとじゃなくて、すごく怖かった。


でもそれは言わない。


「ごめんね」


「リルアのせいじゃないよ」


「でも、セラフィーナちゃんのところは7個で……私のところは2個で……」


「リルア」


「……はい」


「昨日言ったでしょ。推しは性能じゃないって」


「うん」


「スキルが2個でも7個でも、リルアが私の女神さまなのは変わらないよ」


リルアが顔を上げた。


近い。すごく近い。


青い目がうるうるしてて、後光がぽわぽわ光ってて、唇がちょっと震えてて。


「ひなたちゃんは……すごいね。私、今まで誰にもそんなこと言ってもらったことない」


「そう?」


「うん。"Rだから"って、"どうせハズレだから"って、みんな見向きもしなかったの。でもひなたちゃんは……私を見てくれる」


「……見るよ。だって私のたった一人の女神さまだもん」


言った後で、ちょっと恥ずかしくなった。


リルアが真っ赤になった。


後光がぼわっと明るくなって、暗かった部屋が一瞬だけ昼間みたいに照らされた。


「わっ、まぶしっ!」


「ご、ごめんなさい! 勝手に光っちゃった!」


慌てて後光を抑えようとするけど、ぽわぽわ明滅が止まらない。


嬉しい時は光って、悲しい時は暗くなって、照れると暴走する。


感情ダダ漏れ後光。


「ね、寝よう! 明日は0時にガチャだし!」


「う、うん! ガチャ! 楽しみ!」


リルアが私の腕にぎゅっとしがみついて、目をぎゅっと閉じた。後光が少しずつ落ち着いていく。キャンドルくらいの光量。


ちょうどいい明るさだ。


……今日、鑑定室で感じた「怖い」は、まだ消えてない。


スキル2個で、この世界を生きていけるのか。ゲームの知識だけで、本当に戦えるのか。


わからない。


でも隣に、あったかい女神さまがいる。


それだけで、もうちょっとだけ頑張れる気がするのは、たぶん甘えだ。


でもまあ、今はいいか。


「おやすみ、リルア」


「おやすみ、ひなたちゃん。……明日も一緒だよ?」


「一緒だよ」


「……えへへ」


R女神の後光に照らされながら、異世界2日目の夜が更けていった。


明日はガチャ初回。


N90%。ゴミの山が来る。


でも、ソシャゲで3年間やってきたことを思い出す。


ゴミに見えるアイテムの中に、誰も気づいていない使い道を見つけること。それが私の戦い方だった。


低レア攻略の専門家は、低レアスキルで異世界を生き延びてみせる。


……たぶん。


おやすみ。


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